11話目 後半 秘められた想い

【けどなんだかんだ言って、ララちもヤタのこと好きにゃ?】


 何やら俺の体を動かす音を聞きつつ、破天荒なことを言い出して俺は吹き出す。

 向こう側でも吹き出すような音が聞こえたから多分ララも同じリアクションをしてると思う。


【えっ……そ、それは!な、なん……あぅ……!】


 突然のカミングアウトというか、デリカシーの欠けらも無い質問にララもたじたじな様子。

 まぁ、俺が寝ててイクナも除けば実質二人きりだからデリカシーは守られてるかもしれんが。

 だけどその言葉の中に気になるものがあった。

 ララち「も」だと……?それじゃあ、まるでレチアが俺のことを一人の男性として好きと言ってるみたいじゃないか。


【もちろん僕はヤタのこと、一人の男性として好きにゃ。あ、これはまだヤタには内緒にゃ?】


 まるで今の俺の思考を読み取ったかのような言葉に、非常に申し訳なくなってしまった。

 ……いや、誠に……本当のホントーの誠に、申し訳ありませんっ!

 レチアたちは俺にそんな性能があるなんて知らないのは当然だったとして、俺もまさかこのタイミングで聞いちゃうとは思わなかったし……言い訳じゃないヨ?

 にしても……マジかよ。レチアが俺のことを一人の男として好きって……

 今まで嘘や罰ゲームで散々言われたことはあったけれど、俺が寝てる時に本音的な感じで言ってくれたのは初めてだ。

 学生の寝たフリしてるになんて言われてたのは陰口くらいだものね。

 アレ?なんだろう、嬉しいのか悲しいのかわからないけど涙が出てきたや……


【賊の奴らから助けてくれたり奴隷堕ちした僕を借金しながらその場で引き取ってくれたり……ヤタの目はともかく、色々気が効いたり優しいんだにゃ。それに僕が亜種だってことにも全く気にしないでおっぱいばっかりチラチラ見てるところもポイント高いにゃ】


 言わないでよぉー!

 なんでそれ言っちゃうの?っていうか気付いてたの!?

 しょうがないじゃん、男の子だもん!

 実際、非現実的なお胸の大きな女性が目の前でたゆんたゆん揺らしてたら思わず目を向けちゃうのが性っていうやつじゃないッスかね?

 あと、こんだけ身長とアンバランスで滅多にいない大きさの胸を持ってたら同じ女性でも見ちゃうんじゃないですかね?

 え、それでも目の腐ってる俺が見ていい理由にはならない?はい、すいませんでした。


【でも僕は奴隷だから告白はできないにゃ。奴隷は使われるのが仕事であって、主人と肩を並べられるのは御法度……でもララちは違うにゃ!声も出せるようになったし、好きなら好きって言うにゃ!】


 後押しをするようにそう言うレチア。だが肝心なことがまだ口にしてないぞ?

 ララが俺のことをどう思ってるか、だ。

 ただでさえ目が腐ってる男だぞ、俺は?

 そんな奴を好きになる物好きなんてそうそういないだろうし、そもそもララは俺の死んでも生き返ったり人を食っちまう醜悪な部分を近くで見てきたんだ。

 たとえ百年の恋だったとしてもそんなの見りゃ百年の嫌悪に変わるわ。

 だからララは多分きっと――


【少なくとも、嫌いじゃ……ない】


 そうそう嫌ってはないだろう……え?

 俺は耳を疑った。

 嫌ってない?だってお前……俺は人間を食ったんだぞ?しかもお前の目の前で。

 あの時思いっ切り怯えてたじゃねぇか?

 強がりを言っている、と思ったのだが……


【私も……彼に色んなところで助けてもらった……さっきも。だから……感謝はしてる】


 何やら含みのある言い方だが、ちゃんと感謝されていたことには嬉しく思う。

 ただ如何せん「嫌いじゃない」か……

 男なら一度はハーレムを夢見るもんだし、俺だってそういう願望がないわけじゃない。

 どうせなら多くの女性から好意を持たれたいと思うのも必然なわけで。

 えっ、男?いやもうルフィスさんだけでお腹いっぱいですから勘弁してください。

 まぁ、それはともかく。

 どうせならララの口からも異性としてでなくていいから「好き」の一言は欲しかったというところが本心だ。

 だってレチアから俺たちを追いかけてきたんだって言われた時は「もしかして?」の一つくらいら思っちゃうだろ?

 三十過ぎても男は夢見る男の子なんだよ。


【ホントに~?本当に「嫌いじゃない」だけかにゃ~?】


 おぉわかる、わかるぞ。レチアが今どんな顔をしてるのかわかってしまうくらいの煽り声だ。

 やめてやれよ、そこ掘り返してやるなって。

 別にそこまで深く意味はないのに「そう言っちゃって実は~?」とか「からの~?」とか言って思ってもないことを相手に言わせようとするウザいノリ。

 その「私らもう知ってるから本心を言っちゃいなよ~」みたいな感じがもうね……

 レチアがそんな奴ではないのはわかっているが、それはそれ。ウザいものはウザいのである。


【うん、嫌いじゃないだけ】

【そ、そうかにゃ……】


 ララの何の躊躇もない返答にレチアが戸惑い、互いに沈黙してしまう。

 おいほら見ろ!余計なとこ突っ込むから気まずい雰囲気になっちまってるじゃねえか!さっきは代わって言ったけど、俺その時寝てて本当に良かったと思う。


【……レチア】

【え?】


 しばらく無言が続いたと思ったらララが口を開いた。


【このタイミングでしか言う勇気がないから……言うね?】


 ララが何かをカミングアウトしようとしていた。

 おいおい、また変なのを録音しちゃってるのか?

 これで「バストサイズがね実は~」みたいな男が聞いちゃいけないような内容だったらどうしよう?


【私ね、実は――】

「ふぁ~あ!……ん、ヤタ?もう起きてたのかにゃ?」

「うわっふぅ!?」


 肝心なところで突然レチアが起きて声をかけてきたので、驚いて変な声を上げてしまった。

 なんだよ「うわっふぅ」って。新手のマスコットキャラか?


【録音の再生を終了します。以後このデータは消去されますのでご了承ください】

「…………」


 俺がびっくりしたせいか、録音再生が自動的に止まり消されてしまったようだ。

 ……いや、別に期待とかしてなかったし。

 むしろ女子のデリケートな情報とか聞かなくて良かったと思ってるし……


「うーん……うにゃ?なんか物凄く残念そうな顔をしてるけどなんでにゃ?こんな美女四人に囲まれてるのに」


 百歩譲って三人目がイクナであるとして、四人目が黒猫であることにツッコミを入れるほどの気力が湧かなかった。


――――


 冗談もそこそこにララを起こしてライアンさんの館へ一足先に向かわせた。

 昨日は色々あってそのままこの部屋で一夜を明かしてしまったわけだが、ライアンさんには飯に誘ったとしか言ってないから多分今頃心配してるのではないかと思ったからだ。

 あとはそれで変な誤解をされてないといいんだけど……

 そんなことを考えながら俺もチェスターのところへ向かう支度をしていた。


「ところでレチア、昨日はララと何を話してたんだ?」

「ん?ん~……会ってなかった最近のこととか、僕たちが出会う前のこととか……あぁ、あと誰が好きかとか!」


 楽しそうに言うレチア。その「誰が好きか」っていうのはあの録音の会話のことだろう、多分。

 こういう時、一番いい選択肢は「気付かないフリをする」だ。

 いくら明確にそいつの好意がわかったからといって、急にこっちから近寄って行って「えっ、何こいつキモい……」とか思われたら嫌だからな。

 それにその気持ちは一時的なもので、もしかしたらすぐ別の男を好きになるかもしれないじゃない?

 さすがにどこの馬の骨とも知らない奴に渡す気はないが、レチアが亜種でも気にしない、もしくは亜種同士で恋をしたというのなら俺は潔く退く。

 面倒事の当事者にはならない、それが俺のポリシー。

 ……まぁそんなポリシー、最近じゃもうズタボロなんですけどね!


「それだけか?」

「ん?それだけって……まぁ、それ以外は特にこれといった会話はしてないかな?本当に身長とか体重とか、最近のヤタの様子くらいだよ」


 その最後の俺の様子って何を話したんですかねぇ……?

 まぁでもそんなもんか。

 昨日最後に聞いたララのカミングアウトとかが気になって探ってみたけど、そんなに重要な内容でもなかったのかもな。


「そっか」

「ヤタの方こそ言うことはそれだけかにゃ?」

「何が?」


 俺が何を言えばいいんだ?

 普段から一緒に行動と生活を共にしてるレチアに今更罪の告白なんて何も無いし。

 昨日のララとの食事はたしかに申し訳なかったが、それはもう済んだ話だしな。

 目の腐り方どうこうは俺じゃなく産んだ親に言ってくれ。多分賞味期限の切れたもんばっか食ってたから俺みたいなのが産まれたんだろうから。


「さっき僕たちが誰が好きかを話してたって言ったじゃにゃーか!普通気になるんじゃにゃいか、そこは?あと身長とか体重とかおっぱいの大きさとか!」

「レチアさん、まだ酔ってます?」


 女の子が男相手に「おっぱい」とか叫んじゃいけません、年頃の男の子はそれだけで興奮しちゃうから。

 というか結局なんで俺を一緒に寝かせたか理由を聞いてねぇな。

 ……ま、今更考えるのも面倒だし、もういっか。どうせイクナ辺りが愚図ったところにレチアがノリでとかいう話だろ。


「あっ、そうにゃ」


 そう結論付けたところで、レチアが何かを思い出したように言う。


「昨日の話、僕たちはこれからもヤタについて行くことにしたにゃ」

「……えぇ?」


 レチアの言葉に準備していた手を止め、自分でも分かるくらい怠そうな声が思わず口から漏れてしまった。


「何にゃ、美女二人がついて行くことのどこに不満があるのかにゃ?それとも……」


 レチアがイクナに視線を向ける。

 やめろ、それを言うんじゃない……!


「もしかしてヤタって幼女趣味――」

「違うわ!」


 予想通りの言葉を口にしようとしたレチアを遮って食い気味に否定した。

 というかそういうのズルくない?普段は自分の体とかジロジロ見られたり、下心ありで近付く奴のことを道端に落ちてる生ゴミをような目で見てくる癖に、自分の都合の悪い方向に話が進まないよう「もしかしてロリコン?」とか「ホモなの?(笑)」とか言って相手に否定させようとするのは如何なものかと。

 するとレチアが俺の横に立って視界ギリギリに入ってきた。


「ヤタの体はまだ謎だらけで安心できないかもしれにゃいけれど、それでもこうやってヤタらしいヤタがここにいるにゃ。おみゃーが『ヤタ』じゃにゃくにゃるその時まで一緒にいてやるにゃ!」


 レチアはそう言ってニッと気丈に笑う。えっ、やだこの娘超イケメン。

 そんなレチアに惚れそうになりながらも俺は用意を済ませて連合へと向かった。


――――


「失礼します。ヤタを連れて来ました」


 そして連合に着いた俺はなぜかルフィスさんとマルスにある一室へと連行されていた。

 ……なんで?

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