2 ヒコウ時代
あの日から、2週間。
世界同時多発的に、“空を飛ぶ人間”は急増し、映画の中で見たスーパーマンの光景は日常となりつつあった。
少し様相が違うのは、スラーッとしたマントをつけていないこと。そして、誰も右手を前に突き出すポーズをとっていないこと。多くの人がフルフェイスのヘルメットを装着し、レインコートを着て飛んでいることだ。
そんな彼らは《Flying Human(飛行人)》と呼ばれるようになり、世間ではヒーロー扱いされ、とにかくモテた。(どういうことか、そのほとんどは男性だった)
「実はオレ、《飛行人》なんだよね」
高校では、このセリフが流行りに流行った。
でも、本物の《Flying Human》は誰一人いなかった。
僕はいつものように学校に通い、いつものように帰宅し、いつものように部屋でフワ〜ッと宙に浮いていた。そして、よなよな家族が寝静まった頃、部屋の窓をそっと開けて、空を旋回して楽しんだ。ひっそりと、夏の空気が気持ちよかった。
世界中の科学者が目を輝かせ、その特殊能力の謎の解明に奔走する中、僕は自分が《Flying Human》であることを誰にも打ち明けられずに過ごしていた。
唯一、僕が話したのはガン太だけだった。
ひと月経ち、街にも《飛行人》が目立つようになった頃、社会は大きく変わった。ニュースの見出しも、日に日に変化する。
大物芸能人 “《飛行人》カミングアウト”
“屋根に玄関がある家”がステータス
初期のニュースはこんな感じだった。
女性のスカート率 過去最低
“飛び方を教える塾”ブーム
スポーツ界では世界新記録が続出
今はこんな感じ。
車や公共交通機関が使われなくなり、石油や電気の需要が激減する恐れ
《飛行人》事故 相次ぐ
空からのひったくり? ヒコウ人か
空を飛ぶ人間のせいで、街は廃れ、社会は混乱していく…。
ヒコウ人 タワマンで覗きか
《飛行人》が飛び降り自殺
僕らはヒーローではなくなった。
スマホの画面を眺めていると、LINEが鳴った。
「2年4組に、《飛行人》がいる」
夏の湿気が立ち込める中、僕の背筋に冷たい汗がツーッと流れる。ガン太はベロを出したまま、ジッと僕を見ている——
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