第1章 第19話
「さて、これで洗濯物はたたみ終わたかしら。」トンネルの外にある大量の洗濯竿にたたみ忘れた洗濯物がないか確認していた依里は遠くの空から何かが近づいてきているのを見た。
「何かしら?」周りにいるツヨシの仲間たちも謎の飛行隊について気付いている。
「とにかく、ツヨシに知らせてくるわ。」みんなにそう声を掛けると、依里はトンネル内に走っていった。
「おい、あれって人じゃねーか? 」
「そんな馬鹿な。人が飛べるわけねーだろ。」
「だがあの形は、人が二人いるように見えないか?」
「あいつら、いつになったら帰ってくるのかなぁ。」トンネル内の活動範囲の奥の方でツヨシに話しかける風太郎。
「分かんねーな。けど、せっかく住みやすくするための物を貰ったんだから俺たちで工夫していかないとな。」
「だな。っておい! この感覚は……。」まるで動かしたい方向とは逆の方向に引っ張られているような感覚が二人を襲う。
「嘘だろ。何でまた? 依里は大丈夫か? 」依里のことが心配になったツヨシは依里を探すためにいつもより重い足で依里を探すためにトンネルの入口へと走っていった。そんなツヨシに風太郎もついて行った。
トンネル内を走っていたツヨシはうつぶせになって倒れている人影が見えた。近づいていくとその人影の正体は依里だった。
「ううっ、こ、な、い、でっ……。」
キーーン!
大きな金属音がしたのでツヨシが|振り向く≪・・・・≫と、半年前に見かけた外套の二人組がおり、そのうちの片方の攻撃を風太郎がナイフで防いでいた。棒立ちしていたもう片方が攻撃を仕掛けていた。以前は体が思うように動かず対応できなかったツヨシであったが、今回は体が思うように動かなくなることを知っているので、全力でかわすことにした。
「やっぱり体が思うように動かねーな。」
「ツヨシ、お前もなのか? 」
「ああ。風太郎、一人なら相手にできるか? 」
「当たり前だ。」
「じゃあ、そいつは任せた。」
「分かった。」短い会話をした二人はそのまま戦いを続行する。
一時間に及ぶ激闘の末、ツヨシと闘っていた外套に一瞬の隙が生まれた。ツヨシはその隙を狙い外套の人物の鳩尾の部分を思い切り殴った。外套には当たっている。しかし、手ごたえは全く感じられなかった。外套の人物はナイフを持ち替え、ツヨシの心臓部分に背中からハグをするように突き刺した。
「うぐっ。」ツヨシの意識は遠のく。
「ツヨシっ! 」その動揺した隙を突かれてナイフで刺される風太郎であった。その時見知らぬ女の声が聞こえた気がした。
「ぎりぎりで間に合ったわね。」転移魔法でクレーター盆地にやってきた後、独り言をつぶやいたツバサに向かう外套二人組。ツバサは一拍だけ手を叩いた。ひらひらと崩れ落ちる外套や手袋その中には……
誰もいなかった。
「手の込んだ形代魔法ね。外套を操って戦わせるなんて。そんなことよりも急いで治療をしないと。やだー、ダメージ増加と鈍化を掛けられてるわ。これをされると、怪我したら出血は増えるし、動きが鈍くなるから怪我しやすくなるのよね。」そう言うとツバサは広範囲治癒魔法と広範囲魔法防御魔法を展開した。
「なんじゃ! 外套がやられたじゃと。」外套との通信(?)が途絶えた魔貴子が思わずつぶやいた。
「アイツらを倒すとは、これはわしが行く以外に仕方があるまいな。」そう言うと鬼龍院は王都からクレーター盆地まで転移魔法で移動した。
「さて、何とか助かったわね。って、この気配は! 」ツバサが振り向くとそこには魔貴子の姿が。
「誰かと思ったらお主だったとは。百年間どこに隠れ取ったんじゃ? 」
「そんなことどうでもいいでしょ? そんなこと良し、勝手に誘拐しといて殺すってどういうつもりなの?」
「ふん。わしは王国のための暗殺者が欲しかったのじゃ。わしらで不毛の土地にしてやったここで蟲毒を作る要領で殺し合わせようと思っとったのに、まとめ上げて、食料供給まで解決しやがるとは、こうなったら役立たずじゃから殺すまでよのう。それによく働いてくれる小娘を捕獲できたのじゃ。」
「そんな勝手な理屈! 」
「わしに盾突こうというなら、王国のためにもここで潰さないといかんのう。」
「それは、私のセリフよ。」
「ふん。」そう言うと魔貴子は火炎魔法の準備をし始めた。
「ちょっと、そんなのをこんな狭いトンネル内で展開させたら、みんな死んじゃうでしょ? 」
「最初から殺すつもりぞ、問題なかろう。」そう言い放った魔貴子は大火力の火玉をツバサに向かって放った。しかしその直前でツバサは転移魔法を展開し、魔貴子とツバサをトンネルの上の地上に移動させた。その結果、ツバサが攻撃を躱しても、ツヨシたちに被害はなかった。
「小癪な。まあ、どのみち皆殺しにするまでよ。お主さえ倒せば後は簡単なものよ。」
こうして二人の魔女の戦いの火蓋が切られた。
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