6話目 後編 その夜
ありのまま今起こったことを話すぜ……
廊下でレチアに押し倒されたと思ったら目の前に女性の生足とパンツが現れた。
何を言ってるかわからないと思うが俺もわからねぇ……誰か説明してくれ。
「……アリア?」
するとレチアが訝しげな表情で見上げてその人物の名を口にする。
なんだ、アリアだったのか……いや、アリアだったとしてもなんでこんなところにいるのかがわからんが。
彼女のその姿は黒い下着が普通に見えてしまうほど薄い、いわゆるネグリジェというものを着ていた。
まさか現実でそんなものを着る奴がいるとは思わなかった。
あとレチアの顔が訝しげんでるというより不愉快そうに眉をひそめて睨んでいると言った方が合ってるかもしれない。
「えぇ、そうです私ですわ!」
大胆不敵という言葉が似合いそうな仁王立ちした彼女の態度。
俺と目が合ってもニッと笑った笑みを浮かべて退こうとしない。
「アリアさん?色々見えちゃってますけど……」
「見せているのです!」
わかってはいたけど堂々と言われてしまった。
「当ててるのよ」の服バージョン。
そもそも彼女のスタイルは抜群以上のものであり、そんな凶悪な体に武器を装備させてしまったら世の男たちは、のたうち回って歓喜することだろう。
俺も今は混乱してリアクションは薄いものの、しっかりと目を逸らさずに見て眼福だとは思ってる健全な男の子なのですよ。
……すいません、おっさんが発情したらただの変態犯罪者ですね。
「ヤタが寝る部屋に何の用にゃ?女が一人、男の部屋で……一体何する気だにゃこのデカパイ!」
凄いよこの子。言葉のブーメラン投げまくって全部帰ってきてる。
「胸が大きいのはあなたも同じでしょうに……ですがレチアさんも『何をしようとしているか』という点では似た考えをお持ちでは?扉越しに聞こえていましたわよ」
「ぬぅ……!」
図星を突かれたレチアは追い詰められた男武将のような声を漏らしてアリアを睨む。こらこら、女の子がそんな顔と声しちゃいかんでしょ。
「僕はいいのにゃ、ずっとヤタと一緒に居られる理由が欲しいからにゃ!でもアリアはどうなのにゃ?」
「ワタクシにもちゃんとした理由があります!」
大きく胸を張ってそう言うアリア。おぉ、レチアに負けず劣らずプルンプルン……いやいや、そうじゃなくって。
そもそも理由があるからその格好で男の部屋に来るってこと自体おかしいからね?
男はみんな狼だってよく言うでしょ。俺はよくヒキガエルみたいだってバカにされたことはあるけど。
するとアリアが深刻な暗い表情をする。
「……近頃、この家に帰って来てからワタクシのところに縁談の話が来ているんです」
「縁談?」
「つまりお見合い……結婚話か」
縁談の意味がわかっていそうになかったレチアに俺が補足してアリアが頷く。
「前にも何度かそういう話があって、それが嫌で家を飛び出したんです」
「そりゃまた凄い話だな……」
良いところのお嬢様が家を飛び出して冒険者へ……普通なら世間の厳しさに負けてしまうのがオチに見える展開だが、彼女は俺と出会った頃には見事に名を馳せていたのだ。
もしかしたら最初に苦労したのかもしれないが、それでも折れずに上り詰めて見せた。そこは素直に#称賛__しょうさん__#してあげたい。
「ですが知っての通り、ワタクシは冒険者を引退して実家に戻って来ました。怒られる覚悟でしたが、両親も妹たちも笑顔で出迎えてくれました……しかしその後!」
その状況を思い出して穏やかだった彼女の表情が一変、怒りに歪め歯ぎしりをして拳を握る。
「『やっぱり貴族の娘なら』と母が縁談相手を探してワタクシに見せてくるようになったのです!しかもワタクシの好みとはかけ離れたやせ細ったりぽっちゃりした男性ばかり!」
俺はとりあえずいつまでも上に乗ってるレチアを退かし、立ちっぱなしで話を聞くというのも嫌なのでベッドの上に座った。
レチアも似たように「とりあえず」で感情無く俺の横に座り、アリアもスッとレチアとは逆に横に座る。
超乳美女二人に挟まれる凄い状況な上に、二人とも気付いてないのかその柔らかいものが両腕に当てられてくるのですが。
これで理性保ってる俺が一番凄くね?
「しかし、ワタクシが一番重視しているのは顔でも体型でも、ましてや家柄でもなく……強さですわ!」
おっと。急に脳筋みたいな考えになってきたな。
「だったら『自分より強い男』を条件にすればいいんじゃないか?」
「……いいえ、そう簡単な話ではありません」
俺の考えを否定すると、アリアは艶めかしい雰囲気を纏い始めて俺の太ももに手を伸ばす。
「例えばですが、すでに極上のお肉が極上の焼き加減で仕上げられて自分の目の前に置かれているのに、わざわざまた違うお肉を探し求めますでしょうか……?」
……えっ何、もしかしてその例えの「お肉」って俺のこと?
俺を食べても美味しくないよ?しかも今なら絶賛猛毒入り!
「その肉はもう砂まみれになってて食べられなくなってるかもしれないぞ」
「……もしかしてすでに『お手付き』されてますの?」
俺の言い回しを誤解したのか、アリアはレチアをジト目で睨む。
お手付き……っていうと普通は上の身分の男が召使いみたいな女性に手を出すことを言う。
レチアは奴隷だし俺はその主人……なるほど、一応は合ってるのか。まぁ、まず俺から手を出すこと自体してないし、これからも出す気はないんだが。
「それは――」
「そうにゃ!」
違うと言いかけたところでレチアが全力で肯定しに行った。レチアさん?
「僕が好きだって告白してから今までずっと一緒だったにゃ!」
そりゃまぁ、奴隷として買った借金がありますし?それをぬきにしても仲間として一緒にいただけなんだけどね。
「しかもその後、僕の胸を揉みしだいたにゃ!」
そんな記憶ございません。
もしかしてアレか、俺が寝た後に酔ったレチアがしたことか?
自主的にやったわけじゃないのにいつの間にか俺からやったことになろうとしている。完全に濡れ衣じゃねーか。
「そして今まさにここでヤタと子作りする予定だったんだにゃ!」
レチアがそう言って俺の腕を引っ張る。
そんな予定ないんですけどね。たった今あなたに襲われそうになってただけで。
しかし腕が感じている幸せを味わいたいがため、俺は何もツッコミを入れない。
「ですが扉越しに聞いた限りでは合意ではない様子。ということは誘惑してワタクシに傾く可能性は十分あるわけですわね?」
アリアも対抗して反対の腕を引っ張る。
こちらもレチアと同じ大きさ、柔らかさが俺の腕を包む。
「アリアはお嬢様にゃ。両親だって僕たちみたいな宿無しの厄介者よりしっかりした家柄のお坊ちゃんと#番__つがい__#になればいいんじゃにゃーか!」
「い・や・で・す・わ!家のために好きでもない人と一生を過ごすだなんて考えただけでも虫唾が走ります!そんな方と結婚するくらいなら、お父様をぶっ飛ばしてでもまた家を出ますわ!」
流石元冒険者、考えが乱暴。そしてアリアパパ、どんまい。
というか一回それで娘に家出されてんのにまた同じこと繰り返そうとしてるのかよ。
こんなに可愛い娘をそんなに早く嫁に出したがるもんなのか?偉い人んとこの考えはわからん。
それともまさか自分の娘を政治の道具にしようとしてるんじゃ……いや、俺たちを受け入れるような優しい人だからそんなことを考える人じゃないだろう……と思いたい。
「……まぁ、わざわざそんな乱暴な手段に出なくとも穏便に済ませる方法を思い付いたのでここへ来たのですが」
怒りの表情を浮かべていたアリアの顔が穏やかになる。その方法というのがもうこの時点で嫌な予感しかしないんだけど。
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