第1章 第18話

「こんなところに入って大丈夫なんですか? 」王都についた一機一行はツバサの透明化魔法を用いて刑務所に侵入していた。


固有魔法:透明化魔法

半径十メートル以内にいる人物を指定し、その人物と、その人物の衣服・持ち物を他人から見えないようにできる。ただし、音や臭いなどは消えないので注意が必要。


「ひぃっ。」刑務所の中にいた一人の囚人が悲鳴を上げた。彼の名前は|革原≪かわはら≫|明≪あきら≫。国王の圧圧政が続く限り生きていけないと思い、革命を起こそうと密に活動を行っていたところ、オメガの会館から転移魔法を使って王都に移動した鬼龍院魔貴子と鉢合わせをしてしまい、仲間たちとともに催眠魔法で眠らされ逮捕されて王都の刑務所にいたのだった。そんな彼の目の前で看守が不自然に意識を失っていた。それは以前に彼の仲間がかけられていた催眠魔法によるものと同じ様子だった。──尤も、彼はそれが魔法であることを知らなかったのだが。──得体のしれない恐怖の対象である鬼龍院魔貴子がまたやってきたのか。


固有魔法:催眠魔法

半径五百メートル以内の人物を眠らせることができる。


「ここよ。」独房の一つを指さしながらツバサは一機に話しかけた。

「お前がやったのか? 鬼龍院魔貴子は居ないのか? 」独房の中の男が話しかけてきた。

「ええ、そうよ。一応確認させてもらうけど、貴方、革原明で合ってるかしら? 」

「そ、そうだが。」鬼龍院魔貴子ではないと確認できた革原であったが、鬼龍院魔貴子と同じ力を有するような人物を相手にしているのは変わりないので警戒する。

「ねえ、この国を変えたいんでしょ? 」

「そんなこと無理だよ。鬼龍院魔貴子みたいな化け物に勝てるわけがない。」

「鬼龍院は私が倒すから、他を相手にしてくれたら私としても助かるわ。」

「そういうことなら、でも……。」

「あっ、緊急事態が発生したみたいなの。だから、さっさと決めて。革命するか、ここで死ぬか。」

「ちょっといきなりすぎて……。」

「時間がないの。五秒以内に決めて。五、四、三」

「分かった。革命運動を再開する。だからここから出してくれ。」

「それでいいのよ。」

「ツバサさん、ちょっと強引すぎないか? 」

「一機ちゃん、世の中には仕方がないってこともあるのよ。とにかく、ここを出ましょう。」そう言うと、ツバサは転移魔法を使い三人を連れて刑務所から脱出した。


「あれだけの距離を四人で転移するのはちょっとキツいから、私だけ先に行かせてもらうことにするわ。」

「分かった。じゃあ、俺は芽衣子さん二号を取り戻しに行ってくる。」

「やめときなさい。二号の発信機が王都の王国軍基地を指しているっていってたけど、それは罠よ。だって王都の中にイリスちゃんの魂、二号に埋め込んだ魂は感じられないもの。きっと発信機を取り出して一機ちゃんをおびき出すために置いているんだわ。」

「そ、そうだったのか。じゃあ、どうやって取り返そう。」

「それよりも、先に一仕事片づけてくるわ。その間、私の異次元カバンの中に入ってる芽衣子の予備のバッテリーをあげるから、修理して私の後を追いなさい。明、貴方もね。それと、そのペンダントは占い阻害の宝石がついているから絶対に離さないこと。離したら鬼龍院に襲われえるわよ。」そう言うとツバサは転移魔法で移動した。



「なんなんだ、あの女は? 」

「俺の高祖母らしい。」

「高祖母? そんなわけないだろ。あんなに若いのに。」一機は明にオメガで起こったことを話した。

「嘘だろ? 魔法なんてものがあったのか? 」

「俺も信じられなかったが、現にこうして転移魔法を使ったり、催眠魔法で看守たちが眠ったりしていただろ?」

「確かに。」

「ただ、一つだけ嘘だろ、って思っていることがある。」

「これだけ無茶苦茶なのに一つだけなのか。」

「そう言う意味の嘘だろ、じゃないんだが、ツバサさんは後を追えって言ったけど、どこに行ったらいいんだ?」

「あっ、どうするんだ? 」

「どうしようか? 」

「とりあえず、芽衣子さん三号を修理するのはどうでしょうか? 戦える人数が多い方が安全だと思いますし。」

「そうだな。今は優姫の言うとおりにしよう。」

「ん、優姫? おい、まさかそいつは極悪非道な第十四王妃じゃないのか? 」

「第十四王妃なのは間違いないが、極悪非道ではないぞ。国民のことを考えて逃亡したわけなんだし。」

「そうなのか? 」

「ああ、そうだ。それより早く修理をするから、しばらく待ってろ。」そう言うと一機は芽衣子三号を異次元カバンから取り出し、修理を始めた。


「ふぅ、無事に終わった。」修理が終わった一機は電源を入れる。

「いや~ん! ご主人様のエッチ! 」バッテリーを修理をするためには解体しなければならず、そのためにはもちろん衣服は邪魔になる。更に言うと、芽衣子のバッテリーは人間の体で言うところの肺の位置にあるため、問題である。明には見せないようにしていたが機械の知識がない優姫が修理するわけにもいかず、一機が修理をするほかなかったのである。

「ご、ごめん。」

「もう、修理は仕方がないにしても、服を着せてからスイッチを入れてください。恥ずかしいじゃないですか。」ふくれっ面で服を着ながら話す芽衣子に見とれる明であった。

「ところでご主人様、そちらの方はどなたですか? 」一機は、芽衣子三号のバッテリーが切れてから起こったことを話した。

「そんなことがあったんですね。一号さんのことは残念ですけど、とりあえずご主人様たちをツバサ様のところに連れて行ったらいいのですね。」

「そのことなんだが、ツバサさんがどこに行ったのか分からないんだ。」

「大丈夫ですよ。私は使い魔だった時に魂の契約を結んでいるから、ツバサ様の居場所はわかりますよ。ツバサ様は私たちの居場所をわからないですし、他の使い魔の居場所もわからないですけど。」ツバサの居場所が分かった一行は芽衣子の飛行機能を用いてツバサを追うことにしたのであった。

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