第19話 お仕事の終わり

 精油作りまで一通りやったところで風呂場へ様子を見に行く。

 カルミーネ君がサリナに解体方法を指導している処だった。

「どう、様子は」

「黒狼の方から先にやっています。これで12頭目です」

 なかなか早いな。

「今日はそれで充分よ。もし教える必要性とかが無ければそれを最後の一頭にして、皆でギルドへ行きましょう」

「わかりました」

「サリナも今日はそれが最後でいい?」

「大丈夫です」

「カタリナもわかった」


「それじゃリビングで待っているわね」

 実は俺、どうもにも魔獣の解体等が得意じゃ無い。

 自分でやるのもそうだが立ち会うのも苦手だ。

 血とかは治療とかで結構経験している憶えはあるが慣れないのだ。

 ゴブリン等魔物はそれでも血の色や臭い、身体を破壊した時の匂いがが普通の動物と違うからまだいい。

 魔獣は人間と同じ赤い血だし匂いも似ている。

 あと解体時のむっとするあの匂いがどうにも駄目だ。

 我ながら妙にデリケートだよなと思いつつリビングへ。


 それほど待つ事もなかった。

 3人が一緒にやってくる。

「それじゃゴミを片付けた後、この家を元に戻して、ギルドに行きましょう」

 解体で出た使用不可能な部分は俺の魔法できれいさっぱり焼却。

 何気に骨灰は石鹸の材料になるのでキープ。

 その辺の作業が終わって風呂場も綺麗にして換気もしたら家を撤収だ。

 ここの森の中に建てたままでは誰かに発見される恐れがある。

 こんな場所でも一応領有権とか色々ありそうだからそういった事態は避けたい。

 全員が家から出た状態で家をポケットに仕舞い、転移門も片付けて仕舞う。

 後で家は元の森の中に戻せばいいだろう。


「それじゃ街に帰りましょう」

 心ならずも呪文を唱えて風強化衣装コスチュームに着替え。

 空を飛んで街の北側の木戸から入って冒険者ギルドへ。

 いつもよりちょい遅い時間になったのでギルドの中にはそこそこ冒険者がいる。

 半日仕事の依頼を達成して帰ってきたり、新しい依頼が貼っていないか確認しに来た連中だ。

 だが皆さん俺の姿を見るとすっと道を空けてくれる。

 何か相当怖がられているような……


「ジョアンナさん、今度は継続依頼の報奨金受け取りですか」

「ええ」

「では4番の受付ブースへどうぞ」

 何か優先的に通されているなと思うけれど便利なので特に何も言わないでおく。

「それじゃカルミーネ、今日解体した分をお願い」

「わかりました」

 魔石と毛皮と肉に分けた獲物をごそっと取り出す。

「早速カルミーネが働いてくれたようですね。それでは鑑定します。少々お待ち下さい。ジェルミアとガスパロ、運搬と査定お願い」

「はい」

 男の事務員2人がやってきて台車に乗せて獲物を持って消える。

 程なく1人が戻って来た。

「ジョアンナさん、お待たせしました」

 全員でカウンターへ。

「今回は黒狼魔獣12匹、解体済みですね。報奨金と肉、毛皮の代金をあわせて小金貨2枚と正銀貨1枚、小銀貨5枚になります。内訳はこの通りです。ご確認下さい」

 全員で内訳が書かれた明細書を読む。

「どう、皆大丈夫?」

「はい、大丈夫だと思います」

「数はあっていると思います。それ以上はあまりわかりません」

「カタリナもわからない」

 うん、正直だな。

「ではこれでお願いします。あと出来たら小金貨分は正銀貨で頂けますか」

「わかりました。あと今回の成果はパーティの成果として記録しますか? それとも成果を個別に割合を変えて配分しますか?」

 今回の成果というか功績を全員均等に配分するか個々に配分を変えるかだな。

 これについてはもう俺は決めてある。


「パーティの成果として均等に配分して下さい」

「えっお姉ちゃん」

「ジョアンナお姉ちゃん」

 サリナとカルミーネ君が疑問の声をあげる。

「いい。今回は皆の魔法で討伐をしたよね。だから成果は均等にわけるわよ。これはパーティである以上絶対の方針。異議は認めません」

 だいたい俺一人ならもっと簡単に出来るしな。

 これはあくまで3人のレベルアップを兼ねた討伐なのだ。

「ただ解体はカルミーネが頑張ってくれたから、手数料分はカルミーネの取り分ね」

「えっ、でも」

「サリナやカタリナが出来るようになったら解体した割合でまた取り分を変えるけれどね。私はどうしても解体って苦手だし、この方針も譲らないわよ」

「……ありがとうございます」


 話がついたところで今度は支区長マスターに尋ねる。

「領収書はパーティ名ですか、私の名前でいいですか」

「正式には『●●パーティ 代表 ジョアンナ』と署名を貰うのですが、パーティ名がまだ決まっていなければ、『代表 ジョアンナ』で大丈夫です」

 うん、まだパーティ名まで考えていなかっただけにありがたい。

 提案の通り署名して領収書を渡す。


「はい、こちらです。封筒4枚はサービスです」

 頼んだとおり大きい分は正銀貨に崩して渡してくれた。

 なので封筒2つは正銀貨5枚ずつ、1つは正銀貨7枚、残った封筒に残りを入れて、5枚の方をサリナとカタリナ、7枚の方をカルミーネ君へ。


「はい、今日の取り分。お仕事お疲れ様でした」

「お姉ちゃんありがとう」

 カタリナは素直に受け取ったが年長2人はちょっと考える。

「本当にいいんですか。ジョアンナお姉ちゃんが一番貰うべきだと思うんですが」

「僕もちょっと多すぎます」

 2人とも謙虚だな。

 でもここは悪いけれど俺の意見を押し通させて貰う。


「駄目。パーティの方針はさっき言った通りよ。だから自分の分はそのまま受け取ること。さて、ギルドの邪魔になるから出るわよ。支区長マスター、今回もありがとうございました」

「こちらこそ。またのお越しをお待ちしています」

 とりあえず外へ。

「あと、そこそこ儲かったから明日と明後日の討伐はお休み。もし解体を進めたければ『黄金の鶏亭プルスアウリア』に泊まっているから来て。受付でジョアンナさんって呼んでくれれば出るから。場所はわかる?」

「わかります。大丈夫です」

「よし。それとそのポーチはカルミーネ、持ち帰って。魔法で所有者登録をしておいたからカルミーネしか使えないし盗んでも戻ってくるし安心だから。それに万が一今回のお金を横取りしようなんて輩が出ても、そのポーチの中に入っているあの魔法衣装コスチュームに着替えればまず負ける事は無いし。いざという時は呪文を全部唱えなくても着替えようという意識があれば着替えられる筈よ。着替えた上で万が一危なそうだったら私が駆けつけるから。ただ練習の為に着替えるのは構わないしむしろ積極的にやって欲しいな。わかった?」

「はい。わかりました」


 よし、次はサリナとカタリナだ。

「ポーチを持ち歩くのはサリナやカタリナも同じ。いざとなったら着替えればその辺の冒険者には負けないし、着替えたのがわかったら私が状況を確認して危なそうなら駆けつけるから。あとはもう自由に街の中を散歩して買い物をしていいよ。お金は今日受け取った分を自由に使っていいから。勿論貯めておいてあとで使ってもOK。いいかな?」

「わかりました」

「カタリナも」

 よしよし。


「それじゃ今日はここで解散。何も無ければカルミーネは3日後の朝、今日と同じギルドの裏口で待ち合わせ。サリナとカタリナは夕食までに宿屋に帰ってくること。いいね」

「はい」

「わかりました」

「カタリナも」

 そんな訳で解散する。


 さて、俺はさっさと帰って森へ家を戻しておかないとな。

 あとはもう一度風呂を魔法清掃して空気を入れ換えて精油で香りをつけてと。

 何ならもう一度風呂にゆったり浸かってもいいな。

 目の保養がいないけれどいるときはゆっくり浸かれないし。

 今日得た灰で石鹸作りもしておいた方がいいかな。

 まだストックはあるけれど。

 そんな事を考えながら皆と別れ、俺は宿へと足を勧める。



■■■ おまけの設定 ■■■

 この国の通貨価値について、参考です。

 ルビは大体日本円に換算した場合の価値ですが、産業革命等が起こっていないことから、衣服等の価格はかなり高めになっています。

  正金貨1枚100万円小金貨1枚10万円正銀貨1枚1万円小銀貨1枚1000円

  >正銅貨1枚100円小銅貨1枚10円

 なお大人が単純肉体労働に就いた場合の日給がだいたい1正銀貨1万円前後です。

 冒険者もこのパーティのように大量討伐する者はめったにおらず、通常は数匹を4人くらいのパーティで倒し、山分けにします。

 そうすると1日討伐に従事して大体正銀貨2枚2万円位となります。

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