第8章 難民受け入れ作戦(2)
第37話 目覚めの悪い朝
目覚めが悪い朝だ。
理由はわかっている。
昨日、あっさり寝てしまった影響か夜中に目が覚めてしまった。
サリナとカタリナの寝顔を見ているとそのうち手を出してしまいそうなので部屋を出て、ついでにロビーまで散歩してみる。
ロビーにはご自由にお読みください形式の冊子がそこそこ置いてあった。
メインはニュースだの出来事だのを記載した
最新号を何となく手に取ってみたのが失敗だった。
一面の記事は記事はスティヴァレ王国の内戦について。
中立派の多かった中部南側ローリア平原へ王弟派が侵略。
ローリア平原にあるボリーカやカステヤといった街から市民が脱出してきているという記事だ。
難民の件、早くも記事になっている。
俺は内戦について何も知らない。
世情に疎いのだ。
逃亡して数年、主に南部の人里離れた場所にいたから。
しかも色々鑑みるに例の装置に入ったのが5年くらい前だしな。
興味は薄いのだがでも何かが心の何処かに引っ掛かった。
だから冊子のバックナンバーが揃っていたので飛ばしつつ読んでみる。
明け方前には俺はスティヴァレ王国の内乱について一通りの知識を得ていた。
無論この冊子に書かれている事が全てという訳では無いだろうけれど。
この国は北側を険しい山脈、他東南西を海で隔てられている。
だから他国からの侵略は滅多にない。
ほどほどに気候がいいので飢饉等もまず無い。
だからこそ政争だのなんだのに明け暮れている余裕がある訳だ。
話は二十数年前に遡る。
流行病で当時の国王及び皇太子が続いて死去し生き残った第三王子が即位。
だが即位したこの王、つまり俺の父がとにかく王として酷かった。
なまじ国を継ぐことが無いだろうという事でわがまま放題に育ったこいつは、即位したとたんに贅沢と浪費の限りを始めたのである。
王都にある中央宮殿をはじめとする各国王家宮殿の大改築。
毎晩にわたり開催される豪著なパーティ。
週に1度は行われる祭儀。
贅沢の為に上げられる税率。
その癖内政だの何だのには一切手を付けない。
政治の中枢を司る貴族だけではなく官僚や軍人等までも無視できない数が王政に失望して地方へ去った。
上がる一方の税率で暮らせなくなった商人や農民も同様だ。
それでも先代国王の頃から宰相であった先代チェザーレ公爵が生きていた頃はまだ政争は表に現れなかった。
だが10年前、先代チェザーレ公が病死した事でバランスが崩れる。
チェザーレ公爵家出身の第一王妃とその子である皇太子が相次いで病死。
直後に国王が溺愛する第五王妃の子である第五王子が皇太子に擁立される。
だが主要貴族の造反で国王及び皇太子が失脚。
次の王位を巡る第二王子派と王弟派の対立。
第一ラツィオの乱とも呼ばれる王宮内での衝突事案で第二王子派は北部へ逃走。
直後に王弟派は王都ラツィオにて第一王女を擁立し王弟は摂政に就任。
同様に第二王子派は北部の国指定直轄都市ロンバードにて第二王子を擁立。
ここまでチェザーレ公死去から僅か1年だ。
その後王弟派と第二王子派は2回ほど衝突し、現在は小康状態。
互いに周辺の各諸侯を併合したりして勢力増強を図っているところだ。
現在のスティヴァレ王国は概ね3勢力に別れている。
北部の都市ロンバードを拠点にしている第二王子派。
中部の王都ラツィオを拠点としている王弟派。
それ以外及び中立派だ。
情勢及び地形の関係上、ある程度から南はまだまだ中立派と称して様子見の諸侯が多い。
ここネイプルやシデリアも中立派の領地だ。
そしてごく最近、やはり中立派の多かった中部南側ローリア平原へ王弟派が派兵。
結果平民等が逃げて来たのが今回の難民騒動という訳だ。
一介の冒険者であるジョアンナには王家のごたごた等は関係ない。
政治や内戦等には自分の生活に関わらない限り関係ない。
そう自分で自分に何度も言い聞かせる。
ジョーダン・シーザー元皇太子は既に病死した事になっているのだ。
当時の国王すら完全に隠居状態。
だからもう無視してしまえばいい。
そう思っても気が晴れない。
睡眠不足は魔法で回復させた筈。
だけれども何かしこりが残っている感じだ。
「お姉ちゃん、ひょっとして調子悪いですか?」
サリナにそう言われてしまった。
「大丈夫よ。ちょっと朝に弱いだけ」
こういう時は朝風呂でも入って気分を一新したい。
3人の身体をなでなですりすりして心を回復させたい。
だが残念ながらそんな時間の余裕はなさそうだ。
もうじき食事だしな。
取り敢えず無理やりにでも気分を切り替えよう。
「さて、今日は到着した難民の治療回復、開拓地の簡易造成や家作りをやると思うわよ。魔力がいくらあっても足りないから状況によっては
「わかりました」
「了解です」
「わかった」
三人三様の返事が返って来た。
さて、それじゃ朝食に行くとするか。
朝食は確かコースじゃないよな。
ならばこの3人でも大丈夫か。
「それじゃ着替えて食堂に行きましょ。リーザさんが来る前に出る準備をしておかないとね」
◇◇◇
「
でも特にあの何もない処から建物を作り出す魔法、あれはちょっと私でもどうやって出来るか理解できない。土を加工して作ることが出来るというのは理解できるけれど、細部までそれをイメージして魔法として展開するのは正直無理だわ」
本日の現場へ行く途中そんな雑談をする。
確かにこの世界の魔法の知識では無理だよな。
俺も他世界の知識が無ければ無理だったから。
「その辺はまあ、ちょっとしたテクニックがあるんです。魔力的にはリーザさんでも可能な程度だと思います」
「そう、魔力は元々大きいうえにこの衣装で
「特殊な方法の方ですね。まあその辺は秘密ですけれど」
「だよね。でも
おい待てリーザさん何だ今の台詞は。
でも待てよと考える。
今のリーザさんは外見的には20代半ば程度。
でも……
念のためサリナ達の方を見る。
あちこち見たりしているせいか今の会話には気付いていない模様。
良かったと思いつつ、念のためローザさんにしか聞こえないよう秘話魔法をかけて会話を続ける。
「そういえば10年以上前に魔法騎士団副長だった人が今もその外見って事は無いですよね。普通の人なら」
「バレたか……まあ仕方ないかな、ジョアンナさんになら。ラシアもバレているみたいだしね」
「お知合いですか」
「同じ里の出身よ。ラシアの方が年長ね。持ってきた依頼書に
なるほど。
なおどれくらいの年の差かはあえて聞かないでおく。
「ならひょっとして私の正体もバレてます?」
「今の貴方はジョアンナさんだわ。それは心配しなくても大丈夫」
リーザさんはそう言って、一呼吸おいて続ける。
「でももし難民の様子を見て、それでジョアンナさんから一時的にでも昔の名前に戻ろうとするならば、その時は教えて欲しいかな。場合によっては力を貸せるかもしれない。私個人か、私達という立場になるかはわからないけれど」
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