11話目 後編 腕輪


「……ま、そういうことだよ」

「おい、やめろマルス。諦めてルフィスさんと同意するんじゃねえよ、お前にまでケツを狙われ始めたらあの町から出て行かなきゃ安心できなくなるじゃねえか!」


 ツッコミを入れるとマルスたちが「冗談冗談!」と言って軽く笑い飛ばす。

 返事の内容はともかく、この妙な体質でも俺という人間をしっかり見てくれるこいつらの態度は嬉しいものだ。


「……でもそっか。君は死ににくいんだね。だとしたら冒険者にとって一番の強みになるから羨ましいな」

「イケメンで超絶強い優男が何言ってやがる?」


 自分で言っていてあまり気分が良くないが、まぁそれはいいだろう。


「だってそうだろ?顔が良くても他の人よりも強さを持っていても、死んでしまったら何の意味もないんだ。さっきだってたまたま君とアナさんに助けられたからこうしてるけど、一歩遅れていたらこの場に僕たちはいなかったんだから」

「まぁ……」


 いくら強くても眠らされるだとか時間を止められるとかされれば関係ないもんな。


「だからって人にバレたら化け物扱いされるようなのが嬉しいか?」

「大丈夫だよ、きっと。僕たちみたいにヤタ君の良さをみんな理解してくれるさ」


 マルスはまるで他人事のように言う。いや実際他人事だし、こいつは今まで他人からチヤホヤされてきたからそう言えるのだろう。

 人間の底知れない闇なんて、見たことないんだろうな……

 一度でも一人に拒絶されれば伝染病のような流れが作られ、他の大勢からも「やっていいんだ」と言わんばかりに拒絶し始める。

 もしそうなれば、マルスたちがどんな上っ面を整えた正論を口にしようが意味を成さない。

 じゃあどうすればいいか?

 簡単だ、目立たずひっそりと暮らせばいい。

 まぁ、俺の場合は目がアレだが、学校や会社じゃないからグラサンをかけてもあまり目立たないし注意されることもないから隠せる。

 ……ただやっぱり今回みたいに他人と無闇にパーティを組むのはもうやめた方がいいな。

 今回はこいつらだったからいいが、予想外の出来事で俺の体質がバレてあの町に居ずらくなったら逃げなきゃならなくなるし。

 というかそもそも冒険してて無傷でい続けること自体難しいんだから、最初からパーティを組むのは非推奨だったんだがな。

 今日はちょっと血迷っただけ。明日からはもっと気を付けて俺の事情を知らん奴とはパーティを組まないようにしよう。

 そう自分に言い聞かせながらマルスたちも納得してもらったことだし、俺たちは帰ることにした。


――――


「あ……」


 町の入口に着いたところで、そこの門番がポツリと言葉を漏らした。

 銀髪の鎧をまとった騎士っぽい風貌をした人……ロザリンドさんだ。


「どうも。お久しぶりですね」

「……どうも」

「知り合いかい?」


 ロザリンドさんに挨拶するとマルスたちも軽く会釈して聞いてくる。


「一応な。そこまで親しい間柄じゃないけど」

「そうなんだ。僕たち冒険者とこの町の騎士の人たちってあまり仲は良くないんだ」

「そうか」


 別にその情報は心の底からどうでもよかった。

 たしかにロザリンドさんから聞いた冒険者の印象はあまり良くなかったみたいだけど、険悪な喧嘩とかはしなかったし。

 それよりもロザリンドさんが元気がないのが気になった。

 というのも最近、グロロの事件解決以来、町の外に出かける時にロザリンドさんの姿を見なくなってしまったからでもある。

 他の人たちの話だと、彼女はしばらく塞ぎ込んでいたという。


「何かあったんですか?」

「……いや何、少し前に起こったグロロほ事件で知り合いが犠牲になっていたのを知ってな。あいつも冒険者だったんだがある日から急に帰って来なくなり、心配し始めていた頃にまたひょっこりと帰って来た。だが今思えば奴はグロロが擬態した姿で、そうとも知らずに私は奴を招き入れてしまった……」


 ロザリンドさんは町を守る騎士としての使命感を持ってる。しかしその責任が彼女自身を押し潰そうとしてるようにも見える。

 今の彼女は騎士でも美女でもなく、まるでただのひ弱な少女だ。


「あれは誰の責任でもないですよ。それこそ専門家でもいない限り見破るなんて難しいでしょうし。それに俺はあなたがちゃんと仕事をしていたことを知ってる証人です。だから落ち込まないでください」


 慰めなんてほとんどしたことがないせいで、この言葉で励ませてるのかイマイチわからない。

 ついでに言うと体育会系みたいに熱く語れるような気力も持ち合わせてない。

 ただ単純に思い付いた言葉を並べてるだけで元気になってくれればいいんだが……って、なんで顔が赤くなってるの?


「いやあの……ごめんね?俺みたいな変な男が変なこと言っちゃって」

「いえ、ありがとう、ございます……!こちらこそお見苦しいものを見せてしまった……」

「いや、こちらこそ……」

「「……」」


 何この微妙な空気。気まずいんだけど。

 こんな時こそマルスやルフィスさんが場を和ましてくれる出番だろ。何とかしてくれよマルえもん。もしくはルフィえもん。

 助け舟を求める意味でチラッと彼らの方を見るが、二人とも距離を取りながら笑顔を向けてきている。

 なんなの、お前ら?俺たちそんな特別な関係じゃないよ?

 だからさっさとこっちに来て俺を助けろ!


「あ、いつまでも引き止めてしまっては迷惑ですよね。プレートだけ見せてもらって入って大丈夫ですよ」


 そう言うロザリンドさんは空元気で無理に笑っているのが見て取れる。

 これ以上は俺の口から言える言葉は持ち合わせていない。

 あとは時間が解決してくれることを祈るだけだ。

 ……ついでにチェスターたちのとこに顔出すか。メリーに報告と文句言いにいかないといけないしな。

 痛みもなければ死にもしないが、だからといってヘラヘラして報告というわけにもいかない。

 頬の一つや二つ、ツネってやらないと気が済まない。むしろ鼻を摘んであの綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやろうかとさえ思う。

 もう遅い時間だが、どうせまだ研究に没頭して起きてるだろう。

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