第20話 命名『ふわふらたんぽこ』

 討伐は大体3日に1回のペースでやっている。

 稼ぎ的にそれで充分だし解体の手間もある。

 それに毎日やると魔獣が減り過ぎて他の冒険者さんが可哀そうだし。


 それでも討伐を3回もやると大分皆さん慣れてくる。

 魔力もそこそこついてきたし、魔法も自分の属性なら色々な使い方が出来るようになった。

 それに心なしか3人ともちょっと肉がついて健康的になってきた。

 風呂で毎回見て触って確認しているから間違いない。


 討伐の日の手順もほぼ固定化してきた。

  ① まず街の東西南北どちらかの森だの山だのに出て討伐を実施。

  ② 現地で移動用小屋をポシェットから出して設置。

  ③ 移動用小屋から簡易型転移門で森の家へ移動。

  ④ 風呂入って昼食を食べて解体作業。

 こんな流れになる。

 ちなみに移動用小屋とは大きさ1腕2m四方高さ1腕20指220cm程度の簡単な小屋で内部に簡易転移門が隠された形で設置してあるもの。

 仮の拠点代わりに使えてなかなか便利な代物だ。


 解体作業は数が多いときは翌日に持ち越し。

 でも3回目になるとサリナも解体がほぼ出来るようになった。

 勿論カルミーネ君程の手早さは無いが、丁寧で高く売れる仕上がりで出来る。

 だから解体も割と手早く進む。

 俺は相変わらず解体の匂いだけで駄目だけれども。


 さて。今日は4回目の討伐。

 今では地面に大穴をあけるなんて大作業をしなくても、

  ① サリナは氷雪魔法で魔獣の体温を奪って倒し

  ② カタリナは水の塊で魔獣を取り囲んで倒して

  ③ カルミーネ君は土で足止めした後、土塊を口と鼻に固定させて倒す

なんて魔法を身につけている。

 空を飛びながら半ば3人による自動作業で討伐が終わってしまう状態だ。


 そんな感じで今日は12匹と少なめの群れを壊滅させ、森の家へ帰ってきた。

 お風呂で楽しんだ後、昼食を食べながら会議の時間になる。

 過去の昼食の時間で話題になっていながら未解決だった問題。

 俺達のパーティ名について話し合うのだ。


「『魔法少女隊』じゃやっぱりいまいちかな」

「僕は男子だよ」

「可愛くない」

「私も今一つだと思います」

 そんな感じで議論は始まる。

薔薇の騎士ローゼン・リッターはどうですか?」

「なにかちがう」

「タマネギ部隊なんてのはどうでしょう」

「どっかできいた」

「セーラー戦士は」

「ちょっとちがう」

「プリキュアは」

「よくわからない」

「キラメイジャーは」

「かわいくない」

 カタリナのチェックが厳しい。


「やっぱりかわいいなまえがいい」

 確かにその意見には賛成だ。

 あの衣装コスチュームは可愛ければ可愛いほど魔法の威力を増すから。

 でもその『かわいいなまえ』がなかなか決まらない。


 この状況になったのにはそれなりの経緯がある。

 サリナやカタリナ、カルミーネ君が大分慣れて俺への態度もやや遠慮がなくなったのも遠因の一つ。

 でも直接的原因は接頭詞の変更である。

『この衣装コスを着用した場合は色々可愛い方が威力が上がる』

 その事を全員に教えてしまったのがはじまりだ。

 その場の思いつきで皆で色々接頭詞を考えて試した結果、カタリナ作のものが文句無く一番高い威力となってしまったからだ。


 仕方無く接頭詞はカタリナ作のものに4人とも変更。

 例えば俺用の接頭詞は、

『ゆんゆんやんやん風の精シルフィたん!』

になってしまった。

 困った事にこの接頭詞、俺が最初に考えた、

薄青い叙情的な風の精よホリゾントブルーリリカルシルフィード!』

よりも数倍威力が大きい。

 ちなみにカルミーネ君バージョンは、

『どどどどとっとこ土の精ノームどん!』

になる。

 本人的にはこの呪文を唱えるのに抵抗がある模様。

 しかも結構言いにくいらしく、4回に1回は『どどっどど』という感じに噛む。

 その時の表情に俺は結構萌えるのだがまあそれは別の話。


 この実績によりカタリナが自分の考えの『かわいい』に自信を持ってしまった。

 その結果がパーティ名に対しての厳しいダメ出しである。

 俺としては今となっては色々と思うところはあるのだ。

 でももう全てが遅い。


「じゃあカタリナはどんな名前がいいと思う?」

「かわいいなまえがいい」

 それがなかなか思いつかないのだ。

 可愛いに完璧を期すカタリナのせいで。

 でもそろそろ決めたい。

 なので今日は少し粘って決めてしまおうと思っている。


「それじゃカタリナはなにが可愛いと思う?」

「お花、赤ちゃん、わんわん」

 狼は魔獣で敵だがわんわんは可愛い。

 見かけはそんなに変わらないと思うのだがその辺きっちり区別があるようだ。


「じゃあ『わんわん隊』は?」

「ジョアンナお姉ちゃんはネコさん」

 これは俺のあのオーバーオールのせいだな。

「じゃあ『ネコさんず』はどう?」

「わんわんの方がかわいい」

 駄目ですか。


「ならカタリナ、お花はどんなのが可愛いと思う?」

 サリナも今日こそは決めようと思っているのだろう。

 いや多分カタリナ以外は3人ともそう思っている。

 もう何度も話し合いをしていい加減疲れているのだ。

 ただカタリナが妥協を許さない。


「好きなお花はちゅうりっぷさん」

「なら『ちゅうりっぷ』は?」

「名前だとかわいくない」

 そうですか。

「じゃあたんぽぽは? あの黄色い花はカタリナ好きでしょ」

「たんぽぽ好き」

 おっ、ついに決まるか。

 俺とカルミーネ君の期待に満ちた視線がカタリナの口元へ。

「でもただのたんぽぽだとちょっとなにかちがう」

 ああーっ、駄目か。


 でもサリナはめげない。

「じゃあ綿毛のたんぽぽは? ふわふわでお空を飛ぶの」

 おっ、カタリナの表情が変わったぞ。

「カタリナ達もお空飛びながらお仕事する。だからいい」

 ついに決まるか!

「でも『たんぽぽ』の音がちょっと可愛くない。だから『たんぽこ』」

 えっ!?

 何だその『たんぽこ』とは。

 でもカタリナ様の意見が今は絶対だ。

 何でもいいからさっさと決めたい。


「あとお空を飛ぶからふわふわのたんぽこ。だから名前は『ふわふわたんぽこ』」

 何だそりゃ。

「でもふわふわよりふわふらの方が可愛い。だから『ふわふらたんぽこ』」

 ますますもって何だそりゃ。

 俺だけで無くカルミーネ君やサリナまで『え”っ!?』て顔をしている。

 でも俺達は議論に疲れていた。

 そろそろ決めてしまいたかった。

 だからつい、俺もこう言ってしまう。


「じゃあパーティ名は『ふわふらたんぽこ』でいいかしら」

「うん、かわいい!」

 カタリナ以外の全員が目を見合わせた後、同時に頷く。

 もうこれでいい。

 不毛な話し合いはたくさんだ。

 可愛ければそれでいいじゃないか……

 こうして俺達のパーティ名は『ふわふらたんぽこ』に決定した。


 後に俺はこの名前を支区長マスターをはじめ色々な人に説明するときに困る事になる。

 でもこの時はやっと決まったという安堵感が全てを支配していた。

 うん、まあこういう事もあるよねって話だ。

 後悔は常に先立たないものだから仕方ない。

 この後俺達は『ふわふらたんぽこ』の名前を背負っていくことになった。

 はあ。

 出来るものなら今すぐでも改名したい。

 出来るものなら。

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