第1章 第10話

「なんでこんなところに? 確かに売ったよな? 」

空き家の机の上に置いてある見慣れたペンダントを指さしながら叫ぶ一機。

「確かに売りました。間違いありません。それに、徹夜で作業してましたけど、こんなものなかったですよ。」そう答える芽衣子。

「確かに気になるが、今は少しでも早く異次元カバンを復活させたい。屋台の準備をしよう。」色々考えた一機たちであったが、原因がわからないのでペンダントについて考えることを保留した。



「先輩、あの店員さん、見ない顔だけどすごく可愛いくないですか? 」午前中の作業が終わり近くの屋台でスープを買って帰ろうとする三人組の男。商業を活性化させるために国王の命令を無視して税率を下げているオメガに工場などの生産拠点を設置している商人も少なくなく、彼らの下で働く人材も多くオメガで暮らしている。そんな労働者である三人組の目に入ってきたのは大都市オメガでもめったに見ないほど顔立ちの整った若い女性が一人で営んでいる屋台であった。スープは美味しいがそれだけでは腹を満たすことはできない。追加で買おうかと、その屋台に向かうのであった。

「いらっしゃいませ。」

「何かおススメのものはありますか?」

「そうですね、あっお客様、スープを持っているのならこちらのフライ麺はいかがでしょう? 」

「なんだそれは?」

「麺を油で揚げたものですが、スープに浸けるだけであっという間に食べやすい麺になる不思議な塊です。今なら、一個たったの銅貨一枚です。」銅貨、それはこの世界の貨幣で、一枚当たりおよそ百円の価値がある。この銅貨が十枚で銀貨、更に銀貨が十枚で金貨となっている。さらに大商人の間の取引では金貨百枚分の大金貨というものが使われることもある。

「先輩、面白そうじゃないですか? 買いましょう。」

「おっ、そうだな。」三人組はフライめんを購入することにした。

「銅貨三枚ですね。ありがとうございます。」

 一番の先輩で坊主頭の男が銅貨三枚を支払い去っていった。坊主男が一番の後輩の木村に話しかけた。

「あっそうだ、オイ木村! 」

「えっ、何? 」

「お前さっき俺が支払ってる時、(店員さんを)チラチラ見てただろ(因縁)。」

「いや、見てないですよ。」

「嘘付け絶対見てたゾ! 」

「何で見る必要なんかあるんですか(正論)。」

「あっお前さ木村さ、さっきシッ…支払い終わった時にさ、なかなか呼んでも出て、来なかったよな? 」

「そうだよ(便乗)。」

「いっ、いやそんなこと・・・・。」

「見たけりゃ見せてやるよ。明日からも行くゾ。」こうして芽衣子は三人の常連客を獲得したのであった。他にも芽衣子さんを見かけて近づいていき、美味しい料理を買うことで常連客になることを決めた人がたくさんいた。また料理が美味しいこともあり、常連客が紹介することで女性客も増えていくこととなった。ここまで人気が出たのは芽衣子の容姿や料理の腕だけではない。初日の買い出しのときに人気店が密集しているところの料理を調べ、周りの店で提供される料理とセットで食べられる料理を売り出していたこともある。スープ屋に対してフライ麺、焼肉屋に対してサンドウィッチ用のパンや追加のサラダ、そのようなアイディアを出して周りの人気店を利用して客を増やしていったのだ。


「ここが噂のお店ね。」芽衣子より五歳くらい年上に見える美人系の女性が話しかけてきた。あくまでそう見えるだけであり、造られて百年近く経つメイドロイドの芽衣子よりずっと若い。

「いらっしゃいませ。いかがなさいますか? 」

「あら、可愛らしいお嬢さんね。貴方が一番自信のある料理を出してくださるかしら? 」

「こちらのハンバーグなんていかがでしょうか? 一個で銅貨二枚ですよ。」売れ行きが向上したことと、常連客からの要望により、芽衣子はオリジナルの単品メニューも出すようにしたのであった。

「それにするわ。はい、銅貨二枚。」

「ありがとうございました。あら、美味しいのね。でも、せっかく味付けが凄く上手なのに素材があまりよくないわね。」

「私としてももっと美味しい素材で作りたいです。でもこれ以上の素材は今の私には買えないんです。」

「買えないの? この素材でこの値段だったら結構な利益率なんじゃないの? 」

「一割くらいです。」

「え? 」不思議そうに立ち去っていく女であった。彼女と同じくらいの年齢の男がその様子を遠目で眺める。

「素晴らしい。何とかして雇いたい。 」彼はそう呟くのであった。



「貴方も狙っているの? 申し訳ないけど、絶対に譲らないわ。」男の視線に気づいた女が男に話しかける。

「何言ってんだ? そんなの早い者勝ちだろ? 」お互いに新興の商人であり向上心が強くライバルよりも先に業績を伸ばそうと気を張っていたのであった。どちらが先に契約をとれるのか勝負することになった。



 一週間の営業が終わり話し合う一機たち。

「しっかし、屋台の規模だとあまり利益が出ないな。」芽衣子の店は屋台としてかなりの利益を出していたが、あくまで屋台としては大きな利益であり、大量の水晶を買うにはまだまだ足りていない。

「ごめんなさい。」

「謝らないといけないのは俺のほうだ、芽衣子さん一人に仕事をさせて。俺としても、大工や機械工の応募を受けてるんだが、スラム街に住んでいるから実力がないってみなされるんだ。」何とか仕事を見つけたい一機であった。

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