第34話 土木&建築工事魔法

 収容施設3カ所で同じように治療回復魔法をかけた後。

「また飛行をお願い。川を上流に向けて少しだけ」

「ゆんゆんやんやん風の精シルフィたん。どうかお空を飛ばせてね」

 飛行開始。

「ここの中州はもうほぼ一杯。だからもう少し上流に用地を増やしたいの。ちょうどいい中州はあるけれどまだ手をつけていない状態。中州だと洪水対策に色々手間がかかるから急いで上流反対側を開拓しているところだけれど、まだ時間がかかりそうだし出来れば今の場所に近いところに収容所を追加で作りたい訳。

 そんな訳で次は水の魔法と土の魔法をお願いできるかしら」

 なるほど。

 上流へと上っていき今の中州が一度切れ、また別の中州になる。

 こっちの中州は堤防や橋などが無く、まだ自然そのままの状態だ。


「川底を掘るのは街側がいいですか、反対側がいいですか」

「街側が本流だからそっちを優先したいかな」

「ならカルミーネ。ちょっと大仕事になるけれど頑張って。川の中央付近の土砂をそこの中州に堤防のように積み上げる作業。イメージしながら『川底の土よ動いてね』という感じで唱えれば行けると思うわ。あと堤防は収容所がある中州まで繋がるところまで伸ばして。魔力が足りなければ援護するから」

「わかりました。どどどどとっとこ土の精ノームどん! お願いします。どうか川底の土よ動いてください。川の中心部の底からそこの中州へ、堤防のように周りを囲んで下の中州と一体化させて下さい」


 カルミーネ君の呪文はお願い形式だ。

 これもおそらく独自に練習して編み出したのだろう。

 魔力がきっちり強化され増幅されていくのがわかる。

 川底から土が持ち上がって堤防のように中州の縁に積みあがっていく。

 礫と砂が中心なので積みあがりにくいがそこは俺が風魔法や熱魔法で色々処理して固めてやる。

 更にだ。

「支援魔法、魔力供給!」

 カルミーネ君に俺の魔力を供給して援護する。

 本当は無詠唱でやりたかったが以前の俺は単独主義者だったので支援魔法は苦手。

 なので残念ながら詠唱して発動させる。


 今堤防を作っている中州の広さは先ほどの中州とほぼ同じくらい。

 それを魔力を供給されながらだが、何とかカルミーネ君が水害が起きないように仕上げた。

 では次だ。

「次はカタリナの番。この下の中州にはまだまだ水たまりや川の残り部分の水、今運んだ土から流れた水が溜まっているわ。それを全部川へと戻してあげて」

「わかった。さらさらじゃばじゃばおんでーぬ! 水さん川へと戻ってね!」

 これは見ていてなかなか面白い魔法だ。

 水が意志を持ったスライムのようにのそのそと這っていき川へと動く。

 よしよしあとはリーザさんの得意魔法だな。


「それでは少し移動しますので、適当なところでリーザさん、焼き払い宜しく」

 川の本流の上やや街寄りへと移動。

「よし、久しぶりに私本来の魔法で締めるわ。熱波!」

 中州部分を強烈な熱波が襲う。

 湿気ていた土はあっさり乾き、生えていた雑木や草は燃えて灰になった。

 ついでに俺もちょいおまけで魔法発動。

「専門外の魔法ですけれどついでに。整地!」

 土や岩、砂礫が移動してほぼ平らな場所が完成した。


「これで場所は確保できましたね」

「真面目に土木作業をすれば半年はかかるんですけれど。まるで冗談みたいね」

「とりあえずカルミーネとカタリナお疲れ様。2人とも魔力結構限界でしょ」

「そうね。あと一度今できた場所に降りて確認してみたいわ」

 再び移動してさっきの中州へ。


「ここにもう一つ収容所と補助施設を幾つか作るんですね」

「時間的に間に合わなければ雑木や布等での簡易テントになるけれどね。木材も切り出しをしてはいるんだけれど乾燥させないと使い物にならないわ」

 まあそうだよな。

 しかし俺には方法が無くもない。


「カルミーネ、悪いけれど土の強化衣装コスチュームちょっと貸して。代わりに雷属性を貸すから。今日はカルミーネとカタリナの魔法作業はとりあえず終了。大分魔法を使って疲れているからサリナ、回復魔法をかけてあげて」

「わかりました」

 俺はポシェットから紙と鉛筆を取り出してささっと呪文をメモする。

「それじゃカルミーネ君、この呪文で着替えて」

 着替えないと俺が呪文で土の強化衣装コスチュームに着替えた時点で、彼が全裸になってしまう。

 それはそれで俺的には美味しいのだが、ちょっと可哀そうだ。

 それに恨みを買いたくは無いし。

「メタモルフォーゼでメイクアップ! 黄色のイエローサンダー!」

「メタモルフォーゼでメイクアップ! 茶色のブラウン大地アース!」

 俺は風から土へと衣装変更。


「ジョアンナさん。何をする気?」

「収容所の建物も出来る部分は面倒みます。土魔法で作るので少し外見と様式が変わりますけれど」

 魔力は充分。あとはイメージだ。

 屋根とか壁については土で作る場合強度的に最適なイメージはある程度描ける。

 内装は先ほど見た収容所と同じような感じ。

 中は土間だが板を敷けば先ほどと同じように靴を脱いで上がれるように支えをつけておく。

 柱も強度的に十分な程度で。

 土の中にある程度石を組み合わせて強度を保てるように。

 防水が必要な部分は草木灰を塗ってと。

 よし、仕様のイメージは固まったな。

 なら本番の魔法の前に宣言しておこう。

『仕様1 材料:土。柱の一部に石』

『仕様2-1 小区画構造1。横1腕奥行き1腕半。土間。壁高さ1腕。板敷き用支え』

『仕様2-2 小区画構造2。横1腕半。他小区画構造1に準拠』

『仕様2-3 小区画構造3。横2腕。他小区画構造1に準拠』

『仕様2-4 小区画構造4。横1腕奥行き1腕。他小区画構造1に準拠』

『仕様3 柱。直径3半腕。円筒形。高さ屋根構造まで』

『仕様4 受付……』

 ……

 必要な部分の形や大きさを宣言魔法で宣言しておく。

 これは異世界から学んだ方法論だ。

 その異世界では関数宣言とかサブルーチンとかプロシージャとか呼んでいたな。

 こうして部分毎に予め宣言しておくことによってメインの魔法を簡単かつ確実に発動させる事が出来る訳だ。

 全ての部分と形、構成要素の割合等を宣言したらいよいよ大魔法の発動。

「どどどどとっとこ土の精ノームどん! お願い、土を固めて建物にして! 建物は仕様10にて宣言の通りお願いね!」

 これで細部まで完全にイメージしなくても何とかなる。

 宣言した仕様を読み込みながら建物が形造られていく。


「うわあっ、建物が出来た」

「大きい!」

「こんな事も出来るんですか」

 3人が驚いているが作業はまだ途中。

 強度を出し実用に足りる建物にする為にはまだまだ作業が必要だ。

 ただここからは普通に魔法で作業をすれば大丈夫。

 まず壁や土間、柱や屋根を形作った土は水分を抜いて乾燥させる。

 ここはあえて熱魔法を使わず水魔法で内部の水分を移動させる形で。

 土が縮んだ分は溝を掘ったり形状をやや変えたりして対処。

 水分を充分外部に出したら次は熱加工だ。

 普通なら俺自身の魔法でやるがちょい建物が大きすぎる。

 ここは炎熱の専門家であるリーザさんに助力を頼もう。


「この建物の外側部分と中全体を赤く光るまで加熱お願いします。時間は百数える位で。崩れないようこっちの魔法で補助しますので遠慮なくお願いします」

「まったくとんでもない事をするわね。炎熱!」

 流石専門の魔法使いだ。

 ほぼ自分の魔力だけで圧倒的な熱量を作り出す。

 土でできた建物全体が同時に熱せられ赤く輝きはじめた。

 これで完全に固まり強度が上昇する筈だ。

 更に一部には魔法でまぶした草木灰で陶器の釉薬のようにコーティングされる。

 これで壁や屋根、土間部分は雨や水に強くなる訳だ。

 天井や壁に残した素焼き部分で自然な空気清浄と湿度調整を図る仕組み。


 それにしても流石に俺でもこんな無茶な大きさの建物を魔法で作ると結構疲れる。

 この強化衣装コスチュームがあってもだ。

 若返る前、森の家を作るまではこうやって土魔法で家を作っていた。

 でも今回作った収容施設は家とは大きさが全く違うので使用する魔力もけた違い。

 でもこれで完成ではない。

 付帯施設も必要だよな。


「あとはトイレと炊事場ですね。どどどどとっとこ土の精ノームどん! お願い、土を固めて建物にして! 仕様は汎用トイレ2×10列、汎用炊事場2×5列!」

 こっちは普通の家サイズなのでまだ楽だ。

 トイレは以前自分で作って標準様式を確立した。

 汎用トイレというのは標準様式の宣言名だ。

 汚水槽を充分深く大きく作れば当分は持つだろう。

 無論近隣の地下水を汚さないよう閉鎖構造で。

 なお汎用炊事場というのも勿論俺がかつて作った標準様式。

 今回は屋根や壁、床の熱通しも自分の魔法で行う。

 この大きさなら炎熱の強化衣装コスチュームを着ていない俺でも楽勝だ。

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