第17話 みんなで狼魔獣狩り
「ところでジョアンナお姉ちゃんって、一体何者なんですか。実は王宮付の大魔法使いとかですか」
「通りすがりの普通の魔法使いよ」
「ここの冒険者ギルドにも何人か魔法使いが来るけれど、ジョアンナお姉ちゃんみたいにこんなに色々便利な道具を持っている魔法使いって見た事が無いよ。それに昨日、午前中のあんな短時間で白銀狼を含む狼魔獣10匹以上を一人で退治してきたし、そんなの普通の魔法使いじゃ無理だよ」
「普通の魔法使いってそうなんですか?」
あ、サリナも疑問を持ちやがった。
「あくまで私は普通の魔法使いよ。ただ縛られる事が嫌いであちこちを旅していたの。しばらくはサリナやカタリナがいるからシデリアの街に落ち着くつもりだけれどね。それじゃ駄目かな」
年上の女の子の視線でじーっとカルミーネ君をみつめてやる。
あ、カルミーネ君、負けた。
甘いな、この辺は女の子の方が強いと相場が決まっているのだよ。
「わかりました」
「そういう事。それじゃ魔法の使い方の訓練、もう少し続けるよ」
続いて教えるのは昨日の夜考えた魔法の接頭詞だ。
「特に威力を強めたい魔法がある場合、これから教える接頭詞を魔法の前に唱えるといいの。魔法の威力がそれだけで数倍以上になるわ。そんな訳でそれぞれの接頭詞を紙に書いておいたから、唱えて魔法を使ってごらんなさい」
「ぶるーふりいりいおんでーぬ、水さん出ろ!」
「紺青の気高き氷の精よ《ネイビーノーブルチルノ》、氷の壁!」
うんうん、2人とも威力がかなり上がったようだ。
厳密には俺の呪文とカタリナの呪文でブルーが被るけれどまあいいか。
あとで問題になったら俺の方の文句を少し変えよう。
そしてカルミーネ君も諦めたのか魔法の魅力に負けたのか練習を始める。
「茶色で静かなる土の精よ《ブラウンサイレントノーム》、穴よ出来ろ!」
よしよし、直径
これだけ大きければ使えるな。
「あとカルミーネ、練習で出来た穴は魔法で埋めておいて。穴よ出来ろの代わりに穴よ埋まれ、でいいから」
穴ぼこを何カ所も作るとまずいしな。
カルミーネ君が穴を埋め終わった処で皆を集める。
「さて、今日は3人の魔法を全部使って狼魔獣を退治するよ。
まずは
① ジョアンナお姉ちゃんの魔法で狼の群れがいる上空へ行く
② そこでなるべく一度に多くの狼魔獣を落とせるようにカルミーネが大きな穴を魔法で作る
③ 残った狼魔獣をカタリナの水の呪文で穴へと押し流す
④ 逃げようとする狼魔獣をサリナの氷の魔法で邪魔して穴の方へ誘導する
⑤ ジョアンナお姉ちゃんは狼魔獣を誘導したり穴に落ちた狼魔獣が上に上がらないように風の魔法で阻止する
⑥ 近くにいる狼魔獣が全部穴に落ちたら、カタリナの魔法で穴に水を張って、サリナの魔法で水を凍らせて閉じ込めて殺す
⑦ 最後は皆で氷をとかして狼を回収して、穴を元通り埋めて終わり
わかったかな」
「水で狼魔獣を流す、わかった」
「狼魔獣を出来るだけ穴の方へ誘導するんですね」
「まずは狼魔獣が堕ちるよう大きくて深い穴を掘る。うん」
それぞれわかったようだ。
「あと呪文は自分の属性に関する事だったらどんな言い方でも大丈夫だよ。穴よ出来ろでも、穴よ開けでも。自分の属性に関わるものでイメージ出来るならどんな言葉でも魔法になるから。その辺いい言葉が思いついたら自分で試してみてね」
これは全員に言っている様だが実はカルミーネ君用のアドバイスだ。
サリナとカタリナは家で色々練習してその辺の事はもう知っているから。
今回は俺は出来るだけ補助に徹するつもりだ。
本当は全部俺一人で例の呼吸停止魔法を使った方が早い。
でもここは全員で魔法を使う事、そうやって魔法を練習する事に意義がある。
自分も手伝ったのならお金を貰う事に抵抗も無いだろうしな。
「さて、それじゃ目的地まで空を飛んでいくよ。『
ふっと全員空へと舞い上がる。
なお只の
流石にサリナとカタリナはもう慣れているが、カルミーネ君はぎょっとした様子で不安げにあちこち見たり手で付近を探ったりしている。
この様子も慣れると見られなくなるんだろうな。
だから今のうちにじっくりと楽しんでおこう。
「それじゃカルミーネ、狼の群れが大体どの辺にいるか案内して」
「わ、わかりました。ここからですとまずはあの山頂が三角な山、あそこに向かって進みます」
カルミーネ君の言うとおり飛んだところ、森の中にちょうど広場状に開けた場所に出た。
夜行性の狼魔獣、黒狼灰色狼あわせて20匹程度の群れが夜に備えて休んでいる。
なお一応俺が気配隠匿の魔法をこっそりかけている。
だから狼達はまだ俺達に気づいていない。
「よし、それじゃカルミーネ、頼むわね」
「わかりました。ええと……
ドン!
広場の8割が陥没して大穴になった。
今までよりも遙かに強力だ。
きっと狼のいる範囲を見て、鮮明なイメージで魔法を唱えたんだろう。
「ぶるうふりいりいおんでーぬ! お水出ろ! お水でろ!」
「紺青の気高き氷の精よ《ネイビーノーブルチルノ》! 氷結! 氷壁!」
カタリナはノリノリで魔法を唱えまくっている。
一方でサリナは流石最年長、穴の壁を凍らせて狼が登れないようにしたり、逃げようとした狼の前に氷壁を作って退路を断ったりいい仕事をしている。
無論俺も色々やっている。
飛行位置を調整しながら逃げそうな狼の方向を風で変えたり、ジャンプで無理矢理穴から出ようとする狼を風で押し戻したり。
「
カルミーネも土魔法で狼を足止めする技を見つけたようだ。
よしよし。
ほぼ全部の狼魔獣が穴の中へ入った事を確認した。
「カタリナ、穴に思い切り水を出して!」
「わかった。ぶるうふりいりいおんでーぬ! お水めいっぱい!」
狼魔獣がすべて水中に没したところでサリナがとどめを刺す。
「紺青の気高き氷の精よ《ネイビーノーブルチルノ》! 氷結!」
あとはもう、狼魔獣が溺死するのを待つだけだ。
回りに他の魔獣の気配が無いことを確認し、全員地上へと降りる。
「はいみなさんお疲れ様。全部の狼魔獣が死んだらカタリナの魔法で水を無くして貰って、狼魔獣を集めるよ」
「すごい、こんなに簡単に……」
カルミーネ君が改めて状態を見て絶句している。
「そうですよね。よく考えたら前に村に黒狼魔獣1匹が入り込んだ時、村の大人総出でかかって3人怪我してやっと倒したのに、今は4人でこれだけ倒したんだよね」
サリナも今の状態の異常さに気づいてしまったようだ。
「カタリナ頑張った!」
うん君はそれでいい。
というかサリナもカルミーネ君もその程度に軽くとらえて欲しいけれどな。
仕方無いから誘導しよう。
「全員で魔法を使うとこれくらいは簡単に出来る訳。まだまだ最初だから狼魔獣が相手だけれど、慣れてきたらもっと色々な魔獣や魔物を相手にするからね。だから今日使ったり考えたりした魔法は次も使えるように頑張ってね」
強引にまとめたところで狼魔獣の気配を確認する。
みなさんお亡くなりになったようだ。
「それじゃサリナ、氷を解かして。氷がとけたらカタリナ、水さんばいばいして」
「紺青の気高き氷の精よ《ネイビーノーブルチルノ》! 氷よとけろ!」
「ぶるうふりいりいおんでーぬ! お水さんばいばい!」
後に残ったのは狼魔獣の死骸だけだ。
ただちょっと下がぬかるんだかな。
「下が泥だらけだから私が風で集めるね。『
どさどさっ。
数としては昨日の狼より多い。
取り敢えず俺のポシェットに全部入れる。
「これで終わりかな。お弁当を食べるほどかからなかったね。お疲れ様」
そう俺が言った時だった。
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