第1章 第13話

「おい、お前、なんで業務停止命令を下したのに営業してるんだ? 」芽衣子の屋台で怒鳴り声を出す昨日の警備隊員。

「知り合いから聞きましたよ。警備隊の貴方には業務停止命令を下す権限がないということを。」

「なんだと、俺様に盾突くっていうのか? 」

「まあまあ、一つ誤解していることがあります。」芽衣子の屋台の近くにいた制服姿の男が警備隊の男に話しかけてきた。

「警備隊さん、彼女は今営業しているのではなくて、我々監査委員が彼女の屋台の検査をしているところです。」

「んだと? そんなこと言ったってそれは今日ゴキブリが出なかったということであって、昨日ゴキブリがパンに入っていたことにはならないだろ。」

「確かにその通りです。そこでこれから定期的に抜き打ちで彼女の屋台を検査をすることになりました。」

「だ か ら、これから先いくらゴキブリが出なかったからといっても昨日ゴキブリがパンから出てきたのは変わらないだろ! 」

「そもそもあなたがそんなこと言える立場にありませんよ。彼女の証言でゴキブリがはいっているところを見た人はいないから、そもそもグレーということですよ。」

「なんだ? 警備隊としておまえら愚民どものために命を懸けて働いている俺様が嘘ついてるとでもいうのか? 」

「そもそも本来の手続きを踏んで我々に報告しなかった時点で貴方は疑われても仕方がありませんよ。貴方も調べることになっています。ついてきてください。」警備隊の男は連行されていった。



「お前ら、クビの意味を知ってるか? なんで今日もここにいるんだ? 」

「福永副ギルド長ですよね? 今日から期のギルド長に雇われた造田です。よろしくお願いします。」

「私も今日から雇われた脇屋です。よろしくお願いします。」

「ふざけるなよ。」そう言った福永の右肩に置かれる手。

「誰が俺に気軽に触ってんだ? 」

「私だが。」

「ギ、ギルド長! 」

「君の横柄な態度には辟易してたんだ。」

「そ、そんな、クビだけは。」

「今のところはクビにするつもりはないぞ。監査委員に報告はさせてもらうよ。そして監査委員の意見に従う。それだけだ。クビくらいで済むといいね。」そこへ監査委員がやってきた。

「福永氏の調査が終わりました。彼は様々な加地製作所とつながっており、様々なところで妨害活動を働いていたという証言が上がっています。しばらくは拘留してさらなる調査をさせてください。」そう言って監査委員は福永を連行していった。



 牢屋の中で会話をする男二人。

「くそ、アイツら吐きやがって。」

「まったくだ。」福永と警備隊が今回のことだけでなく、加地と壱馬に命じられて行ってきたことを洗いざらい全て証言したことにより、加地と壱馬は逮捕されたのであった。



「くっそ、アイツら。ヘマしやがって。」壱馬と加地が逮捕されたことで苛立つ佐貫一将。

「こうなったら、鬼龍院様からもらった秘密兵器を投入するしかないな。」



「なるほど、そういう仕組みだったのか。」一機の機械全般に関する知識と技術のレベルの高さを知った木野はギルドで扱うサービスの幅を広げるべく、倒産した加地製作所の労働者を雇い、一機に彼らの研修の講師をさせていた。

「造田さん、新しい使命依頼が入りました。」講義が終わった直後に受付係からの連絡が入った。受付係まで言った一機は人気受付嬢の脇屋から説明を受ける。

「造田さんには本日未明に故障した時計台の修復を指揮してもらいます。」オメガの四大建築の一つの時計台が昨晩から時を刻むのをやめてしまったのであった。「『百年いつも動いていたご自慢の時計さ』」「『今はもう動かないその時計』。」「オメガで起こった『嬉しいことも悲しいことも皆知ってる時計さ』。」オメガ市民に聞いたら皆がこのように答える時計。そんな重要建築物の修復を一機は依頼されたのだ。未明とわかっているのは『真夜中にベルが鳴った』のを聞いた人がいるからだ。『お別れの時が来たのを皆に教えたのさ』。


 修復工事のための視察にやってきた一機は驚いた。百年前に作られたのに非常に精密な構造をしており、複雑な部品のおかげで非常に正確な時を刻むことができるようになっていたからだ。今の技術水準よりも高度な技術が使われていたのだ。五、〇の視力を用いて一機が観察したところ奥の方にあるはずの二つの歯車が外れており、動力が回っていないのが原因であった。全体を見渡して歯車のギア比を即座に計算した一機は歯車を作ることにした。それと同時に時計台内部の設計図を造り解体作業の指示を行った。その後、修復作業は順調に行われていった。



 一週間後に時計台の修復が完了したとき、芽衣子の屋台にやってきた売沢も芽衣子に仕事の依頼をしてきた。

「芽衣子さん、今度時計台復活パレードが行われるんだけど、そこで振る舞う料理を監修してくれないかしら?」



 こうして、オメガの膿の除去できたことと、時計台の修復に貢献したことで、一機はオメガ市民に慕われる存在となり、オメガに平和と自由経済が訪れた。そう、あの大事件が起きるまでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る