第27話 薬草を採取しよう

 ティカールの峡谷。

 本来なら沢をさかのぼり滝を越えて時には渓流を泳いだり崖を登攀したりしないとたどり着けない秘境である。

 ただし空を飛べれば話は別だ。

 出発点の森の家が山奥に近い場所だった事もあり、半時間程度であっさり到着。

 

 谷の中は鬱蒼とした霧に覆われている。

 おかげで見晴らしが大変悪い。

 だから岩場の何処に何が生えているかなんて最低でも5腕10m程度まで近づかないとわからない状態だ。


「さて、それじゃまずはマウリアの探し方からね。ここからは自分の魔法で飛んでついてきて」

 ある程度は装備が調整してくれるので暴走する事は無い。

 3人とも俺の後をついてちゃんと飛んでくる。

 よしよし、これなら崖の中程だろうが平気だぞ。


 切り立った崖の中程、岩の上に僅かに砂礫がのったような場所の前で静止する。

「探す場所はこんな感じ。崖の途中でこういった膨らみがあって、上に少しだけ砂や小石が残っていそうな場所。こういう処をよく見るとね」

 細いが少し厚めのギザギザの葉と細く短い花茎の植物を右手で指す。

「こんな草が生えている場所があるの。これがマウリア。特徴はこの細くて少しだけ厚みがあるギザギザの葉っぱかな。皆見てみて」

 それぞれ3人に生えているところを確認させる。


「これを採ればいいんですね」

「でもどの辺を採ればいいんですか。葉を採るんですか。根っこまで掘って採るんですか?」

 流石カルミーネ君。

 薬草の採取経験もあるのか的確な質問をしてくる。


「マウリアは植物全体が薬草として使えるの。だから出来るだけ根っこまで、こうやって軽く指で掘ってやって採るの。これくらい掘って軽く引っ張れば少し根っこがのこるけれど採れるから。

 こうやって根っこを少し残しておくのも大事よ。根っこが残っているとそこからまた育って、3年くらいでまたここに生えるから。だから全部とり切らないで、根っこの部分を少し残す形でこうやってとる。とったら各自のポシェットに入れてね。洗ったりすると弱るからそのままで」

「わかりました」

「了解です」

「わかった」

 3人ともわかったようだ。


「あと動物の気配を感じたらその場を離れて。ここにいる山ヤギは他の動物を見ると向かってくる事があるから。大丈夫、今回の依頼は最低で5株でうち1株はもう取ったから。目標は1人2株、採ったらみんなに聞こえるように『採りました』と言ってね。それじゃ採取開始!」

 各自空を飛んで各方向へ散っていく。


 さて、採取は3人に任せよう。

 俺は周りの警戒と3人の魔力確認に専念する事にする。

 今の3人の魔力では飛行可能な時間は1時間程度。

 魔力が無くなって落ちてしまうと洒落にならない。

 一応魔力が切れそうになればゆっくり高度を下げる安全機能もつけてはいる。

 でもそれでとんでもない場所へ着地しても面倒だ。


 野生動物に対する警戒も必要だろう。

 崖部分は山ヤギや山ネズミくらいしか動物はいないが、谷の下部分や尾根筋部分等にはそれなりに色々な動物がいる。

 ヤマネコとか熊なんて猛獣もいる訳だ。

 その辺の猛獣や魔獣に対しても一応警戒しておこう。

 出来れば大黒熊魔獣フィアグリズリなんてのが見つかればラッキーだ。

 まあこいつについては薬草採取終了後に全員一緒の状態で探すつもりだけれど。


「採りました!」

 カルミーネ君がまず採取に成功したようだ。

「カタリナも見つけた。今掘ってる」

 うんうん、順調な模様。

 飛行可能なら探すのも採るのも楽だしな。

 普通の人は飛べないからこそ採取が困難な訳で。


「採りました」

「採った」

「採りました!」

 皆さん順調なようだ。

 飛行可能だと採れる分全部採ってしまいそうだ。

 他の冒険者とか来年以降の生育の為に残しておかないと。

「環境保護の為、1人3株までにしてね。3株採ったら私の方へ戻ってきて」

「わかりました」

「了解です」

「わかった」

 皆さんそれほど遠くまで行っていない。

 何せこの霧の中だ。

 飛行できるならそこここに生えているのを採取できるし。


 6半時間10分もしないうちに全員戻ってくる。

「こんなに簡単に採れるなんて想像も出来ませんでした」

「面白いですね。空を飛べるのって」

「まだ採りたい」

 色々意見があるようだけれどここは終わりという事で。

「あまりいっぱい採っても意味がないのよ。マウリアは少量でもよく効く薬草になるからこれだけあれば充分。10株あればシデリアの街や周りの村の1年分の需要に充分間に合うから」

「わかりました」

「了解です」

「わかった」

 よしよし。


「それじゃ次の依頼、大黒熊魔獣フィアグリズリの捜索をするよ。

 その前に大黒熊魔獣フィアグリズリについて簡単に説明するね。大黒熊魔獣フィアグリズリはこういった山奥の谷間とかにいる大型の熊の魔獣で、最大で身長が人の2倍以上。力も普通の熊より遥かに強いし簡単な風魔法を使って獲物や敵を倒したりもするの。


 ただ弱点があって低温に弱い。体温がだいたい5度近くまで下がると冬眠状態になって動けなくなる。まあ普通の動物はそんな温度に下げると普通死ぬから低温に弱いと言えないのかもしれないけれどね。


 だから今回は私の魔法で空を飛んで探し、大黒熊魔獣フィアグリズリがいたら風魔法を防ぎながら低温魔法で仮死状態にするという方法で行くよ。風魔法を防御する関係から単独での飛行禁止、皆で固まって行くからね。それなら私の魔法で大黒熊魔獣フィアグリズリの魔法を弾けるから。

 あとサリナ、私が指示したら氷雪魔法で大黒熊魔獣フィアグリズリの体温を下げて。ぎりぎり凍らない程度でね。時間はかけていいから確実に。仮死状態になったら私の魔法で神経を切断してとどめを刺してすぐ収納するわ。

 それじゃまずは大黒熊魔獣フィアグリズリを探すところから。飛ぶのは私がやるから皆はあちこちを見て大黒熊魔獣フィアグリズリを探してね」


 さて4人飛ばすためにまたあの呪文を唱えるとするか。

「ゆんゆんやんやん風の精シルフィたん💛 御願いお空を飛ばせてね♪』

 俺なりに少し改善した呪文だ。

 サリナやカタリナを見習って少し身振り手振りも付け加えている。

 うん、魔力消費がかなり少なくなったな。

 それなりに効果があったようだ。 

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