7話目 後編 妖刀
「こっちは妖刀紅魔刀。んでこっちの小さいのが投げナイフ。どっちも俺が打ったモンだ」
「待って。先に報告しなきゃならないような怪しい名前がサラッと流されたんだけど。何、妖刀って」
そうツッコミを入れると、レッグから大きな溜め息が返ってくる。俺が悪いのん?
「お前も持ってるだろ、呪器。それと似たようなもんだ」
「えっ、なんで知ってるの?俺ここに来てから一度も取り出したことないんだけど」
そう言うとさっきよりは小さいが、やれやれと首を振りながら溜め息を吐くレッグ。俺今呆れられること言ったか?
「ドワーフってのがどんな生態か知ってて言ったんじゃないのか?」
「いいや、さっきも言っただろ?俺の知ってる特徴と一緒だったから言ってみただけだって」
「知ってる特徴ってのは?」
「鍛冶が得意なちっちゃいおっさん」
「このクソガキ……あながち間違っちゃいないのがムカつくな」
あからさまに不機嫌そうに口をへの字に曲げる。
「俺たちドワーフは見た相手がどんな武器を使ってるのかってのが見てわかるんだよ。そん中でも呪器や怪しいものを扱ってる奴ってのはそういう雰囲気を纏って、すぐに死ぬやがる……だがお前さんからは今までに会ったことがないようなモンを感じる。だから俺が作ったその妖刀を使いこなせると思ったんだ」
「妖刀を作るって結構簡単に言いますね、流石ドワーフ……ちなみに妖刀と呪器って違うのか?」
それを聞くとレッグが頷く。
「簡単に言やぁ、妖刀ってのは『意思』を持ってる。呪器が人の体を壊すものだとしたら、妖刀は人の心を壊す」
「なんてものを渡してくれてんだ。俺は体は元に戻るけど心はガラスのハートなんだぞ」
「お前なら使いこなせる」なんてカッコ良さげに言っときながら、ただ厄介なものを押し付けようとしてるだけじゃねえか……
「お前に壊れる心なんてあるのか?」
鬼かコイツは。
実はドワーフじゃなくて鬼人みたいな種族だろ。
「まぁ、冗談は置いといて。呪器を使ってて正常なんだ、きっと妖刀にも気に入られると思うぜ?試しにその妖刀に意識を集中してみな」
お試しで勧めていいもんじゃないはずなんですがね。
とはいえ興味もあるのでやってみたいとは思う。
「でも集中って……どうすりゃあいいんだ?」
「そんなもん、妖刀のこと『だけ』を考えりゃいい。人間誰だって一つのことに集中することあるだろ?ああいう感じだ」
わかりやすい例えだ。
俺は他のことを一度忘れ、妖刀だけを見つめる。
【……あまり見つめられると照れるではないか】
「うわ、喋った」
意思があると言っても抽象的なものだろうと思い込んでいたので、そこに女の、しかも少女の声が聞こえてきて思わずそんな言葉が出てきてしまった。
【なんだその反応は?失礼な奴め……そこはせめてもっと驚くところであろうが!】
十分驚いてるんだが。むしろ引いてるまである。
というか、コイツこそなんだその口調はと問いたい。どこぞのロリっ子妾スライムを思い出してしまうじゃないか。
「声が聞こえるのか?」
レッグがそう声をかけてくる。
「もっと驚けよって怒られた」
「何じゃそりゃ……」
【そりゃ貴様、真顔で薄い反応されたらそう言いたくなるわ!】
妖刀だけに集中してないはずなのに、またもやさっきの声が聞こえてきた。
「集中してないのにまだ声が聞こえるのはなんで?」
【リンクが繋がったからじゃな。一度でも余の声が聞こえるようになれば普通に会話するくらいできるようになる】
「何その呪いみたいなの……あっ、妖刀ってそういう?」
【違うわい!】
冗談半分で言った言葉にツッコミを入れられる。
妖刀で声が聞こえるって言ったら無理矢理操られたりしてヒャッハー的なのをイメージしていたが、ずいぶんと親近感がある人格だ。
【にしても物好きな人間だの、妖刀と言われて手にするとは。ワシを手にして頭がおかしくなる人間は山ほどいるが、最初から狂ってる奴に持たれたのは初めてじゃ】
「これ折っていいか?」
「なんでだよ……」
妖刀から頭が狂ってる呼ばわりされて少しカチンときたのでそう言うとレッグから呆れられてしまった。
どいつもこいつも初見で俺のことバカにし過ぎじゃない?
【そもそもこうやって普通に会話できていること自体が異常なのじゃ】
「異常な存在に異常って呼ばれるって褒められてるの?貶されてるの?」
【ワシからすれば十分に褒めておるよ。正気を保つことができれば、ワシなぞただのちょっと切れ味の良いだけの喋る名刀なのじゃからな】
「『ワシなぞ』とか言いながら何気に自画自賛してんじゃねえよ。自分を持ち上げまくってんじゃんか」
どうしようコイツ、もしかしたら結構面倒臭い性格なのかもしれない。
【おい、今ワシのことを「面倒臭い性格かもしれない」と思ったじゃろ】
「わぁお、心を読まれた」
【クッソ腹立つ反応じゃな……】
実際に心を読まれたが感情を込めずにおどけて見せるだけにした。まぁ、わざとムカつかせたんだが。
「しかしなぁ……最近はあまり武器を使わなくなってるから別に要らない――」
「【待て待て待て待て待て!】」
妖刀とレッグの声が重なって聞こえた。
【妖刀じゃぞ?超切れる有能な武器じゃぞ!?精神に異常をきたせばそれまでじゃが、扱えれば最強じゃぞ?】
「俺としても持って行ってもらいたい!押し付ける形になるが、変な奴に渡るより数十倍マシだからな……なんだったら他にも必要なモンがあったら今すぐ作ってやる!どうだ?」
持って行ってほしいというそれぞれの想いをぶつけられる。
いや、どうだともうされましても……そんな危ないもんを渡されても俺が困るのだけど……
「あぅ~!」
そう思っていると九尾の赤ん坊が何かを訴えかけるように大きめの声を上げる。
「なんだ……?」
レッグたちと共に籠の中を覗くと、九尾の赤ん坊が俺の持ってる妖刀へ物欲しそうに手を伸ばしていた。
【ほう、魔物の赤ん坊か……どれ、要望通りにワシを渡してみよ】
「お前みたいな危ないものを赤ん坊に渡すバカはいないだろうが」
【赤ん坊と言っても魔物だろう?それに心配するな、お前さんが思ってるようなことにはならんよ】
少し迷ったが、赤ん坊自身が妖刀を求めているのも気になったし、試しに鞘に入った状態で渡してみた。
すると妖刀から黒々しいものが溢れ出し、赤ん坊へと移っていく。
……なんだか嫌な感じしかしないが、元々魔物の赤ん坊と妖刀の組み合わせなんだから当たり前か?
「……やはり成功したようじゃな」
「「えっ……」」
赤ん坊の方から聞こえた妖刀の声にレッグとガカンが驚いた声を重ねて出した。
何を驚いているんだ?と声に出しかけたが、そもそもこの妖刀の声は俺にしか聞こえないはずなので、ガカンとレッグに聞こえているのがおかしい。
赤ん坊の方を見ると、ハッキリと開いた目で俺を見つめていた。
「改めて初めまして主様。貴様の配下であり元妖刀の妖狐ちゃんじゃ。優しくしておくれ♪」
oh……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます