第96話 曖昧力
子どもの頃、「頭の体操」というクイズの本に夢中だった時期がある。たしか、小学三年か四年くらいのことだ。答を見て、もう一度問題を見返すと、自分が見落とした表現に気づくことができて面白かった。
表現を「見落とす」のは、文章がそれだけ「曖昧」に作られているからだ。著者の多湖輝氏は心理学者として知られ、その後、日常生活に活かせる心理学の本を多数発表した。当然のように、ファンになった。
中学・高校と、フロイトやユングの名に親しんだのは、多湖氏の著作のおかげである。自分にとって心理学は、「曖昧」なことをはっきり見通すスキルだった。だが、夢についての解釈だけは、苦手だった。
心理学は、よって立つ学説によって考え方が変わる。将来、新しい学説が出るかもしれない。「曖昧」な夢は曖昧なままで、その後の行動を通して理解していくしかない。「曖昧」に、折り合いをつけたわけだ。
多湖氏の著書に、「曖昧力」というのがある。「空気を読んで曖昧模糊としたグレーゾーンを自分らしく生きるのが大事」なのだそうだ。「曖昧」は、いい加減なようで融通が利くしたたかな生き方らしい。
クイズ「頭の体操」は、問題の見落としを誘う内容だった。だが解答には、「うまい」と思わせるしたたかさがあった。価値が多様化する今、「曖昧」というグレーゾーンで見落としを探すのも、一興である。
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