第1章 第12話
「おかえりなさい。」一機が新しい家に着くと出迎えてくれる優姫。一機は優姫に話すことを決意した。
「ただいま。すまなかった。初日でやらかしてクビになった。」
「なんですって? そうはいっても、一樹くんですらクビにされるってことでしょ? 仕方がない事だと思うわよ。そんなことより、シチュー作ったから、食べて元気出してくださいね。」その時芽衣子も帰ってきた。
「ごめんなさい。」家に入るなり謝ってきた芽衣子。
話は数時間前にさかのぼる。芽衣子はいつも通り屋台の営業をしていた。
「いらっしゃいませ。」
「おい、さっさと出せ。」
「すみません、ご注文をお伺いします。」
「気の利かん奴だ。そんくらい考えろ。」すごく感じの悪い客がやって来た。
「こちらのパンなんて如何ですか? 」一番無難なパンを勧めておいた。
「まあ、良かろう。」
「一個で銅貨一枚です。」
「はぁ? 俺はオメガの治安を守る警備隊様だぞ。その俺に払わさせる気か? さっさとよこせ。」そう言ってパンを引ったくって行った。
「大変ですね。良かったらこちらを。」後ろに並んでいた男が銅貨一枚を渡して来た。
「そんな、もらえません!」そんなやりとりをしていると、警備隊が戻ってきた。
「おい、お前の屋台は永久に営業停止だ。」
「なんでですか? 」
「何言いやがんだ! お前のパンからゴキブリが出たぞ! 」
「そんなはず、混入しているはずありません。」芽衣子は異物混入を防ぐために手のひらから出すことができる音波を使って商品を提供する直前にエコー検査をしている。
「実際入ってたんだが。それとも警備隊としてお前ら愚民どものために命を懸けて働いている俺様が嘘ついてるとでもいうのか? 」
「いえ、そういうわけでは……。」
「じゃあ、営業停止な。」
「そんなことがあったんですね。シチューを作ったので、芽衣子さんも食べて元気出してくださいね。」
「芽衣子さんも、ってご主人様もですか?」
ある会館で話し合う二人の男と彼らを囲む部下たち。彼らはオメガを支配する大商人。食品市場の壱馬と機械工の加地。
「まったく、アイツら風情が調子に乗って。」壱馬が加地に話しかける。
「そうだな。そう言えば、木野への妨害はどうだった、福永? 」
「勝手なことをしやがる新人が入ってきたから、評価の高い社員もろとも処罰してやったわw。」
「加地さん、福永君もエグイことやるねぇ。んで、売沢のほうには何か妨害できたか? 」
「新しく契約した屋台の料理の中にゴキブリを仕込んで営業停止処分にしてやったから笑いを抑えるのに必死でしたよww。」
「その話は面白そうだな。」会館のドアを開けて入ってくる王国軍の新隊長の佐貫一将。
「軍人が商人の領土に土足で入って来ないでいただきたい。」いくら王国の方針で軍には逆らえないことになっているといっても、商人は気持ちを抑えられなかった。
「誰に対してそんな口の利き方をしておるのじゃ? 」一将の後ろから出てきた鬼龍院魔貴子。
「す、すみませんでした! 」
「先ほど貴方たちの話に出てきた木野タクミと売沢商子はある指名手配犯とつながっている疑いがかけられている。捜査に協力してくれないか。」
「「スベテハ、オウコクト、キリュウインサマノタメニ。」」
「商人どもが、まったく、手こずらせやがって。それじゃあ、行かなければならぬところがあるから行くとするかのう。お主はここに残って仕事をするのじゃ。」そう言うと鬼龍院は会館から姿を消した。
「「様子はどう?」」翌朝になり一機たちの家に様子を見にやってきた木野と売沢。
「「誠に申し訳ありませんでした! 」」土下座をする一機と芽衣子。
「「ど、どうしたんだ?」」一機と木野、芽衣子と売沢の二人で話し合うことにした。
<一機サイド>
「すみません、勝手なことをしてしまったのでクビになりました。」
「なんだと、何をしたんだ? 」
「受付にある時計を修理して、そのあとに注意をしてきた福永副ギルド長に反論してしまいました。」
「なんで時計を治してくれた社員をクビにしないといけないんだ? タダで時計が治って儲けものなんだが。とにかく、クビは撤回させてくれ。部下の無礼を許していただきたい。」
<芽衣子サイド>
「すみません、食品の品質管理は徹底していたつもりでしたけど、パンの中からゴキブリが出たみたいで、警備隊から業務停止命令を下されてしまいました。」
「その話、おかしな点が二つあるわね。一つ目は出たみたい、ってこと。みたいってことは貴女はゴキブリがパンの中に入っていたところを直接見たわけじゃないのよね? 」
「そうです。パンを盗られてしばらくして戻ってきて入っていることを伝えられました。」
「なら、でっちあげることもできるわよね。ってか、盗られたですって? そこもツッコミたいけどその前に、さっき言った違和感の二つ目を話すね。今はそもそも警備隊は商人に対して業務停止命令を出せない決まりになってるの。もともとは業務停止命令を出せていたんだけど、今回みたいに警備隊が難癖をつけて商売をさせなくするって事例が”多発”してたの。そのことに気づいたオメガを治める貴族たちが今年に入って新しい条例を作って商人たちを守ることにしたの。業務停止命令とかは、貴族直属の監査委員が出すことになっていて、警備隊は商人の不正を見つけたら監査委員に報告する決まりになっているの。だから、貴女は業務停止されていないの。」
優姫がオメガを去ってから変わったことだったので、優姫は違和感を抱かなかっただけで、ポンコツなわけではないということは知っていただきたい。
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