7話目 中編 妖刀
【指定の時間になったのをお知らせします】
「……ん」
意識がない暗闇の中、頭に直接アナさんの声が聞こえる。
昨日の夜、寝る前にアナさんに早朝起こしてもらうよう頼んだのだ。
アラームのような役割を押し付けてしまっているが、実際下手なアラームより頭が冴えて起きやすいので二度寝の心配がないというのがたった今実証された。
しかし本当によく眠れた。
最近は硬いベッドや椅子や地面にばかり寝ていたせいか、もしくはこういうまともな柔らかい布団で寝るのは久しぶりだったからか。
どちらにせよ、まだ睡眠が必要なこの体にはありがたい。
「……ん?」
頭が冴えたことで横に誰かが寝ているのに気付いた。布団を頭から被ってるせいで誰かまではわからないが、……
誰だ?っていうとレチアかアリアのどちらかしか心当たりがない。
昨日どこかへ行ったと思わせて帰ってきたんだな?全く……
「おーい、襲わなければいいってわけじゃないぞ?男の布団に潜り込みやがって――」
顔を確認するついでに説教でもしてやろうと思って布団をめくる。そこにいたのは……ガカンだった。
「…………」
特にイビキを掻くわけでもなく静かに、そして幸せそうに仰向けになって寝ているガカンを見て俺は固まってしまった。
――――
「す、すんません旦那!昨日の夜に用を足した後にどうやら部屋を間違えてしまったようで……」
「いや、いいよ。それくらいの間違いよくあるよくある。ガッカリしたとかそんなんじゃないから」
嘘です。かなり落胆しました。
せめてララ……いや、イクナだったらと思いました。
だけどまさか普通、自分一人だと思ってた横に男が寝てるとは思わないでしょ。
しかも昨日の今日でレチアかアリアのどっちかだと思ってたところにこの顔だ。
見付けた時は呼吸が止まったが、もしガカンに布団が被ってなくて目を覚まして見てしまったその瞬間に見てたら心臓が止まってたかもしれない。それくらい君の顔はインパクトがあるのだよガカン君。
「にしてもずいぶん早い起床ですね?」
「もうここを出るからな」
「わかりやした!」
急な出発宣言だというのにガカンは驚く様子もなく承諾した。
「何も聞かないのか?」
「えぇ、あっしは旦那について行くと決めてますからね。旦那が今すぐここを立つと言うのなら共に行きますぜ!」
ガカンは笑ってそう言う。あらヤダ凄い逞しい!
っと、そういえばガカンの体には俺の血、もといウイルスがいるんだった。
昨日しようとした念話もそのウイルスによるものであり、もし裏切ったりすればその場で即死させることができるという、ある意味今の彼はレチアよりも奴隷みたいな立場になってる状態である。
そしてガカンはそれを自ら望んでそうなり、もはや舎弟とか呼べるレベルで慕ってくれているわけだが。
「物好きな奴め」
「へへへ……」
ガカンは頭を掻きながら照れ笑いを浮かべ、それにつられて俺も笑ってしまう。
すると大きな音が響くくらいの勢いで扉が開かれた。
驚いて視線をそっちに向けると、小さな背丈のオジサンが立っていた。
髪は茶髪で長めのボサボサ、ダンディな髭を蓄えて髪の隙間から隠れている鋭い眼光をたまに覗かせる。
その瞳は蒼く澄んでいて、俺を見透かしているようにも感じた。
「……目が腐りきってるお前さんがヤタだな。んでおかしな顔をしてる奴がガカンか」
「初対面でいきなり失礼だな」
なんで突然部屋に入ってきた奴に目が腐ってる呼ばわりされなきゃならんのだ。
つーか腐りきってるって何。もう最終形態まできちゃってるの、俺の目は?
「俺はここで鍛冶師をしてるレッグってモンだ」
そう名乗った小さな男レッグ。
小柄な体に立派な髭、それに鍛冶師……
「まるでドワーフだな」
「ッ……!」
俺が何となく呟いた一言に、髪の隙間から見えたレッグの目が驚いて息を飲んだように見えた。
「お前さん、なんで……?」
「なんでって……何が?」
「なんで俺がドワーフだって知ってるかって話だよ!」
声を荒らげてるわけではないが、重く圧を感じる声を発するレッグ。
別に知ってて言ったわけじゃないんだけど……
「俺の知ってる特徴だったから言ってみただけだ。あんたが本当にドワーフだったなんて知らなかったよ」
「……マジかよ」
今度は拍子抜けした声で肩を落とすレッグ。
墓穴を掘ったのを自覚したか。
「んで、そのあんたが俺たちに何の用だ?」
「……コレだ」
レッグはしばらく呆然と立ち尽くすと、腰に下げていた袋から色々と取り出した。どうやらそれが彼のフィッカーのようだ。
「これは?」
「服だ」
たった一言だけで簡潔に答えるレッグ。
まぁ、俺も察しが悪いわけじゃないからわかるけども……
昨日レチアたちが着ていた服のように、俺たち専用の服も作ってくれたってことか?
広げてみると上が二着、長ズボンが一着ある。
着るとサイズが見事ピッタリだった。
上は白いシャツに黒いコート、ズボンも黒い。
ちょっと中二病心くすぐるデザインがなんとも……
「そっちのマントよりは動き易いだろ」
「たしかに。元々動き回るような戦い方はしないけど、これは助かるな」
「カッコイイですぜ、旦那!」
ガカンからそう言われて少し照れ臭くなる。
俺をカッコイイなんて言ったのはコイツが初めてだよ。
「気に入ったようだな。それとこれもくれてやる」
レッグはニッと笑うと、またフィッカーから何かを取り出す。
その手に握られていたのは複数の小さなナイフとやや長めの剣の二種類。
一つは武器として使えるくらいの短剣と剣の中間くらいの長さをした武器。刀身がやや赤くなっているのが不思議な感じがする。
もう一種類は十本の刃。
持つところが見当たらないのを見るに普通の武器じゃないみたいだが……
「こっちは妖刀紅魔刀。んでこっちの小さいのが投げナイフだ」
「待って。先に報告しなきゃならないような怪しい名前がサラッと流されたんだけど。何、妖刀って」
そうツッコミを入れると、レッグから大きな溜め息が返ってくる。俺が悪いのん?
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