第1章 第21話

「ご主人様、ツバサ様の魔素が急激に減っています。もう少し速度をあげます。空気抵抗で苦しくなったら言ってください。」王都からクレーター盆地に向かう途中の上空で一機に話しかける芽衣子三号。スピードタイプの三号は自分一人なら毎時五千キロメートルで飛行できるが、そんなに高速で飛ぶと一機たちが息できなくなってしまうため芽衣子はもどかしい思いをしながらゆっくりと飛行していた。

「俺はまだまだ大丈夫だが、優姫や明が大丈夫かどうか。」

「それとご主人様、聞いてほしいことがあるんですけど……。」



 場面はクレーター盆地に戻る。魔貴子に右足で膝蹴りをするツバサ。両腕を前でクロスさせて防ぐ魔貴子。両腕を使えなくしたところで顔を殴るツバサ、しかし、そのパンチは躱される。

「ふん、その程度の攻撃しかできぬようならお主の負けじゃ。老化速度が十倍になってしまう代わりに新陳代謝を十倍も速めとるわしとそのままのお主ならどちらがより早く魔法を回復させられるかなぞ、火を見るより明らかじゃろ。」

「そうかしら。私は最後まであきらめないわ。」

 その後も攻撃をし続けるツバサとそれを防ぐ魔貴子。そしてその時はやってきた。

「ふん、これでもうお主の顔を見ずに済むわい。」そう言うと魔貴子は巨大な火球を展開し始めた。



 その時だった、一機たちが到着したのは。状況を理解した一機は、一目散にツバサのところに走っていく。

「良いとこで来てくれたわね。ココアから聞いていると思うから、いきなりで悪いけどちょっと力を貸してもらうわ。」ツバサはそう言うといきなり一機の手を握った。ココアとは芽衣子三号に埋め込まれた魂の持ち主であった使い魔の名前である。

 手をつながれた一機は心臓の鼓動が早くなっているのや、自分のぬくもりが体の奥底からあふれ出てくる感覚を感じた。だが、それは一瞬のことで、ツバサと触れている掌からそのすべてが吸い取られて、強い疲労や寒さが残った。その結果、一機は意識を保つのがやっとの状態になっていた。

「そういうことなら、先に攻撃するまでじゃ。巨大火球! 」

「なんと間に合ったわ。 クラムボム! 」


 クラムボム。それはエフインベのイーハトーブにある小さな谷川のそばで魔法創作の持ち主が開発したとされる、顔のついた黒い球体の爆弾──クラムボン──を生成する魔法。跳ねながらかぷかぷと笑うクラムボンが発動者の魔素を際限なく吸い取り、持ち主が魔素切れを起こすと爆発するというもの。かぷかぷ笑う理由は不明とされる。爆発の威力はすさまじいが、相手は防御できる可能性があるが、発動者は魔素切れを起こしているので自分一人では発動できないのが最大の欠点である。


 爆発の砂ぼこりが晴れると、そこに魔貴子の姿はなかったが、一機たちは無事であった。

「流石ツバサ様、やりましたね。」

「いや、逃げられたわ。私たち魔族はしんでもその人特有の魔素がしばらくの間残るはずなの。でも今はそれがまったく感じないから、転移魔法で逃げられたとみて間違いないわ。」

「それは残念です。それにしてもツバサ様、凄いことをしますね。ご主人様の魔素を使って魔素吸収を発動してから、ご主人様から魔素を途中まで吸い取ってクラムボムを発動・爆発させた後、もう一回魔素を吸い取って防御するって並大抵の魔法制御じゃできないですよ。それも、お二人とも魔素切れを起こさないギリギリまで魔素を消費するなんて。」

「そんなことないよ、ココアちゃん。」

「もう一度その名前で呼んでもらえる日が来るなんて。」


「そ、そんな、ことより、あんな奴を、追わなくて、いいのか?」

「一機ちゃん、ずいぶんと息が上がっているわね。」

「大体、なんで、ツバサさんは、平気なんだ? 俺の魔素だけ、使うのは、ひどく、ないか? 」

「それは修行が足りないのよ。それと、追わなくていいのかってことだけど、私だって追いたいけど居場所が分からない以上はどうしようもないわね。探すところから始めないと。」

「ねえ、明くん、革命を起こすために全国に知り合いを作ってたわよね? 協力してもらえないかしら? 」

「な、何でそれを? 」

「私は魔女よ。協力してくれるわよね。もちろん私たちも協力させてもらうわ。」

「そういうことなら協力したいのは山々なんだが、俺は脱獄囚だから、関所を通れないんだ。だからまた芽衣子さんに運んでもらえないなら無理だな。」

「それはできないわ、充電が持たないもの。でもその代わりに地下トンネルを使えばいいでしょ? 」

「そんなもの持ってないぞ。今から作るにしても、時間がかかるし。」

「何言ってるのここにあるでしょ? 」

「どういうことだ?」

「え、この下のトンネルのことを知らないの? これよ。」そう言うとツバサは転移魔法で一機たちをトンネルの中に入れた。ここは先ほどまで外套ズとツヨシ・風太郎が戦っていた場所であり、ツヨシたちはツバサの回復魔法で怪我がある程度治っている。

「こんな奇麗なトンネルがあったこと自体が驚きなんだが。」

「仕方がないわね。そこから説明しないといけないのね。」

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