11話目 前半 秘められた想い

【人名「ガカン」の体内にあるウイルス侵食率が規定の90%に到達しました。互いの宿主の任意により念話を開始します】

【聞こえるかガカン?】

【へい、しっかり聞こえますぜ旦那!】


 頭に流れるアナウンス

 ガカンに血を飲ませると何も変化がなかったため、能力の一つである念話を試してみることにした。

 俺は宿の自室からガカンはその場所から少し離れてやってもらうことにし、成功した。

 感覚的にはイヤホンとかを耳に付けて話してるような感じだ。


【これであっしは正真正銘、旦那の子分ってことになりますね!】


 子分て……俺は小悪党の親玉かよ。


【……まぁいいや、とりあえず今日はもう何もしないからこのまま解散だ】

【了解しやした!それじゃまた明日お伺いしますね!】


 えっ、明日も来るの?


【念話を終了します】


 疑問を投げかける前に念話が切れてしまった。

 いや、いいんだよ?たとえ荷物持ちだけでも戦力が増えるのはいいことだ。

 ……俺のフィッカーがある程度の荷物を入れられて荷物持ちが要らないという点を除けば。

 だけど今更「お前やっぱ要らないから待機してていいよ♪」なんて言えるわけないし……


「……ま、明日考えればいいか」


 そして俺は考えることをやめた。


――――


 次の日。


「…………どうしてこうなった?」


 昨晩は早めに寝て健やかな朝を迎えた……はずなのだが、俺は今まさに疑問を浮かべるしかない状況に見舞われていた。

 昨晩は寝る時、いつも通り椅子に座っていた。

 しかし今俺はベッドに寝ていて、周囲には俺を囲うように右にレチア、左にララ、上にイクナと黒猫がいた。

 前にもこんなことがあった気がしないでもないような……

 抜け出そうかとも思ったが黒猫以外が両腕と胴をガッチリホールドしてるせいで身動き一つとれましぇん!

 というか待ってくれ、左右に柔らかいフニフニの感触がダイレクトに伝わってるんだが!?

 よく見たら俺、上裸じゃん!なんで!?

 ヤヴァイよヤヴァイよ!上裸の男の上に幼い少女を乗せてるとか容疑で逮捕される過程吹っ飛ばしてその場で実刑判決下されちまうじゃねえか!

 ……まさか下半身も、なんて言わないよな……?

 なんでこんなことになってんだよ……昨日一体何があった?

 俺はしばらく考えた後、「あっ!」とアナさんに録音機能があったことを思い出す。

 アナさん、昨日俺が寝た後に何があった記録してなーい?


【該当記録検索……八咫 来瀬が就寝後の騒動が記録されています。再生しますか?】


 流石アナさん、超絶美人だぜ!……そういえば前に録画もできるって言ってなかったっけ?


 【録画記録は宿主が視認した映像のみを記録するものであり、当時睡眠状態で目が塞がっている状態では記録不可能なので自動的にOFFにしました】


 わぁお、まるで学習するAIだな。うちのアナさんって結構優秀なのね。

 それじゃお願いします!


【承諾。就寝から一時間後の音声を再生します】


 すると急にガチャッと扉を開ける音やガサゴソという物を漁るような音が鳴り始める。

 前と違って目を開きながらその音声を聞き流せるから楽でいい。


【はぁー!思いっ切り食べて飲んだにゃー!もうお腹いっぱい過ぎて明日食べにゃくてもいいんじゃにゃーいかって思っちゃうにゃ!にゃははははは!】


 スマホの音量を爆上げした時のような声量で「にゃ」を語尾に話すその声は多分レチアだろう。

 いや、もう感じ的に酔ってるのか言葉の所々が「にゃ」になってしまっている。

 おいおいこいつ、ここに来るまでずっとその喋り方じゃないよな?自分が亜種だってこと忘れてない?大丈夫?ドゥーユーアンダースタン?


【レチア……あまり、その……大きな声は……】


 そしてもう一人、囁くようなか細い声が聞こえてきた。

 この声はあまり聞き覚えがない……違うな、最近聞いた声だ。

 ……ララか。

 この声を聞いた時は衝撃だったから今でも記憶に残ってるぞ。辛うじてだが。


【んあ?あぁ、そうだったそうだった。この喋り方で大声出してたら亜種だって隣の人にバレちゃうにゃね。それにしてもララちが声を出せるようになったのは、やっぱりめでたいにゃ~……】

【あ、ありがとう……でもあまり騒ぐと……彼が起きちゃう、よ……?】


 ララはレチアが亜種であることがバレることよりも俺が起きてしまう方を懸念していた。

 優しい……のか?いや、ただ単に俺と顔を合わせるのが気まずいだけだな、きっと。


【ララちは優しいにゃ。でもそこは大丈夫!その証拠に……行くにゃイクナ!】

【アゥア!】


 レチアの号令、そしてイクナの雄叫びみたいな返事が聞こえた次の瞬間、ドスンッ!とかなり近くで音が聞こえた。


【強い衝撃を感知。戦闘状態へ移行します。戦闘状態に移行したため《不明なウイルスLv.5》が発動されました】


 おいぃぃぃぃ!?

 何やってんだよ!変にダメージを食らっちまったせいでアナさんが戦闘状態になっちゃってんじゃねぇかよ!

 ああ、やめてイクナちゃん!凄いドスンドスンッて俺の上でジャンプする音が聞こえるよ!?

 このままだと椅子が壊れちゃうし、この宿の人か下の人に怒られちゃう!

 ……あっ、ここ一階だからそんなに大声を出さなきゃ大丈夫だった。テヘ☆

 いやテヘ☆じゃねえよ、男が気持ち悪い。

 でもこのままだとウイルスのせいで勝手に体が動き出して襲っちゃうかもしれないから本当にやめてください!

 ……先に言っておくが性的な意味での襲うじゃないからね?って誰に言い訳してんだ俺……

 するとずっと鳴っていた衝撃音が突然消えた。


【ダメだよ……いくらこの人が痛みを感じないからって……】


 聞こえてくるか細い声。どうやらララが止めてくれたらしい。

 この子ってそんなに優しいかったっけ?

 いつもツンケンした感じしかしらないからおじさんびっくりだぞ。

 しかも意外な優しい一面を向けられたことで危うく惚れそうになっちゃうじゃねえか。

 告白して振られて通報されるまである。あれ、告白しただけで通報までされちゃうの俺?


【……好き勝手にやらせたら、この子の将来が心配になる……】


 あ、はい。俺を心配してくれたわけじゃなかったんですね。夢も希望も砕いてくれてありがとう!

 ……実際、がっかりした反面ホッしている自分がいることに気付いた。

 そういう恋愛云々みたいな人と深い繋がりを持とうとするデリケートな内容に関わるのは正直言って好きじゃない。

 そりゃ俺だって全く期待しないわけじゃないが、期待したらした分、裏切られた時の反動のデカさと言ったらもう……常人なら人によって精神がゲシュタルト崩壊起こしちゃうレベルだからね?

 鋼の精神を持っていたからこそ乗り越えて今の俺がいると言っても過言ではないしな。

 ただし、鋼は鋼でも相当熱を加えられて歪みまくってる鋼だからな。扱い方によってはポッキリ逝っちゃうから気を付けるんだゾ☆

 ……言ってて悲しくなってきた。


【うーん、でも本当に起きないにゃ~?実は起きてたりしゃいか?ホレホレ!】


 さっきまで離れていたレチアの声が足音と共に段々と近付き、ついには耳元まで来てるんじゃないかってくらいの距離でレチアが声を発しながら何かをしているようだった。

 感覚までは再現できないから何をしているかは予想になるが、多分俺の体のどこかを突っついたりして確かめてるのだろう。

 ――チュッ


「……え?」

【……え?】


 現実の俺と録音されているララの声が重なる。

 待って、凄く変なというかいやらしい音が聞こえたんですけど!


【な、ななっ、何してるの……!?】


 ララもか細いながらで今までより一番聞き取りやすい声を発して疑問を投げかけていた。

 いやホント、何されちゃってるの俺!?


【何って……ヤタの頬っぺにチューしただけにゃ?】

「いやだけって、何してんのお前!?」

「うーん……」


 録音の声にツッコミを入れても返事が返ってこないことは重々承知だったがツッコミざるを得なかった。

 自分でも驚くほど大きめの声を出してしまったのだが、みんな唸るだけで起きることはなかった。


【キキキ、キスって……】


 ララの動揺も声から窺えた。今俺の横にいる彼女の顔が赤くなって戸惑ってる姿が容易に想像できるな。


【ふーむ……反応がないってことはやっぱりしっかり眠ってるかにゃ?】

【な、なんでそんな確かめ方……】

【だってヤタは痛みを感じないにゃ?だけど感触はちゃんと感じられるみたいで、ちょっと前におっぱい触らせたら凄い勢いでびっくりしてたからにゃ。だから今回もそれで起きるんじゃにゃーかと思ったんだけどにゃ~?おりゃ】


 音声の向こうで自分の体が動かされる音や布が擦れる音とかが聞こえてきて、なんというか……あの……凄くエロいです。

 そりゃアレだよ?頬にとはいえキスなんてされて視覚がない状態でそんなゴソゴソされたら誰だって妄想しちゃいますよ。


【な、なら私だって……!】


 ララが対抗するようなことを言い、俺の近くで布の擦れる音がまた増える。

 おいおいおいおい、お前まで何してんだよ!?

 まさか……?


【ニャハハハハ!ララちも自分のを揉ませるなんて大胆にゃねー?】


 何を揉ませてるんですかねお二人さんんんんっ!

 アナさん、本当にその映像見れないんですかね!?


【不要な内容だったため記録していません】


 クソゥ!

 おい、数時間前の俺!ちょっとでいいからそこを代わってくれ!ちょっとでいいから!

 俺の必死の懇願も虚しく音声は進み、ある意味地獄のような時間が五分くらい続いた後、ようやく解放された。


【ニャッハハハハハハ!ヤタが寝てるってわかってるのにずっと揉ませちゃったにゃ。これをヤタが知ったら凄く悔しがると思うにゃ?】


 当たりだよコンチクショウ!

 しかもその状況がより鮮明に分かる音声付きだから後で口頭で知らされるより何倍もの屈辱感と劣情になったわ!


【……イクナも、チュチュする?揉む?】


 するとイクナもそんなことを言い出す。

 言葉遣いがまだ拙いせいでキスのことをチュチュと言ってしまっているのだろう。可愛いな。

 だがしかし、いくら不可抗力とはいえそんなことされたらこれから生涯、ララとレチアにロリコンのレッテルを貼られて生きてくことになりそうなので勘弁してください。

 えっ、しないよね?してないよね!?


【それはダメにゃよ、イクナ】


 おぉ、レチアが止めてくれた!

 さっきまでは酔っぱらいの絡みみたいになってたけど、やっぱそういうTPOの常識は持ってくれて――


【そういうのはイクナがもっと大きくなってヤタからエッチな目で見られるようになってからにゃ。そうすればヤタも逃げられなく――にゃふっ!?】


 物凄く不穏なことをレチアがイクナに教えようとしたところで、その頭をパコーンッ!と爽快に叩く音が聞こえた。

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