晴天の七夕
僕が入部して、無理矢理にでも天体観測に連れて行ったり神話の話をしたりしてる内、夏彦は少しずつボヤくこともなくなっていった
「なぁ夏彦。お前、星は好きか?」
「あァ?今さらなんだよ急に。…まぁ、空見あげんのは悪くねぇな。この季節だともう暖かいし。」
「じゃあ今日は夏の大三角の話をしようか。」
そうして今日も屋上へと足を運ぶ
「今日は望遠鏡は無しで空を見よう。今日は何の日か知ってるか?」
「あー。………うーん?」
「マジかよ。今日は7月7日。七夕の日だ。」
「あーそういやそうだったような」
寝転ぶとまだ少しひんやりしたコンクリートに背を預け、夜空を眺めた
「お前でも天の川くらいは知ってるよな」
「おー。あのちっちぇえ星がぶわぁあーってなって川みてーになってるやつだろ。馬鹿にしてんのか。」
「お前はオラつかんと死ぬんか?」
「うっせーよ」
「その天の川をまたいで、明るめの星が川岸にいるんだ。それが織姫と彦星な。それが1年に1回、7月7日に会えるっていうお話なんだけど。」
「知ってるぜー。でもあれ、曇りだったらどーなるんだろうな。会えねーのかなぁ…」
「雲の上はいつだって晴れてるから会えてるんだよって昔ばーちゃんに聞いたけど…僕は正直顔は見えてないんじゃないかなって思ってる。」
「おー。。。」
「東京の空はいつも見えなかったな。。。」
「…そういやシキは東京から来たんだっけか」
「今さらかよ笑」
4月に出会ってからもう3ヶ月くらい経っている。逆にその間何も聞かれなかった方が不思議だと思った。
「そうだよ。僕の両親が離婚してそれで母さんの実家がある田舎に越してきたんだ。」
「ふーん。とーちゃんとかーちゃん仲悪かったんか」
普段は聞かれると少し困るが、こいつのなんも考えてないアホっぷり(いい意味で)に、つい口が滑った
「うーーーん。母さんは父さんに惚れて田舎を捨てて上京して、そこで僕が生まれたんだけどね。昔はすごく良い父さんだった。僕も大好きだったんだ。でも会社が倒産して、それでも父さんは新しい会社をみつけて僕達のために頑張ってたんだけど…」
「………」
「…詳しくは聞けてないけど父さんは確実にそこで潰れた。幼ながらに、どうしてこうなったんだろうって思ったよ。酒を飲み、休みの日にはパチンコ。別に趣味の範疇ならいいんだ。でも父さんは酔うと化け物になるんだ。。。酔った父さんは大嫌いだった。」
「………」
「って、ごめんな急にこんな重い話して。結果的に僕はこの星空が見れるここにやって来れて良かったと思ってるよ。」
「…俺んちさ。とーちゃんとかーちゃんいねぇの。」
「えっ……」
「いや、いねぇっつーか、いないも同然っつーか。顔合わせることが全然ねぇんだ。帰ったら金が置かれてるだけって感じでな。」
「そんな…」
「まー、帰ってもそんなだからさ、いっつもここで星見て時間潰してたわけ。なんつーかさ、なんも思わんと空見てたけど…お前が来てくれて良かったぜ。」
「夏彦…」
「まぁなんだ。嫌いじゃねーぜ、お星さまもな!」
彼なりに励ましてくれようとしたんだろう。いちいち口下手なのも彼の良さだ。
「あと、かーちゃん大事にすんだぞ!」
「おう、それはもちろんな!」
「じゃ、次白鳥の話な」
「その前に夏の大三角…いやそっちからでもいいか」
ずっと2人っきりだった天文部
この先も2人きりなのかななんていつの間にか思っていた
嵐夢くんが来るまでは
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