三人目 英雄の妹の話
魔王が倒された。
その知らせが私の村にやって来たのは、今から1週間くらい前の事かしら。村のみんなはこれで魔物に怯えなくて良くなると喜んだの。私もこれで魔物を減らそうと旅に出て行った兄さんとあの人も帰ってくるんだって喜んだわ。二人が帰ってきたらたくさん旅の話を聞かせてもらうのって、ただ無邪気にその通知を喜んでいたの。
でもその願いは叶わなかったわ。兄さんは帰ってきたけどあの人は帰ってこなかったの。魔王に殺されたんだって兄さんは言ったわ。心臓が潰れたから蘇生も無理だった。遺体を運ぶことも難しく、近くの森に埋葬した。すまなかった。ただそれだけを口にして、集まったみんなの輪から抜け出して家へ帰って行ったみたい。出迎えたみんなも気まずくなってそのまま散り散りにどこかへ行ってしまったわ。
私はそのまま呆然と立っている事しかできなかったの。あの人が居ないなんて信じたくなかった。もう会えないなんてもうおしゃべりできないなんてそんなの信じられなかった。兄さんは嘘がヘタだって知っているけどそれでも嘘なんでしょって叫びたかった。実はあの人がどこかに隠れてて嘘だよって言ってくれるんじゃないかってそう思いたかった。今とってもあの人の笑顔が見たくなって、もう見れないんだって哀しくなった。
家に戻ると兄さんが戻ってた。落ち込んでいるみたいで椅子に座ったままぼんやりと宙を見つめてたの。荷物も片付けず机の上に鞄が放り投げられたままになってるのが、兄さんの辛さを表してるみたいでしんどくなったの。兄さんば身も心も疲れきってたみたいでぐったりしながらおかえりとだけ言ってくれたわ。その後ふっと息を抜いて遠くを見つめるように少し考え込んでから少し荷物をあさったの。そうして目的のものを見つけたみたいで、鞄から何かを取り出して私の方へと差し出してきたわ。
「これを。」
兄さんから手渡されたものは手のひらに乗るくらいの小さな箱。兄さんがお土産を買ってくるなんて珍しいのねと思いながら小箱を開いたわ。その中には真っ赤な宝石がついた美しいネックレスが入っていたの。
「これ……」
私の好きな赤い宝石。ここまで綺麗な赤色のなんてこの村では見たこともないくらいで。このネックレスはそう、ちょうど近くの街で見かけた時にいいないいなとわがままみたいに言ってた物よ。兄さんとあの人はあの宝石の価値がわかっていたようで困ったように笑いながらニ人で顔を見合わせていたのを覚えてるわ。あの人は私の頭を撫でていつか買ってあげるねと言ってくれたの。
「あいつの荷物に入っていた。お前にあげるつもりだったのだろう。」
兄さんがあいつと呼ぶ人なんて私は一人しか知らない。あの人よ。あの人はあんなわがままな約束を守ってくれたのね。村に帰ってくるって約束は守ってくれなかったけど、昔の約束は守ってくれたの。でもこんな昔の約束なんてよかったのに。帰ってきてくれる方が何倍も何十倍も嬉しかったのに!!もう居ないあの人に向かってそう叫びたくなったわ。
「連れて帰れなくてすまなかった」
泣きそうな顔で自分を責めたような顔で兄さんはぽつりと呟いた。兄さんのせいじゃないのに。そんなことわかってるのに。零れる涙で前が見えなくなって、ぐすっという二つの音が木霊する。堪えきれなくて二人で泣きじゃくっちゃった。
世界は幸せに包まれたのに私と兄さんが貰ったのは哀しみだけだったの
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