12話目 後編 魔族、悪意

 何気無い会話をしながら再び町に戻り、連合の前まで着いた。

 するとその中が騒がしいことに気付く。

 扉を開いた先には掲示板に群がる冒険者たちの姿があった。


「なんだ?なんか良い依頼でもあったのか?」


 俺がそう発言した瞬間、今まで騒がしかった冒険者たちが一気に静かになり、連合内にいる奴のほとんどが俺たちに視線を向けた。

 そんなに熱烈な視線を向けるなよ……恥ずかしくなっちゃうだろうが。


「……いた」

「……あ?何を――」


 掲示板のとこにいる誰か一人がポツリと呟いた。

 そして気付いてしまった。奴らが……冒険者たちが俺たちに向ける目が普通じゃないことに。

 その目からは戦慄を覚えるほどの恐怖を感じた。

 痛みで感じる恐怖とは違う。だが昔に向けられていたものに似たもの。

 これは……悪意だ。

 その光景が昔の、イジメられていた頃の記憶と重なり、思わず身震いした。


「捕まえろっ!」

「っ!?」


 誰かが叫んだ。

 するとすでに俺たちの後ろに回っていた奴が取り押さえに来た。

 鈍い音と共に地面へ叩きつけられるように押さえられてしまう。


「な、何して――」

「大人しくしやがれ、この野郎!」


 ゴスッと後頭部からまた鈍い音が鳴り、さっきよりも強い力で押さえ込まれる。

 なんだってんだよ、一体!?つーか背中に赤ん坊を背負ってんだから乱暴にするなよ!


「……お前だな、ララって奴は」


 一人の男の声が頭上からし、なんとか目をそっちに向けようと顔を上げる。

 なんでララの名前が……?

 するとそこには一枚の紙を持って見せてくる男の姿があった。

 その紙にはララに似た人相書きと驚く内容が書かれていた。


『この者、魔族により注意されたし。見つけ次第身柄の拘束を求む。成功した際には報奨金を――』

「……どういう……ことだ?」


 魔族?魔族ってなんだ?

 レチアみたいな亜種とはまた別の種族なのか?

 上げた顔でなんとか周囲を見渡してララを探す。

 そこには俺と同じように押さえ込まれているレチアやガカンたちの姿もあった。

 イクナは唸り声を上げて暴れようとしているのだが、屈強な男複数人から取り押さえられているせいで身動きが取れずにいる。

 ガカンは何が起きているのかすら読めず、混乱で呆然としている様子が見て取れた。

 そしてララは重要な隠し事がバレてしまったと言わんばかりにわかりやすく表情が青くなって動揺していた。

 恐らく「こうなる原因」が自分にあると自覚しての反応なのだろう。

 その中でレチアは、悔しそうに唇を噛んでいた。


☆★☆★


 それは数日前まで遡り、ヤタが先に眠りレチアとララが宿で会話していた頃。


「……レチア」

「え?」

「このタイミングでしか言う勇気がないから……言うね?」

「私ね、実は――」


 ララが一瞬躊躇し、決心を固めた目をレチアに向けて再び口を開く。


「――魔族なの」

「…………え?」


 予想外と言えるカミングアウトに、お酒を飲んでいたレチアの酔いが覚めてしまう。


「魔族って……魔族?……あはは、酔ってるせいでよく聞き取れなかったにゃ。もう少しハッキリ言ってくれにゃ!」

「私は魔族なの」

「……にゃふん」


 二度目の報告。もはや聞き間違えようのないハッキリとした言葉で伝えられ、レチアの口から謎の声が上がる。


「ええっと……魔族ってたしか、魔王と共に世界を破滅させようとしたとかなんとかどっかの文献に載ってたような……」

「うん、その魔族」

「でも魔王の消滅と一緒に魔族は絶滅したって……?」


 完全には覚めてないレチアはベッドの隅に腰掛け、二重の意味で頭を抱えた。


「昔のことは知らないけど、私の両親は人間と魔族だった。だから多分その戦争を生き延びて、出会って、私を産んだんだと思う」

「あぁ……また新しい情報に頭が痛いに……」


 二日酔いが早めに来たような頭痛が彼女の頭をズキズキと襲う。


「……ごめんなさい。こんなこと、言われても迷惑、だよね……」


 俯いて申し訳なさそうに謝るララにレチアは微笑んで立ち上がり、優しく抱き締めた。


「そんなことにゃいにゃ。魔族が他種族に喧嘩を売って戦争を起こしたって話も、僕には関係にゃいからにゃ。そんなに長く過したわけじゃないけど、ララちは亜種の僕を毛嫌いしない良い人にゃ。ただそれだけでいいにゃ。多分、ヤタだって気にしないにゃ?『むしろこっちこそこんな目でごめんね?』とか言って自分を卑下して変に和ませようとするにゃ」

「……うん。でも彼はまだ言わないで。拒絶されたらと思うと……もう少しだけ気持ちの整理をしたら、私から言うから……」

「わかったにゃ。でももう一度言うにゃ、ヤタはララちが魔族だなんてこと、絶対気にしないにゃ」


 すでにヤタが異世界から来たことを知っているレチアにはその確信があったからこその言葉だった。

 そしてララは静かに頷き、部屋の中には静寂が訪れる。

 そんな部屋の外で、一人の男がニヤリと邪悪な笑みを浮かべる――

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