曇天の七夕

次の日のLHR。進路に関わる話だった。


大学…かぁ。

正直僕はこの田舎から出たくないし、ひとまずは働いて母さんを支えたい。

田舎といっても電車は通っているし、隣町に出れば仕事もあるだろう。

僕は就職かな。。。


放課後。


「今日は久しぶりに図書室で神話の本を借りようかな!」


あー、でも嵐夢が音楽室まで行ってたらちょっと申し訳ないな…先に音楽室に寄ってみるか


"ガラガラ"


「…誰もいないな」


"ガラガラ"


図書室へ行って本を借り、部室へ向かう


"ガラガラ"


「夏彦くーん、はい、ポテチ!」

「ん、うぐ」

「おつかれさーん、夏彦。今日も元気そーだなぁ。」

「いやあの、シキ。この次から次へと、むぐっ。口に運ばれる菓子をうがっ。とめ、」

「次は私のグミ〜」


ありゃあ大変だなぁ(特に大変そうとか思ってない)


「あれ、そういや嵐夢は?」

「嵐夢くん、今日家庭訪問なんだって〜会いたかったなぁ〜」

「嵐夢くんの分まで食べてね、夏彦くん」

「ひえええぇえぇ」


参ってる夏彦、レアだな


さ、僕は本を読もう


「だーーーっっっ!!!俺はもう腹いっぱいだからおめぇらで食っとけ代金はそこに置いとくから!!」


あらあら…ってこっちへ来るな、こっちへ

夏彦はソファから脱出し、僕の座ってる丸椅子の横にドカッと座り込む


「夏彦せめて椅子に座らないか?」

「いーからさっさと星の話しろや」

「じゃあ…今日はこれにしよう」


少し話をしていると、女子達はお菓子を袋にまとめて出ていった


「…ソファに移るか?」

「おー。」


神話の話を1つ終えたところで、ふと思った


「そういやお前、受験勉強しなくていいのか?大学…行くんだろ」

「え、なんでそれを知ってんだよ?」

「………東京行くって、ほんとか」

「………おう。」

「東京なんてそんな良いもんじゃないぜ?」


優しかった父さんを変えた東京

母さんを追い詰めた東京

僕を独りにした東京

嵐夢の言った様な軽い気持ちなら、諦めて欲しかった。今ならまだ間に合うと思った。


「俺が行きたいから行く。悪ぃかよ?」

「…付き合ってた女追いかけてか」

「は、なんで…それを…」

「図星か。お前なんか東京で生きてけるわけねぇじゃん。そんな色恋のために東京行くんか?馬鹿みてぇ。」

「はぁ!?何も知らねぇくせに口出しすんなよ!!!」

「あぁそうさ何も知らねぇよ!!お前なんかどうせ東京にのまれて砕けるんだ!!」


あんなに優しかった父さんも追い詰められて変わってしまったんだ。優しいこいつは絶対にすぐに壊れてしまう。

少しキツいことを言ってでも、止めたかった


「俺だって好きなもんのために生きてぇんだよ!!なぁシキ。だめなんか!?」

「あーもう、知るかよ!!女でもなんでも追いかけてこいよ!」


吐き捨てて僕は部室を飛び出した

好きなもんのために生きたい、か

恋愛ごときでこの田舎を捨てて東京に行く気持ちがやっぱりどうしても理解できない

東京へ行ったらあいつには…今の夏彦には…もう一生会えなくなるような気さえしていた

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