第1章 第5話

「命が惜しくないのか?」そう言いながら一人の男がナイフと突き出してきた。敵は五人、それに対してこちら側は芽衣子さんは戦闘非対応の一号さんだから戦えるのは俺一人。この状況は非常にマズイ。異次元カバンから拳銃を出すのがいいかな? 相手に飛び道具がない以上早撃ちならなんとかなるか? 



 そのタイミングで更に一人──五人組と同じ装備をした五人組より体格の良い男が近づいてきた。こいつらのリーダーか?

「おい、お前何を言いやがんだ! 俺たちは腹を満たすために盗賊になったんであって、欲望のためじゃないだろ!」

「へっ、お前こそ何言ってんだよ。そんなもんどうでも良いだろ? いつ死ぬか分かんない命なんだ。そんくらい楽しもうや。」リーダー男とナイフ男が言い争い始めた。

「ダメだ。そうすれば俺たちの村を襲ったアイツらと同じじゃねーか! そこの旅人さん、見たところ食料の余裕がありそうだが、頼む、少しだけ食糧を分けてくれないか? もちろん譲ってもらえなくても危害は加えない。部下の無礼を許してほしい。お前ら、武器を捨てろ。」そう言って男は持っていた斧を放り投げた。そうか、食料だけなら譲れないことはないが……。

「はぁ? そんなこと言わないで略奪した方が早いだろ。大体、お前いつも偉そうに指図してくんのムカつくんだよ! 腰抜けが。」

「「「「俺たちもアニキについて行きます。」」」」どうやら取り囲んでいる他の四人もナイフ男の味方のようだ。

「ほら、お前が間違ってたんだよ。」そう言いながらナイフ男がリーダー男に近づいていった。しめた、包囲に穴ができた。優姫ちゃんと芽衣子さんの手をそっとつないで目配せした。芽衣子さんは察しているらしくうなずいたが、優姫ちゃんは頬を赤らめている。優姫ちゃんと芽衣子さんを引っ張ってナイフ男がいたスペースから抜け出した。囲まれてなかったらこのくらいの盗賊くらい余裕で相手にできる。

「テントの中に逃げてくれ。」また男たちに囲われてしまわないようにテントに向かうことにした。このテントの布は長いカーボンナノチューブに防火加工を施した造田家秘伝の糸──イトツヨ糸(「いとつよし」と読む)──を編んで作られているから余程のことがない限り問題ないだろう。

「おい愚図、お前のせいで逃げられたじゃねーか。」

「そもそも襲うべきではないがあえて言わせてもらおう、お前が隙間を作ったからだろ。」

「なんだとっ! 」そういってナイフ男はリーダー男にナイフを構え、飛びかかった。


「おい、四人と対しているのにわき見とかずいぶんと余裕そうだな。」テントの入り口の前に立ち盗賊団の侵入を防ぐ一機。その前と左右で威嚇する男三人と裏からテントを破ろうとして苦戦する男。男に対抗するために一機は異次元カバンの中から拳銃を取り出した。この拳銃は弾倉が異次元カバンの中身とリンクしており、異次元カバン内の十万発の弾丸が無くならない限り自動で弾丸を補充する仕組みになっている。

「ずいぶんと物騒なもん持ってんじゃないか。だがそんなもん近接戦に持ち込んだらあまり使えないだろ。」そう言って一機の正面にいた男が距離を縮める。一機の鳩尾に向かう男のレイピア。しかしレイピアは一機の鳩尾にたどり着くことはなかった。一機はレイピアを躱しながらレイピア男の頭を拳銃で殴り、気絶させたのだ。それを見た両脇にいた男たちは同時に一機にとびかかった。男たちの手には短剣。左右から刃物をもっって攻撃するとどうなるのか──躱されるとお互いの刃物が刺さることになる。──はずだったが、一機は飛んでくる男たちの手首を少しだけつかんで軌道修正し、刃物が刺さらないようにした。──ただ、男たちはお互いの鼻で正面衝突するようにしておいた。戦意は失われたと思うが念のため鼻血を流しながら悶絶する男たちの頭も拳銃で殴り気絶させた。

「何の音だ? 」そう言って裏でテントを破ろうとしていた男がやってきた。

「ひっ、許してくだせぇ。」裏男は三人が一瞬で気絶させられているのを見て降伏してきた。一機は男四人をイトツヨ糸製のロープで縛り上げ、結び目を接着剤で固定した。



 肩で息をする痣だらけのナイフ男、頬の新しいかすり傷から血を滲ませながらも余裕そうな表情のリーダー男、二人に近づく一機。

「手伝おうか?」リーダー男に加勢しようと声をかける一機。

「ひっ、アイツらはどうしたんだ?」

「余計な手を出すな、これは俺たちの問題だ。」

「そうか。分かった。グッドラック。」一機は傍観することを決めた。


「どうした? 最初の勢いがなくなってるぞ。これだけ疲労度に差があるんだ、リーダーになるのは諦めろ。」

「うるせー。俺は、貧しい奴らにピーしたり、女どもをピーしたり、ピーしてピーしてピーしまくりたいんだ。」コンプライアンス的にアウトなことを延々というナイフ男。

「そんなことするために盗賊になったんじゃねーだろ。」ナイフ男の右頬をビンタするリーダー男。

「うるせー、力こそすべてだ。俺はこの力を使ってピーするんだ。」ナイフを振り回すナイフ男。それをいなしたり躱したりするリーダー男。

「その力で俺に負けてんだろ。」そう言って、ナイフ男の鳩尾を思い切り殴るリーダー男。ナイフ男にはもうそれを躱す体力も耐える体力も残されていなかった。

「うっ! 」それがナイフ男の今日の最後の言葉だった。



「ふん、脳筋の部下を持つと苦労する。」

「お見事。」笑い合う一機とリーダー男。

「お前がアイツら四人を倒したのか? 」

「三人だな。一人は降伏した。」

「まったく、腰抜けはどっちだ。お前強いんだな。」

「体力には少し自信がある。」

「俺は石賀ツヨシってんだ。良かったら俺たちの仲間にならないか? こいつら以外にも仲間がいるし、こいつらと違って気のいい奴らだ。こいつらの悪いうわさを聞いて監視してたんだが、巻き込んで済まなかった。今は食料に余裕があるみたいだが、こんな何もない荒れ地にいるのにお前たちの移動手段が見当たらない。生活に行き詰まるのは確実だぞ。俺たちで助け合わないか? 一人よりみんなのほうがいい。」

「まぁそうだな。造田一機、よろしくな。」芽衣子さん三号のバッテリーも修理しないといけない。そのためには鉱物も掘らないといけないし、人は多い方がいい。それにこんな盗賊たちがテレビや新聞を見れるとも思えないし、優姫ちゃんのことは流石にないだろう。念のため盗聴器を仕込んどいたほうがいいか? 

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