第1章 第14話

「こちらのデザートは造田芽衣子特製のプリンです。」

今日もオメガの大通りで料理を渡す芽衣子。しかし今日はいつもの場所ではなく、修復作業が完成した時計台の近くで仮説のテントの中から皆にお金をもらわずに配っている。今日は時計台の修復記念パレード当日なのだ。

「やっぱり姉さんの料理はすごいなぁ。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。優姫さんと一緒にレシピを考えた甲斐があります。」

「一機、ちょっと来てもらえるか? 」

「おっと、木野さんに呼ばれたみたいだ。また後で。」そう言って一機は去っていった。この後にオメガの貴族たちに時計台内部で工事の報告をすることになっており、これから着替えたり報告内容の整理をしたりするのだ。


「あの、すみません。」少し落ち着いてきたと思い一機と話していた芽衣子であったが、すぐに二人やってきた。前で並んでいるのは紳士的な初老の男。その後ろに並んでいるのは外套を着てカバンをぶら下げた芽衣子と同じくらいの身長の人。顔を隠しているようで少々怪しい。

「はい、造田芽衣子特製のプリンです。お待たせ察せてしまい申し訳ありませんでした。」

「そんなに待っていないですよ。ありがとうございます。」

「お次でお待ちの方もどうぞ。」

芽衣子にそう言われた二人目は黙って持っていたカバンを開いた。

「本日は貴族たちが料理の費用を出しているので、料金は必要ありません。」その瞬間カバンの中が眩しく光りだした。


 ドーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!


 大きな音とともにあたり一帯が煙まみれになった。煙が晴れると半径十メートルほどが木っ端みじんになっていて小さなクレーターもできていた。幸いなことに時計台はガラスが割れた程度であり、報告を受けるはずの貴族たちはまだ到着しておらず、けががなかったのでオメガ全体で考えると被害は少なかった。しかし、テントの周囲にいた人たち──芽衣子と紳士的な初老の男性と外套を被った人──の姿は跡形もない。もう少し離れたところにいた人たちもけがをしている。


「「「芽衣子さん、大丈夫か?(ですか? )(なの?)」」」音を聞いて慌てて駆け寄り、爆発現場が芽衣子のいるテントだということに気づき叫ぶ一機と木野と売沢。しかし返事は帰ってこなかった。芽衣子たちのメンテナンスを行い芽衣子たちの耐久力を知っている一機はこの規模の爆発に巻き込まれて芽衣子二号なら問題ないが戦闘非対応の芽衣子一号は助かるはずがないことを知っている。赤ちゃんの頃から芽衣子と一緒にいた一機は泣くことしかできなかった。



「よくやった。」路地裏でボロボロの外套を着た女に向かってそう言う佐貫。

「……。」女は何も答えない。

「そんじゃ、あとは俺の仕事だ。お前は早く王都に帰ってくれ。」それを聞いた女は黙って立ち去って行った。

「しっかし、鬼龍院様がくれた暗殺者はどうやってあの爆発から生還したんだ? これは想像以上にいい駒だな。」佐貫は女暗殺者を使い捨ての駒として使うつもりだったのだ。しかし彼女は無傷で帰ってきた。



「何があったんだ? 」監査委員がやってきた。クレーターや木っ端みじんになったテントなどを見て緊急事態が発生したことを察した。

「俺も捜査に参加しようか? 国王軍の隊長をしている佐貫という者だ。おや? 」そこに佐貫が歩いてやってきた。

「なぁ、お前、ある指名手配犯に特徴が似てるんだけど、ちょっとついてきてもらえないか? 」

「彼はこの街のシンボルの時計台を修復したオメガの英雄なのよ! 犯罪者なわけがないでしょ? 」売沢の言葉に周りにいた多くのオメガの人々が賛同する。

「お姫様を”保護”しなきゃならないんだ。」やたらと保護の部分を強調しながら放ったこの一言を聞いて、優姫が危機的状況にあることに気付いた一機は芽衣子を失った喪失感と闘いながらも家に向かって走り出した。



 一機が家に着くと入口には王国軍の十五人兵士たちがいてカギをこじ開けようとしていた。玄関は無理か。そう思った一機は裏口に回った。裏口には逃亡を防ぐために待機している二人の兵士。近くにあった二つの石を拾った一機は兵士の頭めがけて石を投げる。頭に石が命中して気絶する兵士。そのまま裏口のカギを開けて家に入る一機。一機の頭に銃口が向いている。

「それ以上近づかないで! 」優姫は念のために持たせた拳銃を握っていた。

「安心しろ、俺だ。いつアイツらの意識が戻ってもおかしくない、今すぐ逃げるぞ。」

「そうするしかないわね。」優姫がそう答えた瞬間一機は優姫をお姫様抱っこして走り始めた。

「オイ待て、逃がすか! 」先ほど気絶させた兵士の意識が戻ってしまった。一機は二階へ駆け上がり、裏口の真上の部屋に逃げ込む、がそこで行き止まりだ。

「ふん、手こずらせやがって。」刀を持った兵士二人がじわじわと距離を詰める。こうなったら仕方がない。一機は優姫の耳元でそっと囁く。

「目をつぶって、舌を噛まないように歯を食いしばって。」

「はい。」優姫の返事を聞いた一機は開いていた窓から飛び降りた。


 奇麗に着地をした一機はそのまま走って行った。

「大丈夫だったか? 」

「ちょっとドキッとしたけど、一樹君だから大丈夫だったよ。」

「良かった。ただゴメン、今はどうして心からイチャつけないんだ。」

「えっ、どうして? 」その時に進路の先から佐貫がやってきた。


「お前らの行動なんてお見通しなんだよ! 」

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