第10話 お食事とお買い物

 あの洋服屋が『料理が美味しい処』として勧めてくれただけあった。

 昼食も無茶苦茶美味しい。

 勿論田舎の宿屋だから高価な香辛料とかは一切使っていない。

 でもハーブだの干しキノコだので美味しく仕上げているのだ。


 最初メニューに書いてある料理が名前だけではどんな料理かわからなくて、あのお姉さんに、

「ここのおすすめのランチ3種類を持ってきて下さい」

と頼んだのだがそれで正解だった。

 アヒル肉煮込みと塩漬けの豚肉を焼いたものといろんな肉をミンチにして混ぜて焼いた物。

 3種類どれも無茶苦茶美味しい。

 3人でそれぞれわけてたべたのだが俺のミンチ肉焼きはかなりカタリナに食べられてしまったような……

 でもまあ可愛いからいいか。

 我ながら甘いとおもうけれど。


 食事中は美味しくて話など出来なかったので、食べ終わった後外に出て歩きながら話をする。

「これから家の中に必要な物を買いに行くよ。もし欲しいものがあったら遠慮せず言ってね」

「欲しいものですか……」

「さっきのお肉」

 おいおいカタリナ。


「また今日の夜もあそこでご飯を食べるから大丈夫だよ。だからそれ以外、例えば絵を描いたりする紙とか筆記用具とか。サリナとカタリナは文字は読み書きできる?」

「簡単なものなら」

「ちょっとだけ」

 なるほど。

「それならお勉強用にその辺も買っておこうね。魔法の勉強をするには文字の読み書きが出来た方がいいから」

「でも紙って高いですよね」

「羊皮紙は高いけれど植物繊維で作った物ならそこまで高くないでしょ。それにある程度書かないと実際覚えないから紙は必須。書きやすいペンとかもね。あと非常食とかもある程度備蓄しておきたいし」


 他に鍛冶屋とかがあったら金属資材もある程度確保しておきたい。

 でも金属類は結構値が張るから一人で買い物に行く時に買った方がいいか。

 そんな訳で本屋で勉強に使えそうな本を買って、ついでに紙もごっそり買う。

 このポシェット型収納具に幾らでも入るからその辺は楽だ。

 筆記具は取り敢えず使いやすい鉛筆でいいか。

 更に干し肉とかライ麦パンとか保存食を買い込んで、最後に到着したのは服屋。

 今朝服を注文したあの店だ。

「まだ服は出来ていないですよね」

「追加で買いたい服を思い出したの」

 そう、ちょっとした思いつきだ。

 扉をノックした後、中へ。


「おや、随分早いお出ましだね。何か別の用事かい」

「私のこのショールと同じ物を2人にもお願いできますか」

「わかりました。サイズはもうわかっているから大丈夫。あわせて小金貨1枚と正銀貨6枚でどうだい」

「お願いします」

「ならこれは今作ってしまうよ」

 仕事が早くて有り難い。

「これでおそろいだね」

「でもいいんですか」

「お金のことは気にしなくて大丈夫。だいたいあの部屋を片付けたらどういう感じかわかったでしょ」

「だから逆に心配なんです」

 あ、確かに。

 お金に無頓着という事がバレたわけだからな。


「ちゃんと正銀貨以上は一応集めて別の場所に置いているから」

「正金貨までありましたけれど」

 あ、まずい。

 普通世帯の1シーズン分以上の収入の価値がある金貨まで転がっていた訳か。

 もう少し力をいれて捜索をするべきだったか。

「このお姉さんはそんな事を心配しないでも大丈夫だよ。そんなレベルの魔法使いじゃ無いから。お嬢さんはそれを知らないのかい」

「確かに村がゴブリンに襲われた時、一人で全部倒してしまいましたけれど」

「そんな甘い程度じゃないよ。私の見た限りではスティヴァレ王国の魔法師団長レベルかそれ以上だね。何でそんな化物レベルの魔法使いがこんな田舎にいるのかはわからないけれどさ」

 それについては俺も言いたい事がある。


「でもそこの冒険者ギルドの支区長マスターも大概でしたよ」

「ラシアちゃんの怖さがわかるなんてやっぱり並みじゃないね」

 あの支区長マスターをちゃん付けかよ!

支区長マスターにお姉さんの事を聞いたら苦笑していましたよ。あんな怖い人はそんなにいないから安心していいって」

「あの娘とはラツィオ以来の知り合いだからね。元々は同い年に見えたのに今じゃこの差だからねえ」

 このおばさんもラシアさんの正体を知っている模様。

 一体何者なんだ本当に。

 絶対只者じゃないだろう。


 そんな話をしている間に2人のショールが完成する。

「ほれ、2人とも羽織ってごらん」

 俺のと色も形も同じ袖付きショールだ。

 カタリナがちょっとあたふたしていたので着るのを手伝ってやる。

「肌ざわりがいいですね」

「こう見えても高級品だからね。そこのお姉さんは気づいたけれどこの田舎じゃ売れないんで特別サービスさ」

「みんなお揃い!」

 うんうん、2人とも喜んでいるし似合っている。

「それじゃ代金です」

 小金貨2枚を払ってお釣りを貰う。

「服は明日の朝には出来るからね。何時でもいいから取りにおいで」

「わかりました」

 店を出た。


「これからはどうしますか?」

「ちょっと森の家に戻ろうと思うの。ちょっと試したい事があってね」

「お部屋を決めるの?」

 それもあるけれどさ。

「サリナもカタリナも魔法を覚えてみない? 上手く行くかはわからないけれど、ひょっとしたら魔法を使えるようになるかもしれない方法があるの」

 ピキーン!

 うん、サリナはよく固まるな。

 歩いている最中に固まったので倒れかけたところを何とか支えてやる。

 あ、復活した。


「でもうち、父も母も魔法なんて使えなかったですよ。勿論私も使った事無いです」

「カタリナは魔法使ってみたい」

 うんうん2人の反応は大体こんな感じなんだな。

 サリナは常識的なところから判断する一方カタリナは基本積極的。

「確かに2人ともこのままじゃ魔法を使えないけれどね。ちょっと試してみたい事があるの。上手く行けば今日から魔法使いよ」

「もし出来るなら……やってみたいです」

 よしよし。


「なら急いで帰る」

 走り出そうとしたカタリナをひょいと掴む。

「大丈夫、魔法もあのお家も逃げないから。それに走ると危ないよ。だから道はちゃんと歩こうね」

「わかった!」

 よし、素直でよろしい。

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