13話目 中編 本当の化け物は誰か
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ヤタの頭が転がった先でその目と目が合うララ。
そんな彼女の目が黒く、瞳が赤く侵食していく。
「……やはり人間とは愚かしいな」
「「「っ!?!?」」」
ララが口を開いた瞬間、その場の空気が凍り、重くなる。
いつものか細い声ではなく、低く思い言葉を発する声だった。
彼女から衝撃波に似たものを食らい、険者たちがレチアたちを捉えている手を緩める。しかしその重さのせいで解放されても身動きが取れずにいた。
「なんだこれ……」
「呼吸が、苦しい……!」
冒険者のみならず受付の者もその苦しさに倒れる。
「なんだよ……なんだその力は!?」
ベラルも例外ではなく、その場に尻もちをついて酷く怯えてしまっていた。
「考え、意見、言葉、身体的な一部、他者とのどんな些細な違いさえ否定する。違う、違う、違う……違いを違うと言うだけで受け入れようとしない愚者共。仲間だと思っていた者も受け入れられないものを持っていれば裏切り者だと豪語する。他者も身内も全てが敵となり得るのが人間。だから『我』は滅ぼそうとしたのだ、貴様らを」
ララは静かにそう言いながら誰を見るでもなく真っ直ぐに冒険者たちを視界に捉えるよう見据える。
「――我は魔王。転生者し、この世に再び降り立った魔王だ」
「魔王……だと……あ、ありえねえ!」
ベラルが声を荒らげながら立ち上がり、剣を持つ。
彼が持っていた九尾の赤ん坊はそのまま地面へ放置され、何事もないかのように寝ていた。
「ただの魔族が自称してるだけに決まってる!そうに違いないんだぁぁぁぁっ!!」
突進するベラル。腐ってもヤタより上の階級を持つ彼の速さはそれなりのものだった。
しかしララはその速さを目で追い、ベラルが向かう先に指を置いた。
「身の程を知れ」
たった一言そう口にすると、ベラルは時間が止まったようにピタリとその場に静止する。
そして――
「ケ パ プ ッ !?」
ベラルは一瞬だけ膨張し、両手足を残して破裂してしまった。
破裂した際に人間の体の中にある血液が全て周囲に撒き散らされ、連合内は地獄のような景色に変貌してしまった。
「ひ、ひぃぃぃぃ!?」
人間が破裂する光景を目の当たりにした冒険者や受付の者は必死に小さく悲鳴を上げる。
するとそこにマルスとルフィが扉を開けて入ってきた。
「これは一体……?」
「新しい模様替え……ってわけじゃなさそうだね」
「……ま、色々あってな」
混乱する彼らに声をかけたのは、体が元通りになったヤタだった。
復活したヤタは落ちたままになっている九尾の赤ん坊を拾い抱き上げる。
「あ、あいつ!さっき殺されたんじゃ……!?」
「ば、化け物……本当に化け物じゃねえか!こんなの捕まえられっこねえ!」
腰を抜かしていた一人の冒険者の男がヤタの復活をトドメに恐怖に駆られ、全力でその場から逃げ出そうとする。
しかしその男がマルスたちを通り過ぎ、扉に手をかけようとしたところでララがその男に指を差すと、先程のべラルのように再び破裂してしまう。
「なっ!?」
「今のは……君がやったのかい、ララさん?」
いつもにこやかに笑っていたルフィスが険しい顔でララを睨み付ける。
ララはその問いかけには答えず、ただ見つめ返す。
その彼女の肌は時間が経つにつれて褐色になっていき、元のララの雰囲気はすでに残っていなかった。
彼女を「敵」だと認識し始めたマルスはゆっくりと背中の大剣に手をかける。
「ララ」
緊張が走る空気の中、ララの肩にヤタが手をかける。
驚くこともなくゆっくり振り向くララ。
「どうせもうこの町には居られない。行こうぜ」
「……お前はこんな私にも声をかけてくれるのだな」
ララがポツリと呟くと、返事はしなかったものの部屋の出入り口へと歩み始める。
いつの間にか空気の重さも消えており、動けるようになったイクナがヤタの近くへと行く。
「レチア、ガカン、お前らはどうする?」
そう問いかけるヤタの目は生気のない目になり、彼女らの答えを聞く前にララの後ろを付いて行ってしまう。
ガカンは慌てて立ち上がってヤタの後ろへ付いて行き、レチアも遅れてその場を離れた。
マルスとルフィスの間を通り抜けるララ。
彼女の威圧に圧倒的され、迷いも相まり震えて動けずにいた二人。
そしてヤタも彼らの間を通る。
「今まで世話になったな。だけどこれでお別れだ。次会う時は多分……敵同士だろうよ」
「ヤタ君!」
マルスが振り返りながら呼びかけるも、ヤタは反応することなく去って行ってしまう。
しかし出入り口から出る直前、ヤタが足を止めて一言だけ口にする。
「……俺はもう疲れた」
たったそれだけ言って居なくなるヤタ。
その後ろをレチアとガカンが付いて行く。
彼らが居なくなったその場所からは苦しむ声と泣きじゃくる声が聞こえてきた。
そんな光景を見たマルスは手を強く握り締め、悔しそうに唇を噛んだ。
☆★☆★
様子が急激に変化したララの後を追い外に出ると、いつもは賑わっている表通りは静かで、人々が地面で苦しそうに倒れていた。
連合内の冒険者たちほどじゃないが、それでも動けずにいる者が多い。
そんな中を俺たちは平然と歩いているのが不思議に思われてるのか、苦しんでいる住人の何人かが俺たちに気付き、その表情で見てくる。
「……ララ」
「なんだ?」
口調は男性のようにかなり変わってしまったが、俺の言葉には普通に反応してくれるララ。
「今は聞かないけど、詳しい話はまた一段落がついたら話してくれるか?」
「……気が向いたらな」
そうして交わす言葉も少なく門のところに辿り着くと、そこの門兵もうずくまっていた。
あまり顔を見たことのない女性と……ロザリンドさんがいる。
「かっ……はっ……君は……?」
「ロザリンドさん……短い間ですがお世話になりました。グロロの件に関してはアレ以上慰める言葉が見付かりませんが、強く生きてください」
何か言いたそうにしていたロザリンドさんだったが、一方的な言葉だけ投げかけてララの後を追った。
後ろを見ると九尾の赤ん坊を背負ってる背中の近くにイクナがくっ付いており、さらに後方にはレチアとガカンが何とも言えない複雑そうな表情をして俯いていた。
「……いいのか、お前ら?俺たちに付いて来ちまって。多分俺はもう、人間の町じゃ暮らせないぞ?」
町からある程度離れたところでレチアたちに聞いてみた。
「構いませんよ、旦那。どうせあっしの顔じゃ、どこの町でも生きにくいでしょうから。それに母ちゃんの墓参りも丁度済ませたので、それがお別れの挨拶だとでも思えば……」
「僕だって亜種だってことバレたら、ただでさえ奴隷状態で普通の生活できないのに生きていけるわけないにゃ。ヤタは僕を引き取った責任があるにゃ。だから地獄の果てでもついて行くにゃ!」
二人とも気力を取り戻してきたのか、自然な笑みを浮かべる。
「ま、それもそうか。そんじゃまぁ――」
「ヤター!」
ララの方へ振り向こうとしたところで、町の方から俺を呼ぶ声がした。
そっちを向くとなぜかこっちに向かって走ってくるメリーの姿があった。
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