3話目 中編 フランシス家
「その猫ちゃんはヤタたちのだったんですの?」
「まぁ、俺たちのっていうか、別に飼い主とかになったつもりじゃないんだけど勝手にコイツがついて来るようになっちまったんだ」
俺の肩から飛び降りて、ララやレチアたちの元に駆け寄るウィズの姿を見ながら説明する。
「そうだったのですか。あの子がワタクシたちのところにきたのはつい今朝方でして。ずいぶん人馴れしてましたし、カノンたちも可愛がっていたようなので放置しようと思っていましたの。それに人の言葉がわかっているかのように粗相をしないので凄くお利口でしたわ。何か特別なことでも?」
「……いいや、最初からそういう猫だったよ、ウィズは」
思えばこの世界に来る前に出会った時から不思議な感覚のあった猫だった。
特別目立つようなことはしていなくても、俺の言葉に返事をしたり、店から出てくるのを待っていたりとまるで人間のような行動をする猫だった。
そして俺が「異世界にでも行けたら」なんて口にした直後にドロップキックをお見舞いされこの世界へ……
どう考えてもこの猫がやらかしたとしか思えない。
「……にゃー」
するとララたちに可愛がられていたウィズが俺の視線に気付いて鳴く。
――――
気付けば俺たちは流されるままにフランシスの屋敷の中へと入れられた。
いいとこのお偉いさんらしい豪華な装飾が施された内装。高そうなツボとか額縁が飾られている。
もう玄関の時点で入りたくなかった。下手に触って壊して損害賠償請求とかされても嫌だし。
でもみんな少し驚いたり感心するだけでさっさと行っちゃうし、俺だけ意地張って一人ポツンと玄関に立ってるとかそれだけで不審者扱いされそうだからついて行きますけども。
「そ、そうか……君たちが娘たちを助けてくださった方たちか……」
「ユーモア溢れる勇敢そうな方たち、ですね……」
そしてとりあえずお礼が言いたいからとアリアたちの両親と面と向かうことになったのだが、明らかに俺たちを見て動揺している。
ここも流石は貴族様と言った風に身なりの整った紳士淑女らしい気品を感じる二人。
初老辺りのちょび髭を生やしたブロンド髪の父親らしき男と、やはりアリアに遺伝させた立派なお胸をお持ちの茶色い長髪の女性。
そんな二人からは品定めされるような視線をヒシヒシと感じていた。
そりゃそうだよね、姿を全く隠してないから異様な姿丸出しているんだもん。
そう考えるとアリアがあまりララやイクナの姿を気にしてなかったな……
「ま、これが普通の反応か」
「うちの両親が申し訳ない……」
自分の親の反応が恥ずかしかったのか、アリアが謝ってくる。
「亜種と魔族、それに普通とは言えない外見の人間種が集まってるからな。まともなのは黒猫だけというのがなんとも……」
「追い出されないのが不思議なくらいだにゃ」
「ニャ」
「にゃー」
ララやレチアもそう反応されるのはわかっていたのでそこまできにしておらず、イクナがレチアの語尾を真似ながらウィズと鳴き合っていた。
「えっと、ヤタ様……でしたか?娘のアリアとは冒険者として仲良くしてくださったとか」
「いえ全く」
「「えっ!?」」
アリアママの言葉に即返答すると、アリアとアリアパパの二人が驚きの声を上げる。
「ですが命の恩人と……」
「いやまぁ、助けたのは事実ですが知り合って数時間の間柄ですし、仲良くというほど仲良くしたわけじゃないので……別の意味でなら仲良くさせてもらいましたがね?」
ジト目でアリアを見ると彼女は素早く目を逸らす。
アリアのパーティには一度ボコボコにされた素晴らしい記憶があるからな。どうやら彼女もそれを忘れたわけではないらしい。
「あれは……一時の気の迷いですわ……」
「気の迷いでやっちゃうもんなの、アレ?言っとくけどあんな激しいSMプレイで喜ぶような男じゃないからね、俺」
「ヤタ、ヤタ」
アリアに愚痴る形で文句を言っていると、横からレチアが呼びかけてくる。
「言葉をちゃんと選ばないと誤解されるにゃよ」
「誤解?何を言って――」
周囲を見るとカノンとアリアママが顔を赤くし、アリアパパの額に血管が浮き出ていた。
「『別の意味で仲良く』……『激しいSMプレイ』……!」
「あらあらまぁまぁ……アリアったらそんな趣味にまで目覚めてたなんて……」
「娘とは……その数時間でずいぶん深い仲になったようだねぇ……!」
「「誤解です(わ)!!」」
言葉を相手に伝える時は用法・用量をしっかり守りましょう。
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