第31話 ネイプルの街

 山がぐっと海近くまでせり出した部分の南側の三角州がネイプルの街だ。

「これって……」

「ああ」

 俺達は状況を理解する。

 街の向こう側、海沿いに続く道を人が埋め尽くしている。

 難民の群れだ。

 どれくらいの人数かちょっとわからない。

 ただ千人程度の人数でない事は明らかだ。


 南側の街門の少し手前に着地。

「シデリアから来た冒険者です」

「どうぞ」

「ギルドはどちらですか」

「ここの道をまっすぐです」

 ギルドへ急ぐ。

 

 スティヴァレ王国の国章と冒険者ギルドの紋章が入った建物があった。

 建物そのものは街の規模から考えるとそれほど大きくない。

 シデリアの冒険者ギルドと大差ない感じだ。

 中へ入り受付席に座っている男性事務員風に声をかける。

「シデリアの冒険者ギルドから依頼を受けて参りました。内容はこちらです」

 依頼書を渡す。

 お、依頼書を確認した事務員が顔色を変えたぞ。

支部長マスター、シデリアの支部長マスターからです」

 奥から出て来た支部長マスターはごつい壮年のおっさんだ。

 ただ冒険者上がりと言うより軍か衛士上がりだな。

 雰囲気がそんな感じだ。

 さっと依頼書を読んで頷き、そして俺達の方を見る。

「ここの支部長マスターを務めるジョヴァンニだ。支援物資の輸送有難う。大変助かる。荷物はこれから案内する倉庫までお願いしたい」

「わかりました。魔法収納庫に入れているのでこのままで大丈夫です」

「了解した。ではこちらへ」

 マスター自ら案内するようだ。


 一度外に出る。

「少し歩く。行先は難民用の合同倉庫だ」

「難民用の倉庫があるんですか」

「ここは中部との境で難民もよく来るからそれ用の施設もある。ただ今回の大量難民までは想定していなかった。昨日夕に情報入手して現在も手当て中というところだ」

 なるほど。

「今回は何があったんですか」

「ここの北、ローリア平原にベニート軍が侵攻してきたらしい。詳細は確認中だ」

 ベニート叔父……王弟か。

 スティヴァレ王国は内戦中にあるようだ。

 少なくとも中部は。

 その辺は俺の知識の中に無い。

 後で調べた方が良さそうだ。


「ここだ。難民用キャンプの第一倉庫」

 大きな建物の中へと入る。

 シデリアのギルドの物より数段大きい低温倉庫だ。

 中は穀物の袋とか生の肉類とかなめす前の毛皮等が入っている。

 ただ大きな倉庫の割に入っているのは2割程度。

 痕等からみてつい最近まで大分入ってはいたようだ。

 つまり今回の難民でかなり使った訳か。


「こっちが冷蔵倉庫だ。穀類や冷蔵品はここに頼む。後で鮮度順にわけるからまとめてでいい」

「わかりました。それじゃお願い」

「わかりました」

「わかった」

「了解です」

 3人がそれぞれ収納袋から出す。

 この大きい倉庫でも思った以上に場所を取る。

 この倉庫の半分近くを一気に埋めた。


「これは思った以上だな。助かる。それにしてもその収納具は凄いな。そんなに小さいのにここまで入るのか」

「あと冷凍品があります」

「まだあるのか。冷凍品はこちらになる」

 すぐ隣の建物が冷凍品倉庫だった。

 俺が残りの冷凍野菜、冷凍肉等を出す。

「もうアルベルコ殿とラシア殿には感謝しかないな。あと貴パーティにもだ。それにしてもよくこれだけ入るものだ。見かけによらず相当な魔法使いなのだな。

 それではギルドに戻ろう」

 

 改めて街を見る。

 街そのものはシデリアより遥かに大きく、また歴史を感じる。

 まあシデリアは開拓拠点として出来た新しい街、ここネイプルは古くからある大都市だからな。

 ここから北へ通じる道は海沿いの狭路だけになる。

 そこそこ高い山脈がすぐ街の裏まで伸びているせいだ。

 だから南部の玄関口かつ交易の街として昔から栄えて来た。

 今でもかなり賑わっている。

 しかし難民らしい姿はここでは確認できない。


「難民はどちらに収容しているのですか」

「ルトゥル川の中州と対岸に収容施設群がある。さっきの倉庫のもう少し北側の橋を渡った処だ。だが今回の難民の数だと明日にでも一杯になるだろう。川向い山側の地区に急いで予備の施設を増築しているのだがこのままでは間に合わない。明日も明後日もおそらく難民はやってくるだろう」

 確かにあの難民の列からすると相当なインフラが必要だ。

 だが……

 俺は3人の方を見る。


「何ならここで少しお手伝いをしていこうか。勿論カルミーネのお母さんには連絡を取るけれど」

「大丈夫です。仕事で数日家を離れても心配しないように言ってあります」

 おいおいお母さんが心配するぞ。

 まあその気になればすぐに往復できるから大丈夫だけれど。

「サリナもカタリナもいいかな」

「出来る事ならするべきだと思います」

「カタリナも」


 ならば。

 俺は支部長マスターの方を見る。

「ここにいるカルミーネは土魔法を、カタリナは水魔法を使えます。2人ともDランク程度の魔力はありますので川筋の変更や堰堤の増築、山裾の造成は出来るでしょう。あとサリナも本来はDランクの氷雪魔法の使い手ですが、装備をかえれば治癒魔法と回復魔法は使えるでしょう。私自身も一通り全属性の魔法を使えます。その気になれば私を含む4人とも飛行魔法も使えます。

 もしお役に立てるのなら是非今回の事案に協力させていただきたいと思いますが」


「いいのか。もしそうして貰えるなら大変助かる」

 反応は早かった。

 やはり結構困っていたらしい。

「大丈夫です。向こうの支部長マスターにも少し手伝ってこいと言われていますから」

「ならすぐギルドで依頼書を作成しよう」

 俺達はギルドへと急いで戻る。

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