第1章 第6話

「ツヨシさん、おかえりなさい。そちらの方は?」クレーター盆地の端にあるツヨシたちの住処にやってきた一機たちは若い女性に出迎えられた。周りには武器の手入れをしたり、サボテンをすり潰してドリンクを作ったり、いろいろなことをしているツヨシの仲間が大勢いる。本来地表であっただろう高さから下に五十メートル程のところにある直径十メートル程の奇麗な円形でなめらかな壁の東に向かって伸びているトンネルがツヨシたちの住処であった。最初にクレーター盆地にやってきた人曰くこのトンネルは最初からあったそうだ。以前このトンネルを探索した者がいたが、歩き続けても端が見えることはなかった。このことからここから東に百五十キロほど離れたところにある商業都市オメガまで続いているかもしれないと推測される。商業都市オメガならトンネルがあってもおかしくないが、だれが何の目的で荒れ果てたクレーター盆地まで大きなトンネルを掘ったのかはツヨシたちにとって大きな謎であった。閑話休題。


「こちらの方は新しく仲間になった造田一機と恋人の須長優姫と姉の造田芽衣子さん。そしてこいつが、石倉依里。」怪しまれないように恋人と姉ということにしてもらった。

「私はツヨシの婚約者で幼馴染の石倉依里です。」やたらと婚約者というところを強調しつつ依里さんが自己紹介をした。

「一機だ。よろしく。」

「優姫です。」

「芽衣子と申します。」

「一機はスゴいんだぜ、このカバンの中にありえねーくらいの食料が入ってんだ。」テントをカバンに直していたら興味を持たれてツヨシに異次元カバンの紹介をした。

「そうかしら? あまり入ってるようには見えないわ。重くもなさそうだし。」

「そう思うよな? 依里、俺もそう思った。一機、説明してくれ。」


 カバンの中身を一パーセントほど出しながらカバンの説明をしたあと、依里は驚いて開いた口が塞がらなくなっていた。

「すっ、スゴい。いっぱい出たね。」

「依里、勘違いされるようなコトを言うのはやめろ。」

「えへへ。それにしても、こんなにスゴいものを持っていてもあの人達には勝てなかったのね。」

「依里、一機たちはアイツらに連れてこられたわけじゃないらしいぞ。」

「えっ、そうなの? じゃあ、なんでこんなところに? 」

「説明してもいいけど、俺だって、こんな荒れ地に人がいたことが気になってるんだが、それもこんなたくさん。連れてこられたってどういうことなんだ? ナイフのアイツも襲撃されたとか言ってたし。 俺がここに来た経緯を説明するからあとで教えてくれるか?」二人の顔が暗くなった。いや、二人だけではない。周りにいたツヨシの仲間たちも暗い顔になっている。

「嫌な過去だったら無理にとは言わないが。」

「いや、言わせてもらおう。お前だけ教えるというのもおかしな話しだ。だが思い出したくない奴もいるから、トンネルの奥で話そう。それとナイフを持ってたやつは、内藤風太郎といって俺と依里の幼馴染なんだ。」

 優姫が国王の第十四妃だということを隠しつつ経緯を話した一機たちは、ツヨシについて行ってトンネルの奥にやってきた。一機は念のため馬脚パンツという脚力を馬並みにする靴をズボンを優姫ちゃんと芽衣子さんに履かせたが、結局使う機会はなかった。


「ツヨシさん、貴方って一機と同じくらいスゴいですよね。依里さんもこんなに心強い方と婚約できて幸せでしょうね。」

「いや、そんなことはないよ。俺は依里をアイツらから守ってやれなくて、こんなところに連れてきてしまったんだ。」そう言うとツヨシは今までのことを話し始めた。


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ヴィレッジ村・半年前


「明日からおまえが村長だ、ツヨシ。」

「おめでとう、ツヨシ♡」たった今日まで村長の父親から告げられたツヨシは隣にいた依里にハグされながら囁かれた。

「ちょっ、みんなの前だろ。」

「えー、いいでしょ?」

「あとで満足するまで相手するから、やめてくれ。照れくさすぎる。」

「分かったわ。今言ったこと忘れないでよね。」そう言いながら寂しそうに離れていく依里。

「あらあら、若いっていいわね。」

「母さん……。」

未来の村長と未来の村長夫人を村民全員が温かい目で見ていた。


 このように惚気ているが、ツヨシの村での評判は悪くはない。数年前まで冬になると餓死者が出ていたヴィレッジ村だったが、ツヨシが親父から作物収穫量を管理する仕事を引き継いだときに農業改革を行ったのだ。小さいころから村を豊かにさせたいという夢を持ち農作物の育て方を研究していたツヨシは仕事を引き継いだときに、研究成果を村人たちに広め収穫量を増やした。それと同時に村長の家に地下に隠し部屋を力自慢だが遊び人の風太郎に穴掘り勝負を挑む振りをして作らせた。そして増えた分の食料をその中に隠し、王国には今まで通りの量が収穫できたと報告していた。かなりヴィレッジ村が田舎であったことと、そもそも王国の農林水産省の官僚がやる気ないこともあり視察が行われないため全く問題がなかった。冬を村人全員で乗り切れる食料を確保できたヴィレッジ村は以降餓死者が出ることはなかった。


「今日はおめでたい日だ。みんなで宴をするぞ。」

「宴~、宴~」

今日までの村長の一言で大はしゃぎをする子供たち。大人たちも楽しそうな顔をしている。この時は誰も知らなかったのだ、おめでたいと思っていた日が最悪の一日になるということを。

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