寝室では、すでに穏やかな寝息が響いていた。

 本来、誰にも踏み込ませるはずのなかった場所。いずれはあの人と二人で暮らすはずだった屋敷の一室に、今は、あの人以外の男の寝息が響いている。

 その寝息に混じって、ふと言葉が紡がれる。

「……悪かった、瑞月」

 なぜ謝るのだろう。眠りにつくたびにこの男は何かを謝っている。その寝顔はひどく苦しげで、最初の頃こそ良い気味だと嗤っていた桃子だったが、近頃では、無邪気に嗤えない自分に気付き始めている。

「でも、俺は……こうするしか……」

「何をそんなに謝るの」

 すると男は、今は開かないはずの瞼をうっすらと開く。そうして視えないはずの桃子に目を止めると、譫言にしてはやけに明瞭な声で答えた。

「あいつから両親を奪ったのは、俺なんだ」

「……えっ?」

 だが、問い返そうとした次の瞬間には、もう男は瞼を閉ざし、ふたたび寝息を立て始めていた。その、相変わらず安らかとは言えない寝顔を見下ろしながら、桃子は、今しがた男が口にした言葉を頭の中で何度も、何度も反芻していた。

「どういう……意味なの、陽介さん」

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