11話目 中編 腕輪
「え……?」
「いいのかい、ヤタ君?今回は誰も傷付かなかったけれど、それが力を取り戻せば今度こそ被害が出るかもしれないよ」
マルスは驚いて固まり、ルフィスさんは神妙な顔で警告を促してくる。
その横でグロロ……もといロロが意味深に笑ってるのが気になるが……
「一応俺にも考えがある。だからさっきお前が言ったように、今日のことは全部忘れてくれ」
「……任せて、いいんだね?」
念を押すように言ってくるルフィスさんに俺は頷いた。
「……ま、信じてくれと言うには保証も根拠もないがな。だからもしお前らが信じられなくてどうしてもこいつを殺したいって言うならやりたいようにやればいい。俺から奪って殺すなんて、お前らの実力があったら赤子の手をひねるくらい簡単だろうしな」
疲れて少し投げやりな言い方をしてしまったが、マルスたちはしばらく考えたあとに首を横に振った。
「君には命を救ってもらった恩があるからね。全部じゃなくても十分に君を信頼できるさ」
「僕もさ♪男の子を見る目は人一倍あると自負してるからね!」
相変わらずシリアスな雰囲気をぶち壊すようなことを言うルフィスさんの言葉を最後に、その話は決着した。
「そうそう、二つ君に聞きたいことがあるんだけど」
面倒な話題が終わったと思ったら、またマルスが何かを気にし始める。
「なんだよ……そろそろ帰りたいんだけど」
「ごめんごめん、まだモヤモヤしてることがあってね。今聞いておかないと僕が寝れなくなりそうなんだ」
若干の申し訳なさを顔に出してそう言うマルス。
知的好奇心旺盛なこって。というかルフィスさん的な意味で興味を持ったとかいう話じゃないよな?
やめろよ、これ以上ルフィスさんが増えるのは勘弁願いたい。
なんて思っていたが、マルスの方が何か唸って悩んでる様子だった。
「えっと、どう聞けばいいのかな……聞き方の言葉が中々見つからないんだけど……」
「だったらまた今度でいいだろ。思い出せないからって待つくらいなら本当に帰るぞ?」
「ああうん、わかってる。できる限り言葉を頭の中で整理するから大丈夫」
マルスがそう言うとすぐに真剣な表情になって俺の顔を真正面から見つめてくる。
「九尾と戦った時、君は一度死ななかったかい?なぜこうして何事もなく生きてるんだ?」
「――――っ」
聞いてほしくないと思っていたことを普通に聞かれてしまった。
色々あったし、誤魔化して突き通せると思ったんだがなぁ……
年貢の納め時、という言葉が頭の中を過ぎった。
「あとその腕輪はなんだい?このダンジョンに入るまでは付けてなかったよね」
「ちょっと待ってくれ。最初の質問内容のカルチャーショックがデカ過ぎて余裕がないんだ」
なんでよりにもよって答えやすいはずの質問をその後にするんだよ……答えたくてもそれどころじゃないんだけど!
ここで正直に答えたら九尾よりも化け物扱いされて俺が討伐されかねないんだが……
「マジックだ」とか言って誤魔化すか?でも証拠見せてみろって言われても切断マジックしか見せられないからすぐにバレるか?
……まぁでも、九尾の情報を共有してるこいつらなら……なんてちょっと血迷っちまうのも仕方ないよな。
「えー……んじゃまぁ、見てもらった方が早いからダンジョンに戻るぞ」
「あ、じゃあ妾はこれにて。また会おう」
あ、そっか。そういえばいたなお前。
濃い奴の相手ばっかしてるから存在を速攻で忘れかけてたわ。こいつもそれなりに濃い性格してるんだがな。
……「また会おう」か。今回みたいにまたどっかでひょっこり会いそうだ。
するとそのままどこかへ行くと思われたロロが近寄ってきて耳打ちしてくる。
――――
ダンジョンに入って間もなく、強そうな岩の魔物が現れた。よくゲームに出てくる見た目だし、ゴーレムみたいな類だろう。
「んじゃ、お前らはただ見ててくれ。危ないと思っても手を出すなよ」
「わかった♪」
「……気を付けて」
「気を付けるさ、俺は俺が誰よりも慎重だと自負してるからな」
軽口を言いながら魔物に向けて歩く。
メリーが言うにはたしか、腕輪にあるボタンを押して赤色のランプが緑になれば起動、付けてる右腕に意識を集中させれば発動させることができる、だったか。
カチリと上下式のボタンを動かし、赤色が緑になったのを確認する。
魔物も俺を敵だと認識したのか、近付きながら腕を振り上げた。
さて、起動するとは言っていたが、何が出るとは聞いてなかったな。
とりあえず奇跡の代わりになるってんだから遠距離だろ。
そう思ってなりふり構わずに腕輪を付けた腕を魔物に向けて集中する。
俺なんぞを表面だけで覆えるくらい大きな拳が目の前に迫ってきてるが、俺の場合は気にしなくていいだろ。
「ヤタ君!」
マルスが心配してるのか、俺のことを呼ぶ。
心配するなって言ってんのにな……つーか集中乱れるから声かけんな――
ボンッ!
「――何?」
突然、目の前で爆発が起こり、腕輪を付けていた俺の右腕が吹き飛ぶのだった。
――耳鳴りがする。
そして目の前には消し飛んだ俺の腕。
かなりの爆発だったお陰か、正面にいた魔物も同じように岩の腕が崩れてしまっている。
何が起きたか、なんて言うのは考えるまでもなく俺の腕が、正確には俺の腕に付けていた腕輪が爆発したのだ。
……おい、メリー。こんなん普通の人間に渡したら一生恨まれることになるレベルだぞ。
全くあの親子は……いくら元に戻るからってなんつーもんを渡してくれてやがんだ!
なんて考えてた間にも腕は腕輪を含めて元通りになっている。
「ヤタ!大丈夫……っ!?」
「……っ」
俺の腕が吹き飛んだことでまた心配してくれるマルスたち。
しかし俺の腕が即時に再生したことによって絶句していた。
そして右腕を捕食用の大きな口の形に変化させる。
後ろでマルスたちの驚く声が聞こえてくるが、そっちは無視して魔物を捕食する。
オールイーターで噛み付いた魔物の岩の体は、万力で潰されていくようにゴリゴリと音を立ててどんどんと粉々になっていく。
魔物の動きが鈍いおかげで抵抗もなく、捕食は簡単に終わった。
最後は何かガラスでも壊したかのようなペキッという軽い音が聞こえる。
【#岩人__がんじん__#のコアを捕食しました。経験値が加算されます】
アナさんの音声と共に魔物が崩れる。
どうやら今の魔物そういう名前で、心臓部のようなコアがあったらしい。
「ヤタ君、今のは……」
一方マルスは何が起きたかわからないとでも言いたげだった。
「見てわからなかったか?」
「腕が元に戻ったのは見たからわかったよ!でもなんで爆発したのかと、腕があんな形になったのかまではわからないけれど……できれば全部を説明貰えるかな?」
困惑し続けるマルスを他所に、ルフィスさんが大して驚いた様子もなくそう言う。
普通ならここで化け物扱いだけれど、二人ともそんな反応はしてない感じだ。
まぁだけど、マルスの方はまだわかるけれどもルフィスさんはちょっと驚かな過ぎじゃないかとは思うがな。
「そんじゃまず、俺の体は今見てもらった通り、死ににくい体質をしてる。重症を負おうが部位の欠損をしてようが元通りになる。しかも痛みも感じない」
「それは……凄いね」
マルスが関心し、そのまま俺は続きを話す。
「あと腕の変形に関してはその体質に関連してるとしか言いようがない。岩でもなんでも食うことができて、魔物を食えば俺の中で食事代わりの栄養になるし満腹にもなる。つまり普段の食費代が浮いてラッキー」
「君の考え方も独特だね……その体質は最初から?」
なんだかんだ言いつつ徐々に受け入れているのか普通に接してくるマルス。
こいつら適応力が高いというか、俺に対して警戒心無さすぎない?
「こうなったのは最近のことだが……俺のことを化け物とか思わないのか?」
「え、思わないよ?だってこうやって理性的に話せてるし、さっきのを見たくらいで君の可愛さは変わらないよ♪」
なんてルフィスさんがグッドサインをして言うがなぜだろう、感動もしなければ何も嬉しくない。
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