2話目 後編 美女の嫉妬
「別にバカにしてるわけじゃない。ただ階級の低い俺たちに少しでも優しくしてくれてもいいんじゃないか?」
少しでも俺に有利にしようと「スタートダッシュは譲ってくれ」と遠回しに伝えたのだが……
「あら、どうせ誰が先でも結果はどうせ変わりませんわ。勝者はワタクシたちかマルスさんのどちらか……あなたがワタクシたちに勝つなんてありえませんから!」
そう言い放って店を出ていくフランシスさんたち。
「……ま、別にいいけど」
俺もそこまで勝負事に執着していないので、フランシスさんの態度を適当に流して立ち上がる。
「あれ、旦那はあまり食べてないみたいですけど、少食なんですかい?」
ガカンがそう言いながら続いて立ち上がり、俺の後を付いてくる。
レチアやララ、イクナもすでに食べ終わってたため、同じように席を離れる。
「まぁな」
ガカンの心配に俺は短く答える。
「なら僕らはもう少し後で出発するよ」
マルスはフランシスさんとは逆に余裕な態度でそう言いながら飲み物を口にする。
強者の余裕ってやつか?クソ……
見てろよ、その長っ鼻をへし折ってやるからな!
マルスの言葉を半分無視する形でその場を去り、店を出る頃には女子たちが俺たちより前に出てかしましく話を弾ませていた。
そうだ、ララたちに依頼の話をしなきゃな。
そう思ってまずはガカンとガープに話しかけようとしたところで突然口を塞がれ、みんなの後ろ姿がある景色が遠のいていく。
なんだ!?
体が浮くような感覚……まさか誘拐?
俺みたいな腐った奴を誘拐して何の得があるんだよ?むしろ精神的に害にしかならんぞ。
少し下に目をやれば俺の口を塞いでいるのは華奢な手つきが見える。余程特殊なケースでなければ、これは女の手だ。
そして視界は一気に暗くなり、狭い通路を通っていることからして路地裏に連れて行かれたのだと理解した。
しかしそれもすぐに止まり、落とされるように地面へ降ろされた。
「でっ!?」
本当に落とされたという表現がピッタリで、頭から地面へボキッと音を立てた気がした。
この雑さ、一般人なら死んでるか瀕死になってると思う。
そんなことを思いながら周囲を見渡し、俺を攫った犯人を見る。
そこにはなんと先に出て行っていたはずのフランシスさんたちパーティがそこにいた。
険しい顔で腕を組むフランシスさんを先頭に、後ろでは興味無さそうに壁に寄りかかっている奴や俺を見てクスクス笑ってる奴がいた。
なんなんだ、一体……
「ヤタさん、と言いましたか、あなた?」
名前を確認してくるフランシスさん。
さっき名乗ったばかりなのにうろ覚えなのか。それだけ俺に興味なかったというのがよくわかるな。
「はい、ヤタさんですけど?何か御用ですか、フランシスのお嬢さん」
ちょっとイラッときたのでふざけた返しをしておく。
それが気に入らなかったのか、赤髪の女が睨み付けてくる。おっと怖い怖い。
フランシスさんも苛立ったのか眉をピクリと動かして怪訝な顔をする。
「本当に気持ち悪い……」
ド直球に感想を述べられた。
ちょっと?
そういうのは本人がいないとこか心の中だけに留めておいてね。じゃないとおじさん、いい歳して拗ねちゃうよ?
「率直に申します。ヤタさん、この町を出ていってくださらないかしら?」
「……は?」
突拍子もない提案に俺の頭は一瞬停止した。
この町から出てけ?何の権限があってそんなことを言ってんだ……
「無理な相談だな。俺は俺だけじゃなく、仲間と行動し生活してる。あいつらの意見を無視してまであんたの命令に従う必要はない。ということでそっちの用件は終わりだな?なら俺はあいつらのとこに帰らせてもらう――」
相手に反論させずにその場から退場するという俺の奥義でやり過ごそうと思ったのだが、俺の行く手を赤髪の少女が阻む。
「話はまだ終わってない」
その少女が言う。フランシスさん以外で初めて他のメンバーの声を聞いたな。
その手には威圧するようにララと同じくらいの大きな大剣を地面に突き刺している。
ここの地面ってコンクリートくらいの硬さあるよね?なんで豆腐みたいに突き刺させてるの?
よくよく考えると、このパーティで行動してるってことは階級が高いのはフランシスさんだけじゃなく、他のメンバーもってことになるんだよな。
何、みんな鬼人なの?だからそんな鬼みたいに怖い顔してるん?
「さっきの理不尽な話以外に何かあるのか?」
「いいや。だがその話自体が終わってない」
「いや、もう終わったから。何も悪いことをしてないのに町を出てけなんて聞けるわけないだろ」
どうにか横を通り抜けたいけど、二人三人がやっと通れる狭さだからちょっと大剣で邪魔されただけで通行止めだ。
マルスみたいに身体能力が高かったら上を飛び越えたりとかいう選択肢があったんだろうけど……
だけどだからといって戦って押し通るなんて選択肢もない。
さすがに女の子を蹴って殴ってとかでけるわけないからな。
なら他に俺ができる行動は……
嫌な作戦が頭をよぎる。
この町で生活するならあまり使いたくない手だが、この際仕方ないだろう。
俺はフランシスさんの方へ向き直り、グラサンを取る。
「何を……ひっ!?」
暗がりだったからか、俺の「目」を認識するのに時間がかかったようだが、認識した途端に彼女の表情に恐怖の色が表れる。
彼女だけじゃない、俺の目を見ていない赤髪の少女以外の二人も怯えて始め、腰を抜かす奴すらいた。
「……俺はさ、平凡に生きたいだけなんだよ。その平凡にちょっとだけスパイスがあれば満足するんだ。大きな喜びは要らない、ただ仲間と楽しく笑える日々があればいい」
語りかけるようにゆっくりと言葉にしながらフランシスさんの方へ歩み寄る。
「こ、来ないで……!」
懇願するような声で本気の拒絶をするフランシスさん。
普通ならからかわれるより辛いが、幸いフランシスさんに言われても心に突き刺さるものがない。
「それをお前らの言葉一つで思い通りにできるとでも思ってるみたいだが、周囲からもてはやされて少し調子に乗ってないか?しかも『加護』まで使って」
「っ……あああ、あなた、気付いて……?」
フランシスさんの表情がさらに強張り歪む。
「まさかバレてないと思ってたのか?マルスの奴だって気付いてるぞ、多分」
「嘘!だって何も言われてない――」
「あいつはあからさまには言わないだろ」
マルスはその場を荒げないために騒いだりしないが、その代わり態度で示しているかもしれない。あいつはそういう男だ。
するとついに何も言わなくなってしまったフランシスさん。
「フランシスさん、あんたは――」
――ドゴンッ!
俺がフランシスさんの前に立ち止まり、その先を口にする前に目の前が暗くなって同時に轟音が聞こえる。
それがすぐに俺が壁へ叩き付けられた音なのだと理解し、周囲を見渡す。
そこには驚いた表情をする三人の他に、赤髪の少女が先程まで地面に突き刺していた大剣を持っている姿があった。
まるで野球選手がバットを振ったようなポーズから、犯人はこいつしかいないというのがわかる。
「その気持ち悪い顔でアリアさんに気安く近寄ってんじゃねぇよ、このゲス顔が!」
乱暴な言葉遣いで怒鳴ってくる赤髪の少女。
悪かったな、気持ち悪い顔で。っていうかゲス顔って何だよ。
ただ補足しておくと、俺の顔は目以外平均以上だと自負してる!
……うん、ホント「目」以外はね。
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