第54話 隠居気分
休日勤務の前後に取るのが振休。休日と同じように作務衣を着て、休日と同じように散歩に出掛けても、街は平日の顔をしている。あのころはまだ平和で、「ステイホーム」の呼びかけはなかった。
近くの図書館に顔を出すと、顔馴染みの職員に声を掛けられる。閲覧室で数冊読み終えるころには、午後一時。帰っても嫁さん出掛けてるし、どっかで食うか、という訳で、小さなラーメン屋に入る。
小学校の裏にあるラーメン屋。出前で頼む人はいるが、平日客が来るのは珍しい。店主のオヤジと世間話が始まる。みんなが仕事をしているなか、ぽつんと一人だけで気儘に過ごすのは、何だか隠居の気分でもある。
何となく餃子を注文して、ふとビールを飲む気になった。今更がっつり食べても晩飯が入らない。明るい時分からのアルコールは、そこはかとない背徳感があって、余計にうまい。中瓶一本だけ頂いた。
飲むときの話題は、当たり障りのないものに限る。会話を楽しむというより、飲む時間を楽しむ感じ。だが他の酒と違い、のど越しを楽しむビールは、なくなるのが早い。支払いを済ませると、頬の辺りに酔いを感じた。
店を出れば、平日の街。こちらが控え目に関わりを持とうとしても、一切を拒否して「仕事」を回している。酔いを覚ましながら歩く「隠居」は、自分だけだ。「世間」と「隠居」は、別次元で生きている。
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