第三章

新たな更生者


棺桶の中に横たわるリュウの顔は、死んでいるとはとても思えなくて、酷く生々しかった。

今すぐにも飛び起きて、いつもの意地の悪い笑顔で、僕の頭を叩きそうだった。

僕は棺桶の前で手を合わせた。

真っ暗になった瞼の上に、リュウの顔がいくつも浮かんだ。

実感が無かった。

長い悪夢を見ている様だった。

僕は叫び出しそうなるのを必死にこらえて、ただひたすら手を合わせた。






 リュウは死んだ。

 あっけなく死んだ。

 自殺だった。発見されたのは、昼の六時三十分頃。発見者は陸上部の生徒だったらしい。三階の校舎から飛び降りたリュウの体は、丁度真下にあった木の上に落ち、殆ど外傷が無かったにも関わらず、打ち所が悪くて、リュウは死んだ。

 リュウの揃えられた靴の横の携帯には、ただ、ごめん、とだけ打たれていたと、リュウのおばさんから聞いた。何があの子にこんな事にさせたんだろう、何で、何やろう、そう言って棺桶に縋り付いて、おばさんは顔をボロボロにさせて泣いた。

 リュウの葬式から三日後、リュウの担任の先生からリュウが虐めか何かに会っていなかったかと聞かれた。僕は分からない、と答えた。先生の話によると、リュウはツイッター上で根も葉もない噂話を広められ、それが自殺のきっかけとなったのではないか、という話だった。

 根も葉もない噂話の内容までは教えてくれなかったが、本当は、僕が一番良く知っていた。そしてそれが拡散されたのが、恐らくは夢野のツイートからだと言う事も知っていた。でも僕は何も言わなかった。

 一ヶ月程、誰かそのツイートの発信源なのか突き止める調査が行われたか、様々な場所から、様々な経由を伝って拡散された為、結局、誰か一番番最初にツイートしたかはつきとめられなかった。

 天文学部には辞表を出した。

 夢野とは偶に廊下ですれ違ったか、お互いにお互いを見ずに素通りした。

 僕は学校休むようになった。

 学校に行くとリュウの事を思い出す、リュウの事を考えると、僕は自分を殺してしまいそうになった。

 毎日の様にリュウを夢に見た。

 夢に出るリュウの顔はブルーベリーのように青紫色で、所々緑色だった。その頭は、ぱんぱんに膨らんでいて、目のあるべき場所から、絶えず膿の様な液体を流れさせていた。首は、千切れてしまいそうな程、長かった。リュウはいつも、首ををぶらぶらとさせて、ガクガクと痙攣しながら僕に近づく。そして僕の目の前まで来ると、絶叫と絶叫を掛け合わせたかの様な、甲高い声で何かを叫ぶ。リュウの胸下にまで伸びた灰色の下が、リュウの喉を圧迫しているのか、時たまリュウは咳き込み、ねばねばとした血の痰を僕に飛ばした。リュウの声は、発音が不明瞭で、何を言っているか聞き取れなかったが、不思議と意味は理解していた。

 許さない。

 と、毎回リュウはそれだけを言っていた。殺してやるでもなく、呪ってやるでもなく、ただ、許さない。許さないとだけ、それを何度も、何千回も、何万回も、僕の目の前でずっと、毎日、飽きることなく言い続けていた。

 その内僕は、眠る事が怖くなり、眠らない日々が続いた。寝てしまいそうになる度に、太ももにシャーペンを突き刺していた。

 両親は、親友が死んで落ち込んでいるんだろうと、そんな僕に酷く優しく接してくれた。その優しさが、返って辛く、僕は大半の一日をベットの上で過ごした。寝不足から酷い頭痛がやってくる様になり、母の頭痛薬を隠れて飲んだ。それでも頭痛は良くなるばかりか、返って悪くなる様な気がした。

 時たま、僕は布団の中で笑い転げる事もあった。

 何でこんな、被害者面して家引きこもってんだよ、リュウを殺した張本人の癖に。

 そう思うと、なぜかすべての事が馬鹿らしく見え、腹を抱えながら何時間も笑った。笑った後は虚しくなり、一人で声を凝らしながら泣いた。

 クラスの女子を強姦し、自分の一番の親友を殺し、僕は今や立派な犯罪者になっていた。

 自殺しようと何回も考えたが、それは絶対に出来なかった。それはリュウに対する、最高の冒涜だと思ったから。

 学校に行かなくなって三週間が経つと、母さんもそろそろ行きなよ、と声をかける様になっていた。四週間目が経つと、母さんが本気で心配し、そして怒っているのがドア越しに分かった。五週間目には、父さんも出てくる様になった。しかし、僕がリュウが死んだショックでふさぎこんでいると思い込んでいる二人は、僕に激しく怒鳴る様な事はせず、ただ淡々と諭すように説得された。僕は布団の中で、両耳を塞ぎながら時間が過ぎるのを待った。  

 文化祭が、もうすぐ迫ろうとしていた。







一段一段、降りるごとに階段が軋む。ろくに動いていない体は、それだけの動作で悲鳴を上げた。吐きそうになる。リビングの扉を開ける音に反応して、母さんと父さんが振り向いた。母さんと父さんが驚いた表情で僕を見つめる。

僕は乾いた口を開いた。何かを喋ろうとして、出来ない自分に気が付いた。

たった一カ月間、一切喋っていないだけで、僕は既に発声の仕方を忘れていた。そんな自分に戸惑いながら、頭の中で単語をかき集め、必死で言葉を吐き出す。

「あ……あ」

 二人が、困惑した表情で僕を見る。僕は俯いた。

「あし…た、学校行くから」

 母さんがゆっくり立ち上がった。僕はいたたまれなくなって、その瞬間、リビングから飛び出した。急いで自分の部屋に戻り、鍵を閉める。追って来た母さんが、扉を叩いた。

「テツ……」

 母さんがもう一度、弱弱しく扉を叩いた。

「開けて、一回話し合おう、テツ…」

 母さんの声は震えていた。

「……ごめん、いま、話す気……ない」

 僕は扉の向こうの母さんに言った。母さんが黙り、そして言った。

「あんた、本当に学校行けるの」

「…うん、大丈夫…心配せんで…」

 一際強い衝撃が、ドアの外から響いた。

「心配せんでって、そんな事言われても、心配するに決まっとるやんッ、本当に大丈夫なの、ねぇ、無理しなくてもいいんだよ」

 僕はぐちゃぐちゃになった頭で、懸命に自分の言葉を探した。

「お…俺、でも、このままじゃ、駄目だし……行かなくちゃいけない、から。明日から…絶対に学校行くから。でも……今は、一人にさせて」

 長い沈黙の後、扉の向こうから、母さんの小さな溜息が聞こえた。

「…分かった」

 母さんが階段を降りていく音が聞こえた。

そして、僕は一人になった。







 次の日、僕は久々に家族揃って朝食を食べた。

目玉焼きにトースト、何の変化もない朝ごはんが、何故かとても特別なように感じた。二人は始終、心配と不安が混じり合った顔で僕を見つめていた。父さんが学校まで送ってくれると言ったが、それを断って、僕は家を出た。

「明日来いよ、来ないとぶっ殺すから」

 山中からそんな電話が集いたのは、昨日の夜のことだった。

「明日から文化祭の練習やから、絶対来いよ」

僕は行かなければならなかった。ぶっ殺すぞ、そんなの冗談でも使う言葉だ。けれど、山中の場合は重みが違った。山中ならやりかねなかった。

 自転車をふらつきながらこぎ、学校に着くとリュウのこと思い出した。リュウの成れ果てが僕の頭の中で絶叫する。震えながら、僕は自転車を自転車置き場に閉まった。

周りの生徒は、様子のおかしい僕を遠巻きに見ていた。その視線は突き刺す様で、まるで、僕がやった事を皆知っている様で、言い様の無い恐怖に襲われた。

ゆっくりと、信じられない程の時間をかけながら、玄関に上がり靴を脱ぎ、階段を登る。頭の中で、記憶と妄想と現実がぐちゃぐちゃになる。チャイムが学校中に響き渡った。

やっとの思いで、僕は教室に着き、扉に手を掛けた。

この教室に皆森が居る、山中が居る、サンチュが居る。

過呼吸気味に呼吸が引き攣る。怖い。ただ、怖い。でも、逃げられない。

僕は全神経を扉にかけ、ゆっくりと、弱弱しく、扉を開けた。

扉を開けた瞬間、クラス中の目が僕を貫いた。時間が止まる。頭が真っ白になる。

出席を取っていた橋本も、驚いた顔をして僕を見つめている。

「ぅおッ、おお、くれてすみま…せん」

 僕は弱弱しい声を捻りだした。

「え、ええ、久しぶりね」

 橋本先生が全身から汗を出す僕に、引き攣った笑みを見せながら言った。荒い息を上げ、空いている、教室の自分の席まで歩く。足が鉛の様に重い。一歩一歩を踏みしめながら、ようやく僕は席に座った。

先生の声が再開しても、教室中の視線は僕に集まっていた。僕は手に爪を立てながら、ずっと机の表面を見ていた。





 誰にも話しかけられず、僕の一日が過ぎていった。

羽川は既に皆森のグループに入っており、偶に僕と目が合っては顔を反らした。何故か分からなかった。授業も何をやっているか理解できず、僕は今すぐ死にたくなるような、惨めな気分になりながら、ただ椅子の上に座った。一人きりの休み時間、何もやる事が無く、ただ僕は机の上に顔を伏せ、寝たふりをして時間をやり過ごした。何か山中達にされるのではないと怖かったが、意外にも何も起きず、ただ静かな時が流れていった。

 そして放課後になり、ホームルームが終わると、橋本先生を抜きにして、僕達は音楽室へ移った。聞こえてくるクラスメイトの会話によると、僕達は文化祭で屋台の代わりに、簡単な劇をするらしかった。

何分か経って、音楽室にやっと全員が集まる。音楽室には、翼を広げて、の曲が何故か流れていた。皆森が両手一杯に冊子を持って教壇に上がった。皆森の姿を見た瞬間、僕の背中に鳥肌が立った。

「今から皆に、台本を配りたいと思います。ここに並んでね~」

 音楽室中がざわつきながら、教壇から列を作っている。僕はその列がある程度縮むのを待ってから、静かに最後尾へと並んだ。

急に、僕は騒めき声が、囁き声に変わっていくのに気が付いた。

 顔を上げる。

 クラス中の皆が、何故か僕を見つめていた。そして僕の目線に気づき、皆、顔を背けた。足が震える。

「はい」

 と明るい声がした。皆森が笑顔で僕に冊子を差し出す。冊子の表紙には、大きな文字で、牛の鳴く頃に、と題名が打たれていた。

 皆森が申し訳なさそうな優しい笑みを浮かべ、僕の手を取った。

「ごめんね、金田君、最近休みっぱなしだったから、あんまり目立つ役じゃないんだけど…」

 僕は皆森の手を振り払う事も出来ず、ただ目を背けて、どもりながら、大丈夫だよ、と言った。その瞬間、手に激痛が走り、僕は驚いて手を引いた。じんじんと痺れていく手の真ん中に、画鋲が突き刺さっていた。

 僕はゆっくりと顔を上げ、皆森を見た。

 皆森は何時もよりも、いや、それよりも美しく清らかに微笑んでいた。

「でも、今日は金田君が主役だからね」

 僕が目を見開く、と同時に、翼を広げて、の音が突然大きくなった。あまりの大音量に驚いて耳を塞ぐ。目の前の皆森が、信じられない、と言う顔をして僕の背後を見つめた。

 誰かが小さな悲鳴を上げる。


僕は振り向いた。

 

そこには、メグが映っていた。

 

そして、その上に誰かが覆いかぶさっていた。

 


僕だった。




「え、何これ…」




 皆森が小さく呟いた。音楽が部屋に響く。それに合わせて、スクリーンの中の僕が腰を振る。ばらばらと、冊子が地面に落ちる。僕は振り返った。皆森が震えながら僕を見つめていた。

「え…金田、君……なの、これ」

 皆森が口を押える。

「嘘だ、こんなの……」

 クラス中の目線が僕に集まる。皆森が震える唇で呟いた。

「気持ち悪いぃ…」

 僕は気づけば、拳を握って、皆森に襲い掛かっていた。

 女子の悲鳴が上がる。酷い鈍痛が、僕の体に走る、と共に、僕は地面に押し付けられていた。口から空気が出る。僕は絶叫した。

「皆森ィイでめぇええええええええッ」

 皆森が悲鳴を上げる。僕は全身の筋肉を力一杯動かした。サンチュが僕の上に乗り、僕の腕をおかしな方向に曲げる。身動きが出来なくなった僕の口の中に、何処から持ってきた雑巾が突っ込まれた。すすり泣く皆森を、ヨッシーが優しく抱きしめる。山中が教壇に上がり、水島を指さした。部屋の隅で虚ろな目をしていた水島が、体を強張らせて、山中を見る。

「お前は今日で更生終わりや。良かったな」

 水島が口の端を痙攣させながら笑った。山中がクラスメイトに体を向き直す。

「一か月前、夜中にこの動画が金田から送られてきた」

 僕は絶叫した。しかし、僕の声は雑巾の中に吸い込まれ、ただの無意味な音となった。

「俺は信じられんかった。こんなん普通に犯罪や。しかも強姦何て、人として最低やッ」

 違う、違う、違う、違う!

「……しかも、俺が信じられんかったのは……」

 そう言って山中は言葉を切った。口を手で覆い隠す。山中の声が、膜を張った様に聞こえる。

「…リュウが…、俺の友達のリュウが、一か月前自殺したのは、皆知っとると思う。そして、そのリュウの自殺の原因が、誰かがリュウの馬鹿な噂をツイートして、それが広まった事がきっかけやと言う話も、多分、少数の人は知っとると思う」

 山中は唇を噛みしめ、震えた。

「そのツイートは…この…、このッ!くそ男から…されたんやッ」

 山中が鼻水を飛び散らせながら叫んだ。

「みみ、皆森がお前の後輩から聞いたんや、こいつが、信じられん様な糞みたいな、作り話を後輩に教えたって、皆森の言う事やから確かや、実際、俺も後輩から聞いた。こいつはリュウが自殺した原因なんや。最低や、こいつなんて、生きる価値の無い最低な男やッ」

 山中が、下を向いて、少しの間息を詰まらせ、そして言った。

「だから俺は、こいつを、更生者に推薦したい。もし皆があかんって言うなら、俺は自分だけで、こいつを何回も半殺しにしたる、…こ、こいつだけは許せれん、こいつだけは…こいつだけはッ」

 サンチュが山中を制した。荒い息を吐く山中の代わりに、ヨッシーが教壇に立つ。

「………今から多数決を取る。…更生対象者に金田哲夫が相応しい思う人は、手ぇ挙げてくれ」

 僕は叫んで体を動かした。でもどうしようもならなかった。僕は見たくなかった。もう何も見たくなかった。知りたくなかった。

 目を瞑った僕の瞼を、サンチュが無理矢理こじ開ける。僕の眼球に、鋭い光が突き刺さり、そしてその光は形となって僕の脳へ届いた。

 真っすぐあげられる、無数の手、手、手。

 クラスの全員が、手を挙げていた。

「…金田哲夫」

 サンチュが耳元で囁いた。

「おめでとう、今日からお前を更生させたるでな」

 サンチュが口角を上げて笑った。

 僕は奇声を上げ、サンチュを振りほどき、音楽室のドアへ全力で走った。しかしドアに辿り着く前に、誰かが出した足の先に躓き、僕は地面に倒れた。倒れた僕の手の上に、山中が足を振り下ろした。山中の上履きと、冷たい床の間で、骨が軋む音と痛みを感じる。山中は僕の骨を撫でる様に、左右にゆっくりと体重を移した。ぶぅうう、と雑巾の詰め込まれた僕の口から、クーラーの様な音が漏れた。声のならない悲鳴を上げる度、雑巾に染み込んだ異臭が僕の口から鼻へ抜けていく。誰かが僕の背中に椅子を振り下ろし、僕は背中をしならせ、絶叫した。

「許さん、お前だけは、許せん」

 山中がそうぶつぶつと呟きながら、もう片方の足を、僕の残った手に再び踏み下ろした。

「何で、何でリュウを、何で殺したんだよ、おま、え、おまえ、親友だったんだろ」

 僕は震えながら顔を上げた。山中は顔を真っ赤にさせ、震えながら僕を見つめていた。山中の充血した目から、ぼたぼたと涙が落ちて僕にかかった。

「………もう俺やだよ、こんなのやだよ、何でこんな事、しなきゃいけないんだよ」

 山中の、掠れた、小さな声が、きっと誰にも聞こえていないのだろうその声が、僕の耳には届いた。山中の濡れた頬を、後ろに居た皆森が優しく包み込んだ。

「…どんなに苦しくても、金田君の事を思うのなら、更生させてあげなきゃ、貴方は金田君の友達なんだから……貴方が金田君を正すの、救ってあげるの…」

 皆森がそう言って山中を抱きしめた。山中は泣き声を上げ、皆森に縋り付いた。

 僕じゃない、そう言おうとした。けれど、あんまりにも背中が痛くて、クラスメイトの罵声と踏みつけられる手足と体が辛くて、僕は声を出せなかった。

 皆はきっと見えていないんだ。そうだ、僕しか見えない。皆の下で蹴られている僕しか、見えない。どうして皆、気づかないんだ。

山中を抱きしめ、俯いた皆森の表情が、幸せそうに笑っている事を。

 まるで女神の様に微笑んでいる事を。

 僕達は騙されていた。

 この女に、悪魔に、騙されていたんだ。







『今― 私のー ねがーい事がー 』


 僕の腹に突き刺さる足。


『叶う― なーらばー 』


 僕の体は吹っ飛ぶ。


『つばーさーが― 欲しーいー』


 僕は地面に崩れ落ちる。


『こどーものときー』


 丸めた背中に画鋲が刺される。


『ゆめーみたことー』


 両腕が掴まれ、立たされる。


『いまーもーおーなじー』


 腹に再び衝撃。


『夢―にーみーていーーる』


 僕の口からげぼが噴き出す。


『このおおぞらーに』


 絶叫、嬌声、笑い声。


『翼をひろーげー』


 踏み下ろされる足。


『飛んでーゆきたーいーよー』


 痛い


『悲しみのなーい』


 痛いよ


『自由な空―へー』


 何で僕が


『翼―はためーかーせー』


 なんで


『ゆきたいー』


 





劇の練習で、音楽室の鍵を貸してほしいと訴えれば、橋本先生は快くそれを受け入れた。

ある日、音楽室の外から橋本先生が覗いているのを見て、皆森は僕に橋本先生を誘惑するように命令した。そしてその通りになった。彼女は、僕の体を弄ぶ代わりに、僕達の更生に目を瞑る事を、皆森との間で約束したのだった。

演技の練習日ごとに、僕の更生は行われた。

もう曜日も糞も関係なくなっていた。

好きな時に、好きなだけ、僕は殴られ、痛めつけれらた。

初めは義務制だった更生も、僕の頃になると、やりたい者だけが参加するようになっていた。演技の練習中は、僕の悲鳴が聞こえない様に、常に大音量の音楽が流れていた。時間が余れば橋本の相手をした。

脳が麻痺していた。何も考えられなかった。

いや、考えたく、なかった。


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