2話目 中編 美女の嫉妬
「勝負?」
「えぇ、そうです。ワタクシたちとマルスさんたち、それぞれ一つの依頼を受けてどちらが早く完遂するか。負けた人は勝った人のお願いを聞くというのはどうでしょう?」
「へぇ、それは面白そうだね」
フランシスさんの提案にルフィスさんが意外にも乗り気だった。
よし、フォローも十分したことだし、こいつらが勝手に盛り上がってる隙に俺は俺で依頼を受けるとするか――
「うん、僕も面白そうだと思う。それじゃあ、ヤタたちも入れて三グループで競うとしよう!」
「「……え?」」
まさかのマルスの発言に、俺とフランシスさんの声が重なった。
「おいちょっと待て。なんで俺がお前らと競わにゃならんのだ」
「そうですわ!これはあくまでワタクシとあなたの勝負であって――」
「僕たちは良い友人関係を築く……そうだろ、アリアさん?」
さっきの言葉を利用されたフランシスさんは「ぐぬぬ……」と悔しそうにする。
「だとしても、俺が参加するメリットはないんだが?お前らにする命令なんてないからな」
「まぁ、そう言わないでくれ。君たちが勝ったらご飯くらいは奢るからさ」
飯の奢りか……たしかにそれは俺たちからすれば魅力的だな。
でもどうせなら少し引き出してみるか。
「二食だ」
「え?」
俺の言葉を聞き返してくるマルス。
「俺たちはまだ昼食を食ってない。だから参加してほしいなら賭けとは別に昼食を奢れ。んで俺たちが勝ったら夕食もお前持ちだ。それなら勝負に乗ってやる」
少々欲張りかもしれないが、俺は安易に「わかった」なんて言って引き受けない。
特にこいつには遠慮してやらん。どうせ階級が高いから儲かってるだろうしな。
ここであやからない手はないだろう。
「ははっ、それくらいならお安い御用さ」
「それともう一つ……ハンデとしてもう一人呼んでいいか?」
――――
「そ、それで俺が呼ばれたのか?この中に?」
ツンツンな金髪をした若者、ガープが戸惑った様子で聞いてくる。
こいつとは前の町からこの町に移る時に知り合った冒険者だ。今の俺よりも一つ階級が高い「剣士」だ。
他に俺の知り合いって言ったらこいつしかいないから、ある意味呼びやすいしな。
ちなみにもうすでにマルスやフランシスさんを含んだ三グループでテーブルを囲んでいる状態だ。
まぁ、こんな美男美女が揃っていれば緊張もするか。
「まーな。これから依頼をそれぞれ受けて誰が先にクリアするか競うんだ。今はマルスの奢りでその前の腹ごしらえ」
「君も食べたいものを遠慮せず好きなだけ食べていいよ」
「は、はぁ……」
状況を完全には飲み込めていない顔をしているガープだが、とりあえずと俺の横に座る。
「……なぁ、なんでマルスさんとアリアさんと一緒に飯を食うことになってんの?何なんだよ、この豪華メンバーは……」
ガープも気後れしているのか、あまり良い顔はしない。
まぁ、ガープもそこそこ良い顔立ちをしているとはいえ、それは一般人の中で考えればというだけの話であって、アイドル級の超絶イケメン美女が相手では形無しということだろう。
「そんな文句言うなって。そのメンバーと競わなならん俺たちの身にもなってくれ……それにこの賭けに勝てば何でもお願いをしていいぞ」
「……ん?何でも?」
俺が付け加えた言葉に、ガープは顔をキリッとさせて聞き返してきた。
流石男だ。「何でも」という言葉に反応するのはうちの現代人だけではないらしい。
「おい、ヤタ」
「なんだ?」
「勝つぞ、この勝負」
その時のガープの顔は、あまりにも凛とし過ぎてマルスよりもイケメンなんじゃないかと思えてしまったほどだった。
しかしこの会話、普通にマルスたちにも聞こえているので、女性陣からは冷たい蔑む視線が向けられていた。おぉ、怖い怖い。
しかし言っておくが俺は嘘を吐いてはいない。
勝てば「お願い」してもいいなんて、勝負の勝ち負け関係なくできるのだから。
だから俺たちは夕飯を食える。ガープは賭けの賞品として告白する勇気を持てる。
これもWinWinってやつだ。
……ま、あくまでお願いだから断られるかもしれないがな。
「それではワタクシたちは一足先に行かせてもらいますわね」
飯もそこそこに食い終わったフランシスさんが突き放すようにそう言い、彼女のパーティメンバーも同時に立ち上がる。
「もう行くのか?」
「えぇ、戦いはすでに始まっていますので」
俺の問いに冷たく言い放つフランシスさん。そこまでして勝ちたいのか?
やれやれ、こいつが勝ったら何を要求されることだか……
「そういえばあんたらって階級はなんだ?」
「……知らないんですの?」
えぇ、知りませんとも。
ただでさえマルスとルフィスさんの二人がこの町だけでなく世界的にも有名だったなんて、ついこの前知ったところなんだからな。
ガープが言うにはフランシスさんたちもこの町では美女だということと階級の高さで有名らしいからな。
やっぱりマルスたちをライバルと言うからには彼女たちも相当上の階級なのだろうか?
「彼女は#槍鬼人__そうきじん__#だよ。槍使いの中でもかなり上の階級に位置してるんだ」
本人に変わってマルスが答える。
「鬼人」なんて言うくらいなんだから、マルスに並ぶか少し下くらいなのだろう。
……いや、並んでいるならマルスがパーティに誘ってるはずか。
だけどマルスは前に言っていた。
――逆に僕ら以外にまともなパーティを組める相手がいないっていうのもあるけど――
ルフィスさん以外と組むと好きな依頼を受けられない……つまりマルスたちと並ぶ階級を持つ人間がいないということ。
ライバルなんて称しているが、実際は他の冒険者よりも階級が高く、最もマルスたちに近いから突っかかってるってだけの話だ。
「そりゃスゲーな」
とはいえ、そこを指摘して嫌味や皮肉を言いたいわけじゃないので素直に褒めておく。
「バカにしてるんですの?」
フランシスさんが眉をひそめながら不満そうに言う。
おかしいな、褒めたはずなのになんでそう捉えられたんだろうか……してないよね?
「俺の言い方ってそんな嫌味っぽかった?」
「人によっては腹立つかもな」
「さいですか……」
ガープに耳打ちするとそんな返答が返ってきて溜め息を吐きそうになる。
ちょっと神経質過ぎませんかね……いや俺に言われたら誰でも神経質な反応をするか。
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