第25話 森の家で色々と

 拠点はなかなかいい場所に決まった。

 商店街の1本裏、中央やや東寄りくらいの場所の1階だ。

 建物そのものはそこそこ新しく、太い丸太で組んで壁土を塗りつけた頑丈な造り。

 中は事務所か小商店の倉庫として使う目的だったようで、単にがらんとした広い部屋があるだけ。

 でもどうせ色々な事は転移門で森の家へ行ってやるから問題ない。


 本日から使用可能という事でギルドで1年分前金を払って契約。

 賃貸料は来月分からで、今月残り10日分はサービスでいいそうだ。

 早速商店街の中古家具店へ行き、大きめの両開き型洋服ロッカーを2つ購入。

 事務所カムフラージュ用にという感じで応接セットとデスクセットを購入。

 荷車で店員さんに持ってきて貰いそれっぽく設置した。

 店員が帰った後にさらに工作。

 両開き型洋服ロッカーの片方の内部に簡易転移門を設置。

 洋服ロッカーの扉にのぞき穴を魔法で掘って外を確認出来るように工作。

 ここまでを午前中にやったのだ。

 俺、なかなか頑張ったなと思う。


 宿へ帰って昼飯を食べながらサリナとカタリナに報告。

「それじゃこの宿も今日の泊まりまでですね」

「明日まで支払ってあるしちょうどいいかな」

「明日には冒険者ギルドとカルミーネに教えておかないといけないですね」

「そうだね。忘れないようにしよう」

「ここのご飯食べられなくなるの?」

「すぐ近くだから食べに来ればいい」

「わかった。じゃあ新しいお家見てみたい」

 まあそうなるよな。

「ああ、食べ終わったら見に行こう」

「そうですね」

 

 そんな訳で食べ終わったら早速事務所へ。

「本当にすぐですね。これならご飯食べに行くのも買い物に行くのも便利です」

「何かお仕事する場所みたい」

 確かに偽装として事務所っぽく作ったからな。

「ここからあの道具でお風呂がある家に行くんですね」

「そうだよ」

「何処にあの装置を置くんですか」

「もう置いてあるよ。隠してあるけれど」

「うーん、多分ここ!」

 カタリナが一発で当たりの方の洋服ダンスの扉を開けた。

「正解! よくわかったな」

「何か後がむずむずして見えた」

 魔力が見えるようになった訳か。

 なかなか進歩が早い。


「まあこんなところかな。向こうのお家はいつもと同じだからいいだろ」

「行く」

 カタリナが断言。

「そうですね。明日から向こうで生活する訳ですから、一通り生活に必要な物を再確認しておいた方がいいと思います」

 確かにサリナのいうとおりだ。

「なら行こうか」

 その台詞でカタリナがダッシュで扉の中へ。

「一番!」


 その姿を見てふと思う。

 サリナもカタリナも出会った頃と比べて大分変わったなと。

 というかこっちが多分本来なのだろう。

 何せいきなりただ1人の身寄りだった父親が死んで俺に引き取られたのだ。

 これからも2人が笑顔でいられるように頑張らないとなと思う。

 まあ実際特に頑張っているかと言うとそんな事もないのだけれどさ。

 一緒にいて元気を貰っているのは俺の方って気もするし。


 カタリナに続いて俺とサリナも洋服ロッカーの扉をくぐる。

 すぐに見慣れた森の家の廊下に出た。

「今度はここに出るんですね」

「ここの扉と向こうのロッカーの扉は行き先固定にしておいた。その方が繋がっている感じがするしさ」

「そうですね」

 話しているとだだだだっとカタリナが俺達のところへ戻ってくる。

「寝る部屋が無い!」


 ベッドは各部屋についているけれどな。

 だから俺は最初、カタリナが何を言おうとしているのかわからなかった。

「みんなで寝る部屋、一緒に寝る部屋!」

 そう言われて初めて気づく。

 そう言えば前もそう主張していたな。

「わかったわ。じゃあどの部屋がいい? ベッドを運ぶから」

「ちょっと考える」

 だだだーっとまた走って行ってしまった。


「しばらくかかるな、きっと」

 また部屋を見比べて、どの部屋がいいか考えて、また見比べて……

 それを何度も繰り返すのだろう。

 前に自分の部屋を決めた時もそうだったからな。

 でもまあ喜んでくれていると思えば悪くは無い。


「それでは私はキッチンや他の部分で足りないものを探しますね。フィアンの村の家にあるものは持ってきますから」

「頼む。任せた」

 確か俺は一人暮らしを長い事していた筈だ。

 その割に家事能力がないのは何故だろう。

 だいたい魔法で誤魔化していたからかな。


 俺自身本来は空間系統の魔法使いだ。

 でもある程度の魔法なら強化衣装コスチューム無しでも各分野使える。

 例えば洗濯は最初は水魔法と熱魔法、慣れてきたらこの組み合わせで洗濯魔法というのを自作して使っていた。

 料理は基本的に街に行った際にまとめて買って収納庫に入れ、食べ繋いでいた。

 掃除は元々ある家具とかテキスタイル類以外を完全焼却する魔法をあみだして使っていた。

 簡単な家具は熱魔法や水魔法を使用して木材を加工し、組み立てて自作出来る。

 簡単な家具どころかこの家だって実は自作だ。

 あまり細かな加工は苦手だけれども。


 他にも大抵のものは魔法で他世界から知識を得たり直接入手した道具類でどうにか出来る。

 この強化衣装コスチュームだって俺の自作だ。

 この世界にはおそらく俺しか所有していない2種類のミシンを使えば、最初の型紙段階さえ間違えなければ何とかなる。

 多少間違えても魔法で布地を繋ぎ治すなんて技だって習得済み。

 うーん我ながら器用かつ万能だよなあ。

 ほぼ魔法に頼っているけれど。


 この辺の技能は後々サリナとカタリナ、あとカルミーネ君あたりに伝授してやってもいいかもしれない。

 無論3人とも魔法を使いこなせるようになってからだけれど。

 その伝授が終わった頃にはもう俺もほぼ以前の魔力を取り戻しているかな。

 そうすれば無事男に戻る材料集めも出来るってもんだ。

 もっとも最近はこの身体も悪くは無いと思い始めている。

 男女ともに愛でる事が出来るというのはなかなかいい。

 

 今度からこの家で生活すると、他にも研究とか開発が色々捗るかもしれない。

 例えば『遺伝子書換・テロメア長回復装置』。

 理論上は不具合が無い筈なのに、何故俺の記憶の一部が無くなっているのか。

 俺自身の個人的な部分ほど記憶が残っていない。

 言葉とか社会的な知識とか魔法の知識とかは残っているのに。

 この次若返ったり男に戻ったりする前にこの辺の研究をしておく必要がある。


 他に魔法道具の改良なんてしてもいいかもしれない。

 例えば今、俺達は空を飛ぶためには俺が風魔法強化用の強化衣装コスチュームを纏う必要がある。

 でもこれだと俺がいない時は空を飛んだり出来ない。

 この辺各自が空を飛べるように出来れば楽だと思うのだ。

 風魔法専用、それも飛行特化の道具を作れば何とかなるかな。

 材料はある程度この家にも揃っている筈だ。

 今の強化衣装コスチュームに重ねて着用出来るタイプだと便利だよな。


 デザインはどんな感じがいいだろう。

 可愛くないと今までの強化衣装コスチュームの威力が下がるから、出来るだけ可愛いデザインで。

 でも俺の知識で可愛いというのもなかなか思いつかない。

 異世界の知識だとケモミミが可愛いっていう世界があるらしいけれど、この世界から見るとケモミミじゃ魔物の獣人っぽく感じるだろうしなあ。

 仮面じゃかわいい顔が隠れるし。

 無難なところで白い翼でも背中に装着させるか。

 でもデザインのバランスが難しいよな。

 それに1箇所だけでは3人の今の魔力ではまだまだ飛ぶには足りない。

 ならカチューシャと腕輪とブーツにそれぞれ強化を仕込もうかな。

 5箇所あればそこそこの魔力が得られるだろう。

 素材は魔法銀ミスリル魔法金オリハルコン、あと適当な魔石を組み合わせればいいか。

 装着はやっぱり呪文方式で。


 よし、久しぶりに研究室で開発するか。

 俺はリビングから研究室へと向かった。

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