第5章 拠点と道具と

第24話 拠点を作ろう

 俺も大分この街に馴染んできた。

 そろそろ本格的にこの街に拠点を構えた方がいいかな。

 夕食後、部屋でサリナとカタリナに相談してみる。

「そろそろ宿屋じゃなくてこの街に家を持とうと思うのだけれど、どうかな」

「賛成です。確かにここの料理は美味しいけれどずっと宿屋では勿体ないと思っていました。掃除や洗濯は私がやりますから、何処かきちんとしたお家を探した方がいいと思います」

 サリナは賛成のようだ。

「新しいお家だと寝る時部屋バラバラになるの? ここみたいに一緒に寝れないの」

「新しいお家も寝る場所は一緒にすれば大丈夫よ」

「ならカタリナも賛成」

 同じ部屋だと寝顔を観察できるし可愛い寝息も聞けるしな。


「なら明日、商業ギルドへ行ってくるか」

「お願いします。私とカタリナはこのお部屋をお掃除しておきます」

 なお今も寝ているのは相変わらず宿の部屋だ。

 3人分のベッドが一緒の部屋にあるし起きてすぐ美味しい食事を食べに行けるし。

 あと村の家には何故かサリナがあまり帰りたがらないのだ。

 時々掃除はしているみたいだけれど。

 その辺何か色々思いがあるのかもしれない。


 そんな訳で翌日。

 朝食を食べた後、

「行ってきます」

と宿を後にする。

 今回の家の条件は俺的には以下の通り。

  ○ 引っ越しても美味い飯を食べに行きたい。

   だから黄金の鶏亭プルスアウリアに近いところがいい。

  ○ サリナとカタリナも住むので治安が悪くない処。

  ○ ギルドからもそう遠くない処

  ○ 3人一緒に寝ることが出来る大きな寝室があること。

  ○ 大きいお風呂があれば最高

 この条件だと街の中心やや東北から東寄りの場所かな。

 南側はギルドが近いけれど治安が悪くなるし。


 商業ギルドは商店街の中央、黄金の鶏亭プルスアウリアと服屋の中間地点にある。

 つまり宿からほど近い。

 そんな訳であっさりと辿り着いて中へと入る。

「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか」

 この人も受付嬢の皮を被った怖い人って事は無いよな。

 まさかねと思いつつ用向きを伝える。

「家を探しに来ました」

「わかりました。では2番のカウンターへどうぞ」

 ここも冒険者ギルドと同じで受付嬢が直接カウンターで応対する模様。

 嫌な既視感をひしひしと感じる。


「それではどのような条件でお探しですか。例えば予算等がありましたら教えていただけるとその範囲内でお調べしますけれども」

「実はあまりこの辺の相場を知らないんです。この街に来てまだそれほど経っていないですから。ですので取り敢えず商店街に近くて、街の中央から北側か東側のあたりの物件を何件か見せていただきたいのですけれど」

「住むのはお1人ですか」

「いえ、家族3人で住む予定です」

「わかりました」

 彼女はそう言って、横から紙を取りだした。

 シデリアの街の地図だ、


「こちらが今いらっしゃるギルドです。それで現在空いています貸し物件ですと、中央に一番近いここ。10居約6畳の寝室3部屋と同じく10居約6畳の作業室、3部屋25居約15畳のリビングダイニング、トイレ、5居約3畳の倉庫付きです。これで月契約なら小金貨2枚、年契約なら小金貨24枚になります」

 そうか、風呂は無いのが標準なんだな。

 値段や間取り的には紹介された物件、結構いい部屋の部類の筈だ。

 少なくともここシデリアの街では。

 でも俺は風呂が欲しい。

 そうなると自分で建物を建てるしかないだろうか。


「なら狭くてもいいですから、場所は今と同じく中央部の北側か東側で売り地か売り家はありませんか」

「中央部はほぼ賃貸物件ばかりで適当な売物件は無いですね。北側か東側ですと一番中央に近いのはこの場所です。広さは132居40坪で古家があります。これで正金貨40枚になります」

 商店街より北の街出口の方が近い位の場所だ。

 ちょっとこれじゃ遠いよな。

 その割には高いし。


 ん、待てよ。

 何も家を街中に建てたり持ったりする必要は無いんじゃないだろうかと気づく。

 簡易型転移門を使えばフィアンの村の家にも森の家にもつなげることが出来る。

 これなら最低玄関と転移門を置く場所があればいい。

 うまく転移門を隠して森の家に常時直結すれば実質上広い家を狭い空間に展開するのと同じ事になる。

 ならばだ。


「それでしたら街の中心部に近くて、治安が良くて、その割に人通りが少ない場所で、事務所くらいの狭いスペースでいい。そうするとどんな物件がありますか」

 彼女は頷く。

「それですと色々あります。中心部に近いのは、ここと、ここと、ここと、ここと、ここ。広さはどれも50居室30畳前後1間でトイレは共同で外側です。賃貸料もほぼ同じで月契約なら小金貨1枚、年契約なら小金貨12枚程度ですね。何でしたら実際に物件をご覧になりますか」

 うん、場所的にはどれもちょうどいい感じだな。

 賃貸料もこの程度なら余裕だろう。


「それでは少々お待ち下さい」

 彼女はそう言ってささっと何枚かの紙に何かを書き付ける。

 更に引き出しを開けいくつかの鍵を取りだした後、

「フレデリカさん、お客様に物件の案内をお願いします」

と背後の事務スペースに声をかけた。

「それではこの先はフレデリカがご案内致します。申し遅れましたが私、当ギルドの支部長代理を務めておりますドメニカと申します。今後とも宜しくお願い致します」

 おいおいやっぱり役職付きかよ!

 ここのギルドは役職付きが先頭に立って受付しているのが普通なのか!

 そう思いつつ案内が来るのを待つ。


 案内をしてくれたのはそろそろ中年かなという年代の女性だった。

「事務所スペース5件のご案内ですね」

 メモを見て確認する。

「それではこの1番の物件からご案内します」

 そう言ってギルドを出た処で、俺はさっきから気になっていた事を尋ねてみた。

「先程の方は何も調べずに物件を色々提案してくれましたけれど、何かカウンターの内側にそういった一覧表があるのでしょうか」

 もしそういう一覧表があったら参考に見てみたいなと思ったのだ。

 でもフレデリカさんは首を横に振る。

「いいえ、物件は日々動くので一覧表を作っていたのでは間に合いません。ですので来た順にドメニカ代理が目を通して、その後資料としてファイリングする事になっています」

 ん、という事は……


「だいたい物件って何件くらい抱えているのでしょうかね」

 何も見ないでも覚えていられる程度の物件数なのだろうか。

 そう思ったのだ。

「いえ、近くの開拓村の物件も含めて200件以上の物件を常時扱っております。日々変わりますので正確な数は私ではわかりませんけれど」

 という事は、まさか……


「ドメニカ代理は全部覚えているので、物件探しの応対は代理がやる事になっています。私達では日々変わる物件を把握するのはちょっと無理なので。ですので案内の際には代理にこうやって物件概要をメモしていただいて、私達はそれを見て参ります」

 そう言ってフレデリカさんは紙を見せてくれる。

 物件それぞれについて住所、建物名、階数、築年数、賃料、造り、オーナー等詳細事項が記載してあった。

 これを全部覚えているだと。

 やっぱり……


「何者なんですか、その代理さんは」

「元々この付近の方では無く、十年ほど前に北の方からいらしたそうです。中央の方が色々問題が多くて逃げてきたとか言っておられましたけれど」

 十年前って、ちょい待て。

「あの代理さん、まだ二十代に見えますけれど」

「私が見た限りではこの5年、あまり外見は変わっていませんね」

 うーん。

 何かやっぱり怖い人の可能性が高い。

 そういう連中がこの街に少なからずいるのだろうか。

 そう言えば冒険者ギルドの支部長マスターも『そう何人もいませんから』なんて言っていたよな。

 勘ぐると何人かはいるという意味にとれなくもない。

 そんな事を考えながら俺はまず1件目の物件を目指す。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る