第2話 何だ?これは…

 引芹



「そういえばさ、A組とB組っていじめがすごいらしいんだよ。知ってた?」

「まあ、噂程度には」

 実際その目で確認したことがないから、深く肯定は出来ない。それに、そもそもあまり人の目のつくところではやらないだろう。やっていたとしたらとっくに俺はその現場を見ている筈だ。

「嫌だよね~、いじめる側にはなりたくないし、いじめられる側にもなりたくないよね。でも、かといって、いじめられてる子を助けて代わりに自分がいじめられるようになるって話も聞くし。どうすればいいんだろうね」

「得生戸の言った言葉に同意だ。俺も結局の所、どうすればいいのか分からんしな」

「だよね!あっ、そろそろ移動しなきゃ」

「だな、遅刻したら面倒だし」

 そうして、俺たちは物理室へと歩いて行った。あまり遠くは無いから時間は掛からない。けれど、だからと言って余裕をこいていると遅刻しかねない。巫先生は遅刻に対してもかなり厳しい。なまら美人なだけに、そういった残念(俺たちにとって)な部分が際立って目立つ。そう思うのは中々に勝手だが。

 そう、あまりに下らないことを考えている内にいつの間にか物理室へと着いていた。俺は席につき、頬杖をつく。と、本鈴が鳴り出し授業が始まる。巫先生の長ったらしい話も始まった。まあ、話を聞く気はないのだが。もし、何故聞いてなかったのか、と班員に聞かれたら『眠かったから』で通そうと思う。実際問題眠いのは事実だ。……ふと、周りが気になり周りを見てみる。すると、驚いた事にクラスの半数以上、しかも、男子だけがうとうとしている事に気が付いた。もちろん、いつも大抵は男子ばっかりがうとうとしているのだが、今日の量は異常だ。皆で勉強会でもしたのだろうか、とそう思ったのだが、うとうとしている奴の中に似榎磐がいるからそれは違うだろう。なぜならあいつは、勉強嫌いだからだ。それも、そんじょそこらの奴とは、比べ物にならないくらい、だ。だから、それは無い。だとしたら何でこんなに……?たまたまか?そう考えている内に俺も眠くなってきた。周りの皆はもう既に寝てしまっているし、俺も寝ようか。……だめ……そうだしな………………





「きゃっ!」

 そんな声を聞き、俺は浅い微睡みの中から目を覚ます。そして、すぐに声のした方向を向いた。そこには得生戸の友人である、佩迥はいけいがいた。その隣では、女子が机に突っ伏して寝ていた。よくもまあ、隣で大声出されて、寝ていられるな……ん?ちょっと待て。女子?確か、女子の隣は男子が座ってるはずじゃ……そう思い、周りを見渡す。すると、周りにも女子同士の席が多数あった。そしてその女子達も佩迥同様悲鳴を上げていく。

「な、何が起こってるの…」

 そう言って、隣に座っていた得生戸がこちらを向く。

「ねぇ、引芹……くん?……どうしたの?」

「ん?何がだ?」

「すごい可愛くなってる。髪も長くなってるし……鏡見る?」

 一体得生戸は何を言っているんだ?そう言いかけたが、薄らと何が言いたいのか分かっていた様な気がした。

「ああ」

 そう言って、手渡された手鏡を見る。そこに写っていたのは仏頂面の顔ではなく、まるで女子の様な、色白の顔だった。……もしかしたら、という考えが頭を過った。男子が女子に変わっていってるのかもしれない。

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