第52話 尋ねる 

 自他共に認める方向音痴。連れ立って買い物に行けば違う方向に向かい、同じ地図を見ながら違う場所に着く。周りの人に尋ねないと、どうしようもない。とはいえ、誰にでも聞けるわけではない。悩みの種だ。

 同じ通行人でも、歩く速さが違う。ゆっくり歩く人なら尋ねやすいが、ゆっくり歩く人も道を探していたりする。速く歩く人には追いつけない。となれば、呼び止めやすい相手を探すことになる。では誰に聞くのか。

 高齢者は耳が遠い。道を聞いても会話にならない。勤め人は忙しい。まず相手にしてもらえない。買い物途中の主婦か、学生あたりに頼るしかない。いちばんいいのは、交番勤務の警察官だ。対応も手慣れている。

 最近、相手に聞かれることが増えた。近所を散歩していると、道を尋ねてくる。時間をもて余した顔をしているらしい。道を尋ねるプロを自認しているので、何をどう聞かれるのかはよく分かる。近所の地理なら大丈夫だ。

 たまに分からない場所がある。最近できた施設には疎い。それでも、一緒に歩きながら案内していれば、何となくたどり着く。たいていは犬の散歩の途中なので、散歩コースに変化ができて楽しい。

 ウチの犬は、妙に人懐っこいところがある。散歩の途中、見知らぬ人に寄って甘えるのだ。見知らぬ道に迷い込んでも、リードを引いて連れ帰ってくれる。尋ね人が見ているのは、案外犬のほうかもしれない。

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