おねがい事

次の日。体調も回復した僕はいつも通り、学校へ向かった。いつも通り授業を受けて、いつも通り音楽室へ向かう。


"ガラガラ"


「あっ、識人先輩っ!よかったー、元気になったんですね」

「嵐夢!昨日は悪かったな」

「いえいえ!もう身体は大丈夫なんですか」

「1日寝たらすっかり良くなったよ」


こいつの高い声もなんだか久しぶりに聞いたような気がする


「今日は何を弾いてくれるんですかー?」

「じゃあ今日は、もうすぐ七夕だし七夕ソングでも弾こうかな。」

「ワクワク、ワクワク!」


王道感のあるJPOPだ。

耳に残るサビのフレーズが前奏や間奏、後奏にも使われている。

後奏の最後は少し寂しく高い単音で響く。


「…僕、初めて聴きました!しかもこれ歌詞あるんですね」

「あぁ、僕も久しぶりに弾こうと思ったから家から譜面を持ってきたんだよね」

「どういう曲なんですか?」

「うーん…仲のいい2人が居て、でもちょっとした事で喧嘩しちゃって。それが曇り空の七夕の日の織姫と彦星みたいだっていう歌かなぁ…簡単に言うとだけどね。」

「へぇー、僕歌えるようになりたいな」

「明日にでもCD持ってきてやるよ」

「わぁーいっ!やったぁ!…識人先輩は、誰かと喧嘩したことありますか?」

「そりゃあるよー!もう18年も生きてるんだぜ?そーいや夏彦とも喧嘩したなぁ」

「夏彦…まぁあいつは自分から種を撒くタイプでしょうね」

「どうだったかなぁ…あいつ言葉選びっつーか、順序っつーか、ド下手くそだからなぁ」


理由も話さず勝手に行動して僕がブチ切れて後々判明する…みたいな。よくあったなぁ。

とにかくあいつは大事な事を言わない。


「そういや夏彦、東京の大学受験するらしいですね」

「…は?」


…夏彦が東京?いやまさか


「あれ、識人先輩聞いてなかったんですか?昨日、夏彦が言ってたんですよー。」

「は、なんで、東京?わざわざ?」

「なんか、識人先輩が転入してくる前に付き合ってた女の子が東京の大学行ってるかららしいですよ?あいつも恋愛するんですね」

「そんな…女のために…?」


そんなのまるで…母さんと同じじゃないか…


「あっ、そろそろ行かないとですよっ」

「あ、あぁ…そうだな」


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