第4話 三姉妹です

「何故私達を引き取ろうと思ったのでしょうか。魔法使い様のお役に立てるような事はほとんど無いと思います」

 葬式の後、村長に連れられて2人の家へ。

 私が今後2人の面倒をみると村長が説明した後のサリナの台詞だ。

 正直いきなりそう言われてちょっと答えに困る。

 可哀想だったからなんてちょっと言えない。

 気分だけで子供2人を引き取れるような暮らしはここでは普通ではないのだ。

 だからちょっと考えてから答える。


「1人より人数が多い方が楽しいでしょ。それに私は家事関係が得意じゃないの。だからその辺をお願いできると助かるかなと思って」

 見た目に合わせて喋り方は一応注意している。

 今の姿では俺という一人称が似合わないだろうし。

「それじゃ本当にいいのですか。もし何ならカタリナだけでもお願いします。家事ならカタリナも色々お手伝いができますから」

「大丈夫よ。これでもそこそこお金あるしね」

 そう言って付け加える。


「あとこれからは魔法使い様じゃなくてジョアンナと呼んで」

 ジョアンナとは村長に名前を聞かれた時に名乗った名前で特に意味は無い。

 サリナとカタリナの名前から語呂で思いついたというだけだ。

 かつての俺自身の名前は思い出せないし。


「それではジョアンナさん」

「さん付け禁止。だって見かけ上は私とサリナ、そう年齢変わらないでしょ。だからお姉ちゃんくらいのつもりでお願い。何もつけないのが言いにくいならお姉ちゃん呼びで」

「わかりました。ジョアンナお姉さん」

「さん付けではなくちゃん付けで、お姉ちゃん」

「ジョアンナお姉ちゃん」

 うん、女の子にお姉ちゃん呼びしてもらうと何かぞくぞくする。

 でもこれは俺の性癖の為にそう呼ばせる訳じゃ無いからな、念の為。

 そう思いつつ今度はカタリナに。


「カタリナもこれから私をジョアンナかお姉ちゃんと呼ぶ事、いいわね」

「はい。ジョアンナお姉ちゃん」

「よしよし」

 頭を撫でてやる。

 うん、こっちは素直に可愛くていい。

 ただ髪がちょいべとついているかな。

 後で風呂で洗ってあげよう。


「それでは2人と家の中で今後の事を話します。村長さんありがとうございました」

「わかった。もし何か出来ることがあれば何なりと言ってくれ。村を救った恩人だ。この村で出来る事は限られているがその範囲でなんとかするから」

「わかりました。ありがとうございます」

 正直な処その辺はそれほど期待していないし出来ないと思う。

 普通に暮らしていくだけでなんとかという状態だろう。

 だから気持ちだけ受け取っておくつもりだ。


 村長が帰った後、改めて2人とテーブルで話をする。

「そんな訳で急遽本日から一緒に暮らすけれどよろしくね。それで今後どうしようかというお話をこれからするけれどいいかな。今見た通り私は魔法使いでここだと私のお仕事は無いの。だからシデリアへ行こうと思うけれど2人はどうしたい? 

 この家がいいなら私はシデリアまで毎日通うし、一緒に行っていいなら皆でシデリアに行くし」

「でもお姉さ……お姉ちゃん、シデリアまで行くのは大変です。行って帰るだけで1日かかってしまいます」

「私は空を飛べるから大丈夫だよ」

 恥ずかしい衣装コスチュームを着て可愛い接頭詞付きの呪文を唱える必要があるけれど。

 なお今はジャージ姿だ。

 これも正直この世界に合っていないから出来れば早期に着替えたい。

 あ、そうだ。


「今の話と関係無いけれど後でサリナの服を貸して。私、普通の服持っていないの。後でちゃんと2人の服は街で買うから」

 何せ今ある服の在庫がフリフリコスチューム、着ぐるみオーバーオール、ジャージ、コートだ。

 全く何処の何を参考にこんな服を考えたんだろうと思う。

 魔法を使って異世界の知識まで収集していたようだしな、若返る前は。

 その辺記憶が曖昧なのでよくわからないのだけれども。


「それはかまいませんけれど、私の服でいいですか。何でしたら母の服がとってありますけれど」

 おっとそれの方がいいかな。

 身長がサリナの服では微妙にあわない気もするし。

「それじゃ後であわせてみるからお願いね」

 そう頼んでから話を元に戻す。


「それじゃ本題。シデリアまで行くのとここに残るの、どっちがいい?」

「街に行ってみたい」

 カタリナは素直にそう言う。

 でもサリナはちょっと迷っているようだ。

「でも街に一緒に行っていいですか。お金もかかります」

「それ位は余裕があるから大丈夫だよ」

「ならシデリアに行ってみたいです」

 よしよし、子供は素直が一番だよ。

 サリナの頭も撫でてやる。

 うんうん、妹がいるってこんな感じなのかな。

 なかなかいい感じだ。


「それじゃちょっと服を試着させて。あとお風呂入ってさっぱりしようか」

「すみません。この村にお風呂は無いんです」

 何、風呂が無い! そう思って気づく。

 この規模の村では個人宅どころか村全体でも風呂なんて無いのが普通だ。

 湯沸かし装置は金属を大量に使うから高価だし、水や薪も大量に使うから。

 でも2人とも風呂に入れたい。

 こういう環境だからか髪がちょいベタ付いているのだ。

 あ、そう言えばアレをもってきているんだった。

 アレなら風呂がある家まで一瞬だな。


「それじゃ着替えとタオル、あと私が着られそうなお母さんの服を用意してくれるかな。お風呂に入りに行こう」

「えっ。でも」

 サリナは? という表情。

 まあその辺わからなければそうなるよな。


「任せておいて。これでも魔法使いだから」

 着替えを出して貰って、お母さんの服を貸して貰って準備よし。

 さて、念の為に家の鍵を確認する。

 ちゃんと閉まっているな、よしよし。

 でも念の為魔法で確実にロックしておこう。

厳重戸締まりハードロック!」

 これでこの家には今中にいる3人しか入れない。

 なおこれは継続魔法で俺が解くまで維持される。


「外へ行くんじゃないんですか?」

「魔法使い用の秘密道具があってね」

 リビングの壁際、暖炉の隣に移動。

 収納庫であるポシェットから簡易型転移門を取り出す。


「えっお姉ちゃん、今それ何処から出しました?」

 そういえば収納庫の説明をしていなかったな。

 あとこれくらいの女の子にお姉ちゃんと呼ばれるのはやっぱりいい。

 微妙にぞくぞくする。


「このポシェット、魔法を使った収納庫になっているの。何でも入るし入れたものは状態そのままだから便利よ。生きているものは入れられないけれどね」

 簡易型転移門は直径10センチ高さ1メートル程度の円筒形の柱2本だ。

 これをだいたい1メートル程度間を置いて立てる。

 魔力を通せば設置完了。

 あとは行き先あの森の中の家を思い浮かべながら通るだけだ。


「手をつなぐから荷物を預かるね。あとは手でひっぱられるままに歩いてみて。あと慣れないうちは目をつむった方がいいかな」

 サリナの右手を俺が握り、サリナの左手がカタリナの右手を握る。

 サリナの手は俺よりちょい小さく体温高めだ。

 にぎーっと握りたくなるのを堪え、軽く握って。

 そして俺は2人を転移門の先へと案内する。

 

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