13話目 前編 本当の化け物は誰か

☆★☆★

「魔族って……なんだよ、ララ?」

「…………」


 俺の声に反応したのか彼女は一瞬体を跳ねさせ、元々逸らしていた目をさらに横へ逸らす。


「聞いたことないか?……まぁ、まだ若造なお前は知らないかもしれないか。その昔は俺たち人間と獣混じりの亜種以外にもう一種族がいたんだ」


 俺を押さえている男が語り出した。


「そいつらは長い間、人間亜種に関係なく戦いを仕掛けてきやがった。しかも魔物まで従えてな……沢山の奴らが死んだ……友と呼べる奴も、親戚や親兄弟も……その原因を作ったのがその魔族、そして親玉の魔王ってわけさ」


 男が語り終える頃には、周囲はお通夜のような静けさになっていた。


「だが俺たちも総動員して魔族の殲滅に当たり、そして絶滅と共に誰かが魔王を倒して世界は平和になったんだ」

「それでララがその魔族って……他人の空似じゃないのか?その人相書きだって目が黒かったり……違うところがあるじゃねえか」


 たしかに髪型や雰囲気はよく似てる。だがそれを「ララ」と言うには普段から見て知っている彼女とは掛け離れた物々しさを感じていた。


「同姓同名でこれだけ似てる人相書きがあるのに違うってか?んなわけねぇだろ!」

「あぐっ!?」


 ララの近くにいた女が彼女の腹部を蹴り上げ、ララが苦しそうな声を出す。


「おい、やめろ!」

「はっ、『仲間』が痛め付けられて焦ったか?言っとくが、捕まえろって言われてんのはそいつだけじゃねえからな?」


 そして一人の男が俺の目の前に違う内容の紙を見せてきた。


「なっ……!?」


 その内容に俺は驚愕した。

 そこにはグラサンをかけた俺と、イクナのフード姿が描かれている。


『この者ども、国家の重要機密を盗みし者。見つけ次第報告されたし。加えてこの者、すでに人外であるため注意』

「……だってよ、化け物」

「どういう……ことだよ……?」


 なんでバレたのか……そう考えてると、その紙を持っていた男がしゃがんで俺を見下す。

 ようやく見えたその男の顔は……どこか見覚えのあるものだった。

 なんだ、こいつ……ボサボサの髪に無精髭。ここにいなければ物乞いと間違うほど汚い身なりをしている。

 見覚えがないようであるようで……


「……べラル?」


 俺が呟くとその男は嬉しそうに、しかし今まで見たことがないくらいの狂気じみた笑みを浮かべる。


「あぁったりぃぃぃぃ!」

「ホントに……あんたなのか……?経った一ヶ月で何が……」


 「何があったか」と問おうとしたところで、べラルらしい男の顔から表情が消えた。


「……お前の、せいだよ」

「何?」


 恨みのこもった声でべラルが呟き、やがて徐々に彼の体が震え始めた。


「テメェが俺を狂わせた!あの時!テメェが大人しく俺に殺されねぇから!あれから毎晩悪夢にうなされて眠れずにいる俺の気持ちがわかるか……?化け物に脅された挙句に冒険者家業から追いやられた俺の気持ちがよ!?」


 そう言ってベラルは俺の頭の髪を掴んで引っ張り、怒りを露わにした顔を近付けてきた。


「……だからよ、お前に復讐してやろうって考えたんだ。そしてここまで追いかけ、ついに二つの面白い話を聞いたんだ。そこの黒髪女が魔族であることを、亜種の金髪女と話してたんだ……その時代を生きた人間に取って魔族は仇敵だからな、情報を全て提供したんだよぉ。そんで――」


 ベラルの口角が引き上げられ、怒りの表情に笑みが混ざり、さらに顔を近付けて耳打ちしてくる。


「――どっかの国のお偉いさんが話をしていたのも聞いちまったんだよ。秘密裏に建てた研究所、そこにいた大量の研究材料、その中に傷を一瞬で癒すウイルスがあったことをな」


 そう言うとベラルは俺の頭を離し、そしてその手で俺の背にいる九尾の赤ん坊を奪い取って行った。


「だからその場で全て報告した。最初は怪しまれもしたが、最後には信じてくれたよ……にしても化け物が亜種の赤ん坊を連れてるなんてな。少し見ない間に『らしく』なってんじゃんかよぉ?」

「か、えせ……!」

「あん?化け物がいっちょ前に子育ての真似事でもしようってのか?泣けるねぇ……ああ、そうだ。そういえばその女たちの正体もこいつらに言ってあるのか?」


 「正体?」と冒険者たちが首を傾げる。

 ――やめろ

 そしてその言葉の意味が気になった冒険者たちがレチアの帽子とイクナのフードを脱がせる。


「うげぇ、この女、亜種だったのかよ!デケー乳してる良い女だと思ってたのにガッカリじゃねえか」

「うおっ!こっちも見ろよ、気持ち悪い肌の色をしてるぜ?こっちも化け物みたいじゃねえか!」

「なるほどな、いつも同じメンバーだと思ってたら、こうやって日陰者同士慰め合ってたってわけかよ?」


 軽蔑や嘲笑の目で俺たちを見る冒険者たち。

 ――やめろよ


「絶滅危惧種の魔族に亜種の奴隷、改造された餓鬼、そして死なない化け物……ああ、あと醜い顔の奴もいたな。お前にお似合いのひでぇパーティメンバーじゃねえか!」


 ゲハハハハと下品に笑うベラルは、すでに俺が最初に見た冒険者らしい第一印象とはかけ離れていた。

 こいつこそ化け物に、悪魔に見えてしまえる。


「どうせ死なないんだ……お前はしばらく俺のサンドバッグになれや!」


 ベラルはそう言うと俺の頭を蹴り飛ばす。

 痛みはないが……ここまで悪意をぶつけられるのはいい気はしない。


「待て待て待て、殺さずにじゃないのか!?それじゃあすぐ死ぬんじゃ……」

「いいんだよ、こいつは!いいか、よく見てろよ?例え頭を斬り飛ばしても……」


 そしてベラルは他の奴らへ公開処刑のように見せ付けながら剣を抜いて俺を斬首した。

 その時、視界に色んな顔が映り込み、転がった先でたまたまララと目が合う。

 やっぱり……人間ってのは――

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