第41話 俺の失敗その2
「そうだめざめのあさがきたー! みんなげんきにおきよーよー!」
強烈な歌と言うか声に思わず飛び起きる。
あ、明るい。
ここは誰私はどこ?
一瞬混乱したが徐々に意識が正常化していって気付く。
目の前に大きく見えるのはカタリナで、ここは新しい開拓村予定地だ。
どうやら昼寝中の俺をカタリナが歌らしきもので強引に起こした模様。
「ごめんね、つい熟睡しちゃった」
周りを見る。
太陽の角度から見ると結構時間が経っている模様。
「気持ちよさそうに寝ていたので申し訳なかったのですが、そろそろ帰らないと暗くなりそうだったので……」
サリナが申し訳なさそうにそう教えてくれる。
「ううん、起こしてくれたありがとうね」
「お姉ちゃんのぶんのお弁当もみんなで食べた。美味しかった」
おいカタリナ!
確かあのお弁当、リーザさんが『美味しい事で評判の
あああ食べたかったのに!
でもまあ仕方ないか。
寝ている方が悪い。
「それじゃささっと農道を作って、それから帰ろうね」
「でも魔力は大丈夫なの? かなり家作りで使ったように見えたけれど」
リーザさんの言う通り、魔力はかなり減っている。
熟睡したとは言え昼寝だけでは回復しきっていない。
でも実は俺には奥の手がある。
魔力をほぼ使い果たしても余裕で帰れるし、更に開拓に役に立つという奥の手が。
「大丈夫よ。じゃあまず農道を作るね。どどどどとっとこ
だだーっとマス目のように農道が出来上がっていく。
なお道そのものは住宅地と同じ舗装道路だ。
舗装と言ってもコンクリやアスファルトではなく石と焼いた土だけれども。
広さもあって俺の魔力もかなり消耗した。
残りでギリギリ街まで飛行できない事もないかな程度まで。
「さて、これで明日は洪水対策と濠作りだね」
「まさかここまで1日で終わってしまうとは、やっぱり想定外よね……でも本当に大丈夫? 何なら光属性で回復をかけるけれど」
「リーザさんありがとう。でも大丈夫。この村の開発にも便利なちょっとした便利道具を使うから」
さて移動の前にいつもの服に戻っておくか。
「メタモルフォーゼでメイクアップ!
この方が慣れていて飛行も出来て色々便利だ。
「ゆんゆんやんやん
移動先はネイプルの街ではない。
今作った街の街門のひとつ、南側の門だ。
北側は住宅地に近く雑木林が多く薪拾いに適している。
西側はネイプルの街に近い。
東側はやはり川に出たり将来的に他の街や村と接続したりに使える。
でも南側は特にいまのところ用途が無い。
だからちょっとだけ別の用途に転用するつもりだ。
「この門を何か改良するのですか?」
「ええ、ちょっとだけ」
俺はリーザさんにそう告げるとポシェットからおなじみ簡易転移門を取り出す。
「えっジョアンナお姉ちゃん、まさかそれを使うのでしょうか」
サリナは気付いたようだ。
「その方が開拓村を作るのに便利だしね。ここに道路を作るまでの間、固定的に使おうと思って」
門の両側に土魔法で埋め込めばセット完了だ。
「リーザさん、今埋め込んだものについては見なかった事にしてください。こういう道具があるって事が知られたら後程色々面倒なので。
それじゃまずあの宿屋へ行くよ」
ネイプルの街にはいまのところあの高級宿にこっそりセットした転移門しかない。
だからとりあえず行先はあの宿だ。
「今回は持ち帰り可能なひも付き転移門ではないのでしょうか」
「明日も来るからね。それに明日以降は私たち以外もこの村に来て作業をしてもらった方がいいでしょ。だからこの村が軌道に乗ってかつ道が出来るまで、ちょっとだけサービスしちゃおう」
「でも真似されたりしたら危ないですよね」
「出来るもんならしてみなさいって処かな。その程度にはわかりにくい魔法だって自信があるわ」
サリナやカルミーネ君との会話をリーザさんは? という顔で聞いている。
「じゃあ行くよ。さっさと残り作業もしたいしね。あとリーザさん、慣れていないから手をつないで行きます。最初は目を瞑った方が楽ですよ」
転移門を通ってあの高級宿の客室へ。
「はい、目をあけて大丈夫です」
「えっ! ここは何、いや何処!」
リーザさんは混乱中の模様だ。
「泊まらせてもらっている
「えっ、あの何処にでも行けるという伝説の道具! でもそんなものって……」
「何処にでも行けるわけじゃないですけれどね。転移門を置いてある場所同士なら行き来出来ます。それじゃ次はあの中州へ行きましょう。あそこにも転移門をセットしたいですから」
カウンター前を堂々と通って外へ出て、そこから飛行してあの中州へ。
「リーザさん。管理側がきっちり管理できる場所で空いている場所か部屋はありませんか。出来れば荷車を通せるような広さがある場所で」
「建物内だとちょっと無理だけれど、あの地図を受け取った建物が管理事務棟だからその近くなら。でもまさか……」
飛行したまま管理棟と呼ばれた建物の前へ。
建物から見やすく他に邪魔にならない場所を上から見て確認する。
これくらいなら土魔法の
よし!
「どどどどとっとこ
どん! と建物が出現するのはもうお約束だ。
だが今回は建物を作るだけではない。
扉がなく大きく開いた入口の前に降りる。
そのまま歩いて行ってポシェットから簡易転移門を取り出す。
これももう少し作っておこうかな。
ガンガン使うと在庫が心もとなくなるんだよな。
そう思いながら簡易転移門を入口の左右に埋め込んで魔法で起動。
新しい開拓地の村の街門にセットした簡易転移門へと魔法的に直結する。
これで魔法を使えない人でも自由にあの開拓村へ行ける訳だ。
しかも魔法でロックしたのでこの転移門を他への移動へ転用することは出来ない。
「完成しました。念のために確認しましょう」
「これって、まさかと思うけれど……」
「何事も確認が大事ですしね」
全員で建物の中へと入る。
入ったつもりが出たのはあの開拓村の街門だ。
よしこれで大丈夫だぞ。
「それじゃ戻りましょう。これで明日以降は大分楽です」
戻ろうとしてふと気づいた。
リーザさんの反応がおかしい。
立ち止まったままぶつぶつ言っている。
「……確かに便利だけれど……こんなとんでもない代物、こんなに簡単に使ってしまっていいのでしょうか……?」
俺に言うというより独り言のような感じだ。
リーザさんの言う事は常識的にはもっともかもしれない。
でもいちいちあの村に何時間もかけて歩いていくのは時間の無駄だろう。
空を飛べる俺達でさえ、転移門なしで行き来するのは面倒だ。
だからここはまあ、難民支援特例という事で。
「私はまだこの転移門の在庫を幾つも持っていますから。でも他の村に比べて有利過ぎますから、開拓村への道路が出来て村も軌道にのったら回収しますけれどね」
リーザさん、ふうっとため息をひとつついた。
「なんだかもう、ここのパーティとつきあっていると常識がおかしくなりそうだわ。でもありがとう。これなら確かにあの開拓村への移住も捗るし。
でもこれじゃ今日も報告書ね……」
しまった!
またもややりすぎてしまった!
リーザさんお風呂でうふふきゃっきゃ計画が!
ああ、あのたわわな胸を味わう計画がまたもや遠のいていく……
「リーザさん、この建物は!」
警備担当の人がかけつけてきた。
これは昨日とは違う人だな。
「後で皆に説明するわ。とりあえず今日は立ち入り禁止。誰も入らないように注意しておいて」
そう指示した後、リーザさんは俺達の方を見る。
「それじゃ今日のお仕事お疲れさまでした。本当に何と言っていいかわからないけれどどうもありがとう。また明日もお願いね」
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