10話目 前半 疑惑
レチアの両親を弔った後、予定通り鉱石を取りに行った。
一応ついでに賊が拠点にしていた場所も軽く調べ、他にゾンビがいないこととまだ使えそうな物をくすねておいた。
拾った物に関しては後で請求された時に出しておけばいいだろうしな。
炭鉱では前に遭遇したシャドウやそのリーダーとも鉢合わせることもなく、依頼にあった残りの鉱石を採取することができ、俺たちは日が沈む前には帰路に着くことができた。
ちなみに俺の横にレチアがいて、ララとイクナが後ろの方で黒猫と遊んでいる。
ララの方は俺がゾンビを食ったショックでここまでの間ずっと近付こうとしないで離れて付いて来ていた。
そりゃ、あんな腐った肉を食う奴とは一緒に歩きたくないだろうが、ここまでハッキリと拒絶されてると悲しいぜよ……
「そういえばこの報酬っていくらくらいなのにゃ?鉱石の依頼報酬ってたしかかなりしょっぱくなかったかにゃ?」
その道中、レチアがそんなことを聞いてきた。
「普通の鉱石依頼ってやっぱりそんなに毛嫌いされてるのな。まぁ、この報酬はちょっと特別な依頼だからな。ついでに余分に持って帰れば金にもなるし」
「ふーん……」
興味なさそうな返事をして正面を向くレチア。自分で聞いといてその反応は少し傷付く。
「これとさっきの調査以外に依頼は受けてないのにゃ?」
「ああ。討伐依頼でなければ後で依頼という形で受けられるし、ここに来るまでについでで受けられるものもなかったからな」
俺たちが迷い込んだ研究所のある方向の依頼はたくさんあったが、そっちは剣士以上の階級でなければ受けられない状態となっている。
ララは受けられるから、他のパーティと行けばいいんじゃないかと思ったが、彼女は速攻で否定した。
その場にいた受付のアイカさんからは「あなたは目だけでなく頭も腐っているんですか?」と言われ、彼女の背筋が凍るような満面の笑みは生涯忘れることはできないだろう。
「それじゃあ、帰ったら早速受けるにゃ。次の日になったら良い依頼がなくなってるかもしれないからにゃ!」
そんなアイカさんとは違う笑顔でそう言うレチア。
その笑顔に癒されつつ、俺も頷いて同意する。しっかりしてるな……
「グルルルルルゥ……!」
すると後ろでイクナの唸り声が聞こえてくる。
「イクナ?どうした――」
「ヤタ」
異変に気付いた俺とレチアがその様子を確認しようと振り返ろうとしたところで、誰かから声をかけられた。
そこにいたのはウルクさんと、その後ろに数十人の冒険者と思われる人たちだった。
中には見た顔もある。
「ウルクさん?どうしたんですか、そんな大勢で……」
「賊の拠点の調査に来た……って雰囲気じゃなさそうにゃ?」
ウルクさんたちのただならぬ雰囲気に、レチアが警戒して俺より少し前に出る。
俺も緊張感あるこの状況に息を飲む。
ウルクさんの俺を見る目が、まるで敵視してるような威圧を放ってる。
嫌な予感がする……
「ヤタ……正直に言ってくれ。お前は人間ではないのか?」
「っ……」
険しい表情をしていきなり確信を突いてくる問いに、俺は息を飲んだ。
ウルクさんが俺のことを君付けをやめてるし、かなり本気の雰囲気を感じる。
それに聞いている言い方をしているが、きっとウルクさんは確信してる。だから他の冒険者を連れてのだろう……
でも、俺は人間であることをやめてない。
たとえ死ななくなって肉体が人間のソレとは別物になったとしても、俺はこう言ってみせる。
「人間です」
「え?」
そしてその俺の言葉に対して真っ先に疑いの声を漏らしたのがレチアだった。
驚いているレチアの顔を睨むと、彼女は「しまった」という表情になり、俺から視線を外す。
おい、今一応シリアスな場面なんだから、嘘でも同意するか黙っとけよ。悲し過ぎて今ここから全力で逃げたい気分になったじゃねーか。
「……先程、私が派遣した調査隊の一人が興味深い報告を持ち帰ったんだが、君が短剣を胸に突き刺して無事だった上にリビングデッドの変異種と思わしき巨人を撃破、その肉を食らったと聞いた」
「短剣を胸に?なんでそんな自殺行為みたいなバカなことしなくちゃならないんですか?」
とにかく知らないフリをする。
するとウルクさんは、ある一人の黒い長ローブに身を包んだ綺麗な女性に視線を移す。彼女が報告した人なのか?
その人が数歩前に出る。
「私はあなた方の戦いの一部始終を見させてもらいました。その時にそこの目が特徴的な男性の奇行を目にしました」
俺を指差してそう言う女の人。
人を指差すなって親から教わらなかったのか、こいつは?
自慢じゃないが、俺なんて後ろ指を差されてばっかりだったから、親に教わらずとも人を指差したことなんて一度もないぞ?
……ホントに自慢にならないな。
「その人の言うことを信じるんですか?」
「彼女は私が最も信頼している人間の一人だ。だからその彼女がタチの悪い冗談を言うとは思えない。とはいえ、こうやって君と会話できる現状から魔物になってしまったとも考え難い……そもそも人が魔物になった前例などないしな」
気付くと、ウルクさんを含めた冒険者たちがそれぞれ武器に手を添えていた。
明らかに俺たちを……いや、俺を敵として認識しようとしている。
「だから君たちには同行してもらおうと思う。ついて来てくれるかね?」
「なっ……!?」
ウルクさんの提案に驚きの声を上げたのは、彼が信頼していると言った女性だった。
「彼らを連れて行くというのですか!?」
「ああ、そうだ」
「魔物かもしれないのにですか!?」
女性の言葉が胸に突き刺さった。
「魔物かもしれないのに」
自問自答した時やレチアに言われた時とはまた違った悲しみを感じる。
というか、一応人間らしく振舞ってる奴相手に堂々と言うか、そういうの?
「さっきも言いましたけど、俺は人間をやめたつもりはありませんよ」
「あなたには聞いていませんから」
女性が急に真顔になって、ピシャリと言い放つ。ちくしょう泣くぞ!
「かもしれないで決め付けてはダメだ」
「ですが……」
「話を遮るようですいませんが、俺『たち』って……ララたちもですか?」
質問を投げかける際に女性から睨まれたが、俺は挫けない。もうすでに挫けそうになってるけど。
「ああ、そうだ。残念だが、君と一緒にいるというだけで怪しむには十分な理由になる」
ウルクさんの言い分に、仕方ないか……などとこんな状況で簡単に納得できるはずもなく。
「そこに命の保証はあると?」
「後ろめたいことがなければ問題ない」
「信用できませんね」
俺がそうハッキリ言うと、レチアもララも、そしてウルクさんも驚いた表情を浮かべていた。
「あなたは優しいです。会って数日でそれはわかります……ですが会って『たった』数日の人を信じるのは無理がある話でしょう?それに多分、後ろの人たちにも事情は説明した上でついて来てもらっているんでしょうし……その人たちが俺たちを攻撃しないという保証がどこにあるんです?」
ウルクさんが連れて来た冒険者たちからは、今にも斬りかかってきそうなほど、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。今からでも泣いて土下座したいほどだ。
彼らは強い。少なくとも戦闘経験のない俺よりは。
もし戦闘になれば、俺たちなど簡単に取り押さえられるだろう。
俺はともかくとして、他の三人がその時に無事でいられるのかがわからない。
だったら俺の詭弁で少しでも状況を変えるしかない。
せめて、ララたちの無事が保証されるまでは……
「だが君がついて来ることを拒否すれば、俺はもちろんのこと、彼らも君たちを討伐対象として攻撃を始めることになっている」
「まさかララたちも……?」
ウルクさんが頷く。
なんでララたちも……いや、俺のせいか。
俺がこうなる可能性も考えず、彼女らの同行を許してしまったがゆえの現状だ。
ここで俺だけが犠牲に……なんて考えても、その後はどうなる?
「……わかりました、あなたの指示に従います」
「助かる。こちらとしても戦闘は本意ではないからな――」
ウルクさんがホッと胸を撫で下ろそうとした時、誰かが俺たちに向かって走って来た。
「アアァァァアアァァァッ!」
それは見たことある男……ベラルだった。
「なんっ……なんにゃ急に!?」
驚きの声を上げるレチア。俺も驚いて咄嗟にフィッカーの中から武器を取り出そうとしたが、失敗して落としてしまった。
その間にベラルはもうすでに目の前に迫っていた。
「なぜ……なぜ俺が自分より下の者に怯えながら生きなければならない!?お前が……お前さえいなければぁぁぁぁっ!!」
彼が振り上げた剣は、すぐにでも振り下ろされる寸前……
だが結果的に、その攻撃が俺に当たることはなかった。
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