第3話 家族が出来た

 村が見えた。

 同時にゴブリンの群れも見える。

「風さんの力を借りて、ウインドカッター! ウインドカッター! ウインドカッター!」

 連射しながら近づく。

 村の周辺に設置されている木塀はまだ破られていない。

 でも村の入口である木戸の前で村人対ゴブリンの戦いは始まっている。

 どう見ても村人の方が劣勢だ。

 人数差が圧倒的過ぎる。

 村人で戦っているのは10人程度。

 襲っているゴブリンは100匹以上いる。

 既に村人1人が犠牲になって倒れているのも見えた。

 

「2人はこのまま空中で待機ね」

 俺はそう言うと速度を増して一気に村人近くへ。

「エアナイフ、エアナイフ、エアナイフ、エアナイフ、エアナイフ……」

 上空から威力は弱いが高速の魔法攻撃。

 村人と戦っていたゴブリンが怯む。

 これでは倒すまでには至らない。

 でも村人とゴブリンの間に隙間が出来る。


風妖精シルフの力を借りて、エア・ガトリング!」

 村人近くのゴブリンが倒れて村人とゴブリンの間が広がる。

 その隙間に着地して再び魔法連射。

「エアナイフ、エアナイフ、エアナイフ、エアナイフ、エアナイフ……」

 ゴブリンが一瞬怯んだ隙に大技へ移行。

「風さんの力を借りて、ウインドカッター! ウインドカッター! ウインドカッター!」

 残ったゴブリンを斬って斬って斬りまくる。


 一番奥に固いのが1匹。

 両腕をクロスして顔を守りウィンドカッターに耐えている。

 一回り大きいし、どうやらこれがゴブリンのボスらしい。

 なら恥ずかしいが接頭詞を使った強力技だ。

「プル●ンプ●ンフ●ミファ●ファー エアスピア!」

 凶悪な空気の槍が奴を襲う。

 ズズバッ!

 腹に大穴が開いて緑色の液体が吹き出た。

 流石に恥ずかしい接頭詞の威力は絶大だ。


 周りはもう惨憺たる状況。

 あちこち切断されたゴブリンの屍体が緑色の液体を流して倒れている。

 見た目が良くないが戦闘後だし仕方無い。

 なお俺の白地に青いコスチュームは全く汚れていない。

 魔法的な防汚効果があるからだ。


 気配を探ってみるが生きているゴブリンの気配はもう感じない。

 これで全部片付いたようだ。

 そうだ、2人ももういいだろう。

 こっちに引き寄せてそのまま下へおろしてやる。


「ありがとうございます。助かりました」

 そう言って頭を下げる村人数人。

 そして何人かは村の中へ。

 戦いが終わったことを知らせにでも行ったのだろう。

 ところでさっき助けた2人は?

 見るとゴブリンの間で倒れている村人の傍らにしゃがみ込んでいた。

「お父さん! お父さん!」

「起きて!」

 お父さんってあの倒れた村人か。


 咄嗟に近寄って状態を確認。駄目だ、死んでいる。

 ゴブリンの木槍がちょうど心臓部分に突き刺さってしまっていた。

「ごめん、間に合わなかった」

 せめてという事で汚れた顔や服を魔法で綺麗にする。

 俺にはそれくらいしか出来る事は無い。


「マティスは2人を助けに行こうとしたんです」

 傍らの村人の説明。

 それからどうなったかは俺も想像がつく。

 だからそれ以上聞かない。

 実際田舎では魔物に襲撃されて死亡なんてのは珍しい死因じゃないのだ。

 村そのものが襲われて全滅なんてのも数年に1回は耳にする。

 都市以外は残念ながらこれが現状だ。

 もっと早く家を出て2人に気づけばあるいは……

 でもそれは結果論に過ぎない。


 村人2人が担架を持ってやってきた。

 倒れた男性の死体をその上に載せる。

「マティスの遺体は村の教会に運びます。あと助けていただいたお礼の話も中で致したいと思います。宜しいでしょうか」

 まだ泣きじゃくっている2人。

 俺はただ頷く。


 ◇◇◇


 小さな教会に男の遺体を運んだ後、俺は村長の家へ。

 なお服装はジャージ上下に着替えた。

 これでも村の中はかなり浮く格好。

 でもあのフリフリコスチュームよりはましだ。


「この度は本当にありがとうございました。本当は色々お礼をするべきでしょうが、この村は貧しいので野菜や木材程度しか……」

 別にお礼はいらないが、気になる事はある。

「お礼は別にいいですが、あの子達2人は大丈夫ですか」

「それが……」

 それがどうしたのだ。


「元々マティスは昨年妻に流行病で先立たれて、子2人と3人暮らしだったのです]

 おいちょっと待てよそれじゃ。

「誰か親戚とか……」

 言いかけて村長の表情を見て俺はそれ以上尋ねるのをやめる。

 この辺りの開拓村じゃ他人の子を養えるような余裕のある家はまず無い。

 良くて街の商家に住み込みで働くという形で売られるか、悪ければ……


「なら私が引き取ります。これでも少しは蓄えもありますから」

 思わずそう言ってしまった。

「いいのですか。それに失礼ですがそんなにお若いのに」

「見かけよりは年を取っています。これでも魔法使いですから」

 いきなり余分な事をしてしまったと思うが仕方無い。

 見過ごすことが出来なかったのだ。

 幸い3人でも数年は大丈夫な程度の蓄えはある。


 でもこれで職を探す必要性がますます増えた。

 なら聞いておこう。

「ところでここから一番近い冒険者ギルドがある街は何処ですか」

「シデリアですな。ここから10離20kmほど南です。朝この村を出て南の街道沿いに行けば昼までには着きます」

 シデリアか。記憶に無い名前の街だ。

 地図に載っているような街はだいたいは知っていたつもりなのだけれども。

 この辺は相当に田舎なのだろうかと思う。


 その他にも色々と話を聞く。

 この村はフィアンの村で、主に農業と林業で暮らしている事。

 ここはレッジャーナ県でこの村を含む付近全体が割と最近開拓されて出来た場所だという事。

 それなら俺がかつて居住していたスティヴァレ王国の国内だ。

 ただしレッジャーナ県は国の最南端側でつまりはど田舎。

 しかも新しい開拓区域なので俺が知らなかったのも無理は無い。


 ここフィアンの村も15年前に開拓で出来た場所であること。

 この村自体やっと産業が軌道に乗り始めた段階でそれほど豊かでは無い事。

 先程の少女2人は姉がサリナで12歳、妹がカタリナで6歳。

 死んだマティスは木こりをしていて子2人を養っていた事。

 マティスと妻のグレンダは開拓時に他の街から来たので親戚などはいない事。

 5年前のグレンダが流行病で死に以降3人で暮らしていた事。

 そんな感じだ。 

 

 やはりあの2人、サリナとカタリナは俺が引き取って正解のようだ。

 折角助けたのに二束三文で売られるようじゃ悲しすぎる。

 取り敢えず葬式をして、墓を建てたら3人で街に向かえばいいだろう。

 この村では俺が稼げるような仕事は無い。

 街へ出て魔獣退治の報奨金で暮らすのが一番手っ取り早そうだ。

 ただ2人がこの村を離れたがらない可能性もある。

 その場合はまあ、この村から街へ通ってもいいだろう。

 歩いて3時間でも空を飛べばすぐだ。

 この方がいいかな。2人の生活を変えないで済んで。

 まあその辺は後程2人と相談だ。

 何せ引き取ると言った癖にまだ2人とほとんど話していない。

 強烈な悪ガキだったら……って事は多分無いと思う。

 そういう性格で生きていけるほどこの辺の生活は甘くない。


 翌日マティスの葬式が村長主催で、ほぼ村人全員の参列で行われた。

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