第35話 マンガの読解力

 子どもの頃よく言われたのが、「マンガばかり見てないで勉強しなさい」という小言。文章だけでなく絵の力で訴えるマンガは、教科書に比べて数段分かりやすかった。だが、文章が少ない分、内容もまた薄かった。

 少年マンガのほとんどは、昔も今も変わっていない。主人公は決まって少年か青年。周りに助けられながら成長し、心身共にたくましくなる。山場では何らかの葛藤や「戦い」があって、最後は必ずうまくいく。

 山場での葛藤や「戦い」には、何らかの効果音が伴う。擬態語や擬音語が雰囲気を単純化して説明し、その分だけ文章の叙述は少なくなる。かくして内容を「読解」することなく、理解できてしまうわけだ。

 一方、少女マンガでは、コマ割の中に複数の叙述が盛り込まれる。吹き出しの中の台詞に加え、少年マンガと同じ効果音、さらに人物が手を振れば「ばいばい」と手書きが添えられる。多いときには六~七種類ある。

 小説や物語では、「一方」などの接続詞で繋ぎ、段落を変えて説明するところを、少女マンガでは一コマ内に短い叙述が並行して書かれている。叙述は短いがゆえに分かりにくく、コマ内の絵から類推するしかない。

 少女マンガの絵は、細かい所まで緻密な表現をされることが多い。細やかな表現が、並行して書かれている複数の叙述で補完され、叙述に即した読者の想像力を刺激している。マンガを馬鹿にできない時代になってきた。

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