第38話 開拓村の計画

 長寿族エルフは謎の種族だ。

 主にどの辺に居住しているのか、種族的文化とかはどうなのか、寿命は実際どれくらいなのか。

 その辺全く知られていない。

 だがある程度の人数は普通の人間社会の中にも溶け込んでいるようだ。

 シデリア冒険者ギルド支部長マスターのラシアさんやリーザさんのように。

 人間社会に出てきている長寿族エルフは大体有能だ。

 だから大体何処でも貴重がられている。

 でも彼ら彼女らが人間社会に出てきている理由は不明だ。

 種族的な理由があるのか単に個々の意志なのか、それすらわからない。


 さて、意識をお仕事に戻そう。

 どうも色々雑念が入っていけない。

 俺は冒険者のジョアンナでそれ以外ではない。

 少なくとも今は。

「今日はどんな作業をやる予定ですか。新しい開拓地の下地作りとか」

「正解よ。いつまでも収容施設にいてもらう訳にはいかないしね。ここから南西、オーレア川の中流に新たに開拓街と村をセットで作る予定。そうすれば他に手に職を持たない農民も自活できるでしょ。無論最初はある程度の援助をしなければならないけれど。

 既に冒険者に何人か入って貰って事前の魔獣対策とかしてもらっているけれど、ふわふらたんぽこなら今の状態のまま整地や仮拠点の設営が出来るでしょ。だからその辺をお願いしようと思って。昨日夜から中州の方の事務所で図面を引いているから、そろそろ出来た頃だと思うわ。当座必要な資材も揃えている筈」

 おいおい。


「随分突貫作業ですね」

「早ければ早いほど難民対策にかかる総額も少なくなるし、その分手厚い援助も出来る。その辺皆わかっているしね」

 なるほど。

「プロですね」

「以前似たような事例があるしね。シデリアを中心とした開拓区域、あれも似たような理由で出来た場所だから。無論難民の数と勢いは今ほどでは無いけれど。

 まあその時は私もまだここにいなかったけれどね。でもあの時の経験者はまだ結構残っているし、今度はもっと上手にやるぞって皆思っている」

 そうか。

 そういえば確かに時期的にもそうなのだろうな。


「今度は第1収容施設の川下側にある小さな建物、そこに降りて」

 言われた通り降りてリーザさんの後について建物内へ。

 廊下を通って2つ目の扉をノックして返事を聞かずに開ける。

 小会議用の部屋らしい。

 大机に何人か座って会議をしたり作業をしたり出来るようになっている。

 その机で30歳前後に見える男がふらふら状態で立ち上がったのが見えた。

 前にはいくつかの図面が広がっている。


「やっぱり完徹だった、昨日」

「皆さん色々欲張りましたからね。でもその分案としてはいいものになったと思っています」

「他の皆は帰った?」

「仮眠室で倒れています。とりあえず当番事務までそっとしてやってください」

 彼はそう言って、それからこっちに向かって一礼する。


「領地事務所計画課のパナフェと申します。ふわふらたんぽこの皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。

 早速ですけれど図面の説明に入ります。なお図面はあくまでこちらの理想図で、実際には現場である程度改変していただいてかまいません。今回最重視するのは早さです。具体的に言うと3日以内に8割以上完成した場合、今回予想される難民のほぼ全てに対して余裕を持った支援が出来ます。伸びた場合はその分余裕が無くなります。1月以上かかった場合はかなり厳しい事になります。そんな感じです」

 そういった後、まずは図面の1枚を上に出して広げる。


「これが新設する街と村の全体図です。シデリアと同様、1つの中心街と4つの農村を組み合わせた構造になっています。ただし今回お願いするのはこのうち北西側、ネイプルに近い農村部分、仮称カナレ村と呼んでいる区画です。この部分を急ぐ理由は簡単で、今から2週間以内に入植すれば小麦栽培に間に合うからです」

 全体図のうち北西側、川を挟んだ計画のうち川の手前側の部分を指で示す。


「この地図のように、川に沿ってそこそこ広い平地部分が広がっています。この部分は現在雑木林になっております。十年程度に一度洪水で一度氾濫した為、土地そのものはかなり肥沃であると予想されています。

 これを一気に魔法で焼き払い整地します」

「焼き払うのは私がやるわ。だからその後の整地等をお願いね」

 なるほど。


「ただ洪水が発生すると被害が大きくなります。そこで川底を幅2腕4m、深さ2腕4m掘り下げるとともにこの土砂を川の左右、自然堤防の線へ盛り土します。これで洪水周期は百年に一度以下になると予想されます」

 なかなか綿密な計画だ。

「また農村の居住地そのものは計画地のこの付近にまとめて造成する計画です。これは万が一の大洪水の際に被害を最小限に抑える為と、周辺の魔獣からの被害を少しでも抑える為です」

 なるほど納得。


「そしてこれが仮称カナレ村の詳細図です。この山側の堀は魔獣の侵入を防ぐ為と村や畑の水利の為ですが、作業の進度如何によっては後回しで構いません。その場合は川から水利を得て、野獣対策は臨時雇用の冒険者によるものとします。

 重要なのはここの居住地と畑作区域の造成です。順序としては、

 ① 雑木林全体を焼き払う

 ② 住宅区域の造成

 ③ 住宅の第1計画線である5割まで建築

 ④ 畑全体の造成及び開墾、耕起作業

 ⑤ 住宅の第2計画線(8割)建築

 ⑥ 川の浚渫と堤防強化

 ⑦ 掘割の作成

となります。このうち③が達成された時点で第一次入植者を送り込む予定です。また④が1週間6日以内に達成できれば来夏以降の食糧計画がぐっと楽になります」

 意図は色々理解できる。

 この季節は洪水になる可能性が低いから堤防強化は後。

 あとは小麦栽培を出来るだけ早期に始める為の順番だ。

 住宅の一部を最初に建築するのは畑作業を行う入植者を早期に居住させるため。

 

「なお標準的な住宅の設計図やその他に必要な倉庫等の施設も図面も入っております。ただし今回は最初に申し上げた通り早さを優先させてください。そのための変更等は皆さんの判断で行って頂いて結構です。その為にもリーザさんを責任者として向かわせる訳ですから。

 それでは以上です。失礼します」

 ばたっ。

 そんな感じで彼は机に突っ伏す。

 気力の限界という状態らしい。

 ちょっとだけ回復魔法をかけておいてやる。

 うん、大分疲労していたようだ。

 髪も脂ぎっているし無精ひげも見えている。

 なので余計なおせっかいかもしれないが洗浄魔法も軽くかけておいた。


 リーザさんは机の上に広がっている図面を全て丸めてリーザさん用らしい肩掛けバッグに入れる。

 あれも俺達のポシェットと同じような魔法を使った収納庫だな。

 収納倍率は5倍程度、一般的にはかなりいいものだ。

「それでは次の場所へ行きましょう。昨日シデリアからの物資を届けてもらった倉庫よ。あそこで新しい開拓村へ持っていく資材や食料を仕訳けしているわ」

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