催涙雨の七夕

小川おがわ 夏彦なつひこ。高校1年生。―


中学と何も変わらない学校生活。それなりにやり過ごして、それなりに卒業して。


「くだらねぇな」


ちょくちょく授業をサボっては、静かな校内を歩き回ってみたりして。

そして俺は良い昼寝場所を見つけた。


「おー、屋上のこんなとこにハシゴが…てっぺんならそうそう見つかんねーな。」


そうして屋上のてっぺん。貯水槽のふもとが俺の昼寝場所になった。


何回かサボってそこで昼寝をしていたが、最終授業をサボっていた時ぐっすり眠りこけてしまったようで。

何かの物音で目覚めた時にはもうすっかり日は落ちてしまっていた。


「ンだようるせぇなぁ」

「…誰かいるの?」

「うわっ、まぶしっ」


「あら…えっと君は…なんでそんな所に?」

「あぁー…昼寝してたらいつの間にか…あんたは?」

「私は星の観測。天文部なのよ。」

「ふーん。天文部はこんな夜遅くまで学校に居ていーんか?」

「先生方から特別な許可を貰っているからね〜。」

「で、他の奴らは?」

「恥ずかしながら…私1人なのよね」

「ふーーーん。。。」

「な、何よ?」

「じゃ、俺天文部入るわ」

「…え、はぁ???」

「よろしく」


少しでも家に帰らなくていい。そんだけの理由で入った天文部。


「って、あなた1年生なの?」

「うっす。まさかあんたが3年だとは思わなかった…です。」

「なんか逆に堅苦しいから敬語いいよ」

「っす。」


毎日のように星の話を聞いた。半分も覚えらんなかったけど星の話をしてるあいつの顔を見るのが好きだった。

自分には好きなものがない。

だから、話を聞いてると何故か落ち着いた。


「夏彦くんっ。今日はなんと7月7日です」

「おー」

「なんの日でしょう?」

「あー。。。なんだっけ?」

「今日は織姫と彦星が1年に1回会えるというロマンチックな日、七夕です!」

「そーなんか」

「もー、雰囲気無いなぁ」

「っつったってよぉ。。。」


窓の外を見る

外はしとしと降り注ぐ雨


「…七夕の日の雨はね、催涙雨っていって会うことが叶わなかった2人の涙とも言われてるのよ」

「そっ…かぁ…会えんかったんか」

「私はきっと雲の上で会えてるって信じてるけどね」

「………」


「なぁ、白鳥…俺と付き合ってくれないか?」

「えっ…」

「いや、ごめん急に!!めーわく、だよな」

「こちらこそ」

「…え?」

「改めてよろしくね、夏彦くん」


毎日過ごした時間がとても大事になっていた

好きなものがやっとできたような気がした


今まで通りの毎日の観測や星座についての勉強と、それに加えてたまの土日に2人で遊びに行くようになった。

今まで以上に色々な表情が見れて、日々がとても眩しかった。

そんなある日の事だった。


「夏彦くん。私ね、東京に行こうと思う。」

「えっ。。。」

「もっと星の勉強がしたいんだ。そのために、学部のある大学を受験したい。だから…天文部にはあまり顔を出せなくなると思う」

「そっ…か。…じゃあめっちゃ勉強しなきゃだな!天文部は任せとけ!いつかあんたがOGとして来る日を待ってるぜ。」


そうして、独りきりの天文部が始まった。

別に、元と変わんねぇ。

息抜きに誘おうかとか、なんか差し入れしようかとか考えた。でも連絡を取ることさえ迷惑になってしまわないかと、億劫になった。

なんだ、俺はいつからこんな弱っちくなったんだろう。


"夏彦くん、電話しない?"

"おー、いいぜ"


時折相手から連絡が来て。

でも電話越しの声はすごく疲れてそうで、どう考えても気を遣って連絡してくれてるんだろうなとしか思えなかった。

何回か気を遣わなくていいから勉強に集中してくれと頼んだが、優しいあいつはよく連絡をくれた。


10数回目の電話で、俺は別れを告げた。




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